第31話 竜に差し出された暗号文
つい先ほどまで希望の光の中にいたのに、今、クリフは絶望し、
彼はこれまでその人生において、邪魔な存在はラト・クリスタルだけだと思っていた。
それは
が、いつの間にか竜人公爵という、どうあがいても取り除きようがない異次元の存在が加わっていたのである。
ラト・クリスタルはカーネリアン邸の
「そう落ち込むことはない。僕はこれでもクリフ君が
「待ってくれ。どうしてお前がギルドでの出来事を知ってるんだ」
「僕は
「さすがに言いすぎだ」
「そうかもしれないね。風に乗ってくる竜血の君の
ラト・クリスタルはそう言ってモーリスが
「はっきり言おう。ジュリアンはクリフ君を性的な目で見ていた」
ラト・クリスタルが妙なことを言い出すのはいつものことだが、この時ばかりは返事に力がこもらなかった。
「…………そんな馬鹿な」
「そうかね。だいたい都合が良すぎると思わないかい? 君が
「まるで見て来たかのように言うんだな」
「見ていたからね」
「何だと?」
「僕が思うにジュリアンは狩りをしていたんだ。
「言っておくが、俺は男だぞ。むこうも男だ」
「性的な好みは様々だ。
なんとなく、ではあるが、クリフはジュリアンの仲間たちの姿を思い描いていた。彼らの
クリフと身長が同じだ。体格や、雰囲気も似ている。
それに、ジュリアンは妙にボディタッチが多く、仲間たちがクリフを見つめる目つきには必要以上に
「仮にそうだとしてジュリアンが、その……」
「
「ああ、そうだ。仮にだぞ。しかし、お前なんかにわかるのか? 恋愛の
クリフの
おそらく笑いかけたのである。
真夜中に
ラト・クリスタルは
「言っただろう、僕は
哀れなカーネリアン家の忠実な執事は、過去の恋愛事情を突然暴かれ、驚き
「確かに人間の感情は複雑なものだ。だが、人間の精神と肉体が密接に結びついている以上、名探偵に見抜けないものは無いんだよ。たとえば――」
そのとき、竜人公爵が明らかに不愉快そうな
「人間の心の
「これは失礼、閣下。ちょっとばかし頭の弱い僕の相棒を親切にも連れ戻して下さって感謝いたします」
「頭の弱いってなんだ!」
「だって君、あのままじゃ三日間の迷宮生活の間のどこかでジュリアンに手
「そんなことにはならない!」
「じゃあ、無理やり関係を
竜人公爵の
竜人公爵はラト・クリスタルに何事かの相談があるらしかった。領地のことであればカーネリアン夫人に話すだろうから、もっと面倒な問題だろう。
公爵は
「先日、王都に滞在していた
「それは
竜人公爵は一通の手紙をラトに渡した。
ラトはじっと手紙の文面に目を走らせ、
それは珍しい反応だと言えそうだ。だいたいの事柄に置いて、眉をひそめられるのはラトのほうが多い。
クリフも
『前略 偉大なるスファレス山の
王都での
しかし、未来に対して何ら思案することがないということは、それ
閣下の知らないことなど、この世にごまんと
例えば、閣下は我が地方では名の知られたボロロフツスカのことをご
これらの事柄を全くお知りにならないということは、貴公は千年という長き時をただデロロンガに
反論があるなら、いつでもお待ちしております。
いつだってゲネです。
私はあなたのチョモチャなど全く怖くはありません。
カントリオーニ・シャラスコ・コンコルト。』
まさにふざけた文面であった。全体的に竜人公爵の批判で
「従者たちにこの手紙の内容について調べさせたが、愚か者どもめ、誰もボロロフツスカなど知らぬという。そのせいで王都への滞在が一週間も伸びた!」
公爵は怒り狂い、今にもひじ掛けを破壊しそうだった。
意図はわからないものの、差出人が相当の
この人物は
「この手紙はいったい何なんだ、ラト? 俺にはサッパリ訳がわからないが、もしかすると何かの暗号文なのか?」
「ふむ……暗号ね…………」
ラト・クリスタルは
名探偵は
「なるほど、
「おためごかしが聞きたいのではないのだよ。ラト・クリスタル。君は、王都の学者でも理解できなかったこの手紙の意図がわかるのかね?」
「正直に申し上げます、閣下。僕にはこの手紙の文言が
ラトは
「閣下には敵がおられる」
そこには、
その
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