第29話 ハンスはどこへ行った?
数日後、王都でとんでもない大騒動が起きた。
青ざめた男爵の額には血文字で《王家への
宮廷に現れた死体にか、竜の存在に対してかはわからないものの、貴族たちはすっかり
スフェン男爵はラトが
パパ卿が
そのころラトとクリフはクライオフェンからカーネリアン邸に戻り暖かな
「昔、パパ卿はよく《ハンスはどこに行った?》ゲームをして遊んでくれたんだ」
ラトは久しぶりの紅茶の香りを楽しみつつ、子ども時代を
「僕が《ハンス》と呼んで大切にしていた人形を家のどこかに隠して、その居場所を突き止める楽しい推理ゲームだ。だけどあるとき、パパ卿がとんでもなくややこしいところにハンスを隠して、天才的な知性をもってしても探し出せないことがあった。そのとき僕はどうしたかというとだね。
納屋は勢いよく燃え始め、大量の
「そしてタイミングを
「父親殺しの告白か?」
クリフはパパ卿
「違うよ。この話の
「ちなみに何歳のときのエピソードなんだ?」
「五歳だ」
推理ゲームに勝利するためだけに
スフェン男爵の
そして、そのために必要なものはわずか数枚の
*
クライオフェンの宿屋親子がエイベルの末路について涙ながらに告白したその
男爵領はまさに北方の
畑は明らかに寒さや麦の病に悩まされていて、領民の顔つきは総じてみな暗く、子どもたちの
領民たちには木の皮を
酒でもてなされたが、ラトとクリフは手をつけなかった。
もちろん、スフェン男爵が送り込んだ暗殺者の最後を知っていたからである。
スフェン男爵はラトの口から暗殺者とエイベルの死とその経緯を聞かされても、なんら
暗殺者は極めて
男爵はエイベルのことを完全に
しかしその顔色がたちまちのうちに変わるような出来事が起きた。
ラトはサイドテーブルに何通かの手紙を乗せた。
「エイベルは非常に
手紙には、アイビスをいかに愛しているかということ、しかし民を苦しめ、王家を欺く男爵を許すことができないことについて、
「確かに奴の
男爵の息子であるコーニーリアスが手紙をあらため、口走った。スフェン男爵に
「大した証拠にはなるまい。奴の
「果たしてそうでしょうか、男爵。ご
ラトは続いて、古ぼけた茶色い手帳を見せた。
コーニーリアスが手にした手紙には、念のために帳簿の写しを二つとり、そのうちの一冊をアイビス嬢に
「とはいえ、僕も聖人ではないのでね。男爵、あなたは不正を
スフェン男爵はむっつりと黙り込んでいた。
しかしこの男が邪悪な存在であることをラトは確信していた。
「あなたが王家に
それが決定的なラトの
「二パーセントではどうか?」と男爵は言った。
この世の全ての人間は、どんなに
「構いません、それで十分でしょう」
「いいだろう。交渉成立だ」
ラトは手帳を男爵に渡した。
手帳の内容を確かめた男爵は眉をひそめた。
そこには男爵が思っていたような数字の
「これは何だ? どういう意味だ!?」
「帳簿のうつしがあるというのは
「嘘だと!? 嘘で金をだまし取ろうとしたのか!?」
「金なんか僕には必要ない。あなたが自らの
「では、ここにある手紙はなんなのだ?」
「ああ、それは僕が書いたニセモノです。エイベルがアイビス嬢に送った恋文の字を
ラトは言いながら、一人用のソファの上で両手を重ねあわせ、目を閉じた。
「さて。竜人公爵、出番ですよ」
そう
鋼の
舞う煙を引き裂いて、巨大な金色の瞳が
金剛石をはるかに超越する
銀色の
次の瞬間、スフェン男爵は腹部を食い裂かれ、血
コーニーリアスはというと、無情にも竜に
すぐさま屋敷から逃げ出せばいいものを、このような状況でも主人を救おうとする
それこそがエイベルが写しを取った裏帳簿の本物だ。
それさえこの世から消え去れば、後で何とでも言い訳がつくと思ったのだろう。
帳簿ごと不正の証拠をすべて
「正しく
クリフは冷たい声音で、彼の首筋に剣を突きつけながら言った。
コーニーリアスは絶望し、青ざめて、この世のどんな生き物よりも
このときコーニーリアスから奪った裏帳簿は現在竜人公爵が保管している。
王陛下は近く、裏帳簿と引き
パパ卿の
国王陛下の
それについて、パパ卿は手紙にこう
《少々やりすぎだよ。知性の力はあくまでも王国のためにあるということを忘れないでくれたまえ、僕らのかわいい息子よ》
これら全ての
黄金像に隠されて竜血の君へと
「パパ卿は少し
ラトはこの件についてそのようにコメントしたが、明らかな
一連の事件の
そして竜ならではの狂暴さをいかに
カーネリアン夫人は竜人公爵という強大すぎる後ろ
《ハンスはどこに行った? おわり》
・新しい鉱石技能 《知識の限界》レベル1
ラトが観察した対象物を画像として保存し、いつでも取り出せる能力。
あくまでもラトが観察した結果を出力するのみで、証拠能力はない。
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