第25話 クライオフェン村
こうしてラトとクリフはちょっとした小旅行に出かけることになった。
竜血の君の居城があるのは王国の
地図を確認すると、
ただし、それは移動速度と引き
目的地に到着したとき、クリフとラトはふたり
二人は
なぜ彼らが
このふたりをクライオフェンまで運んできた問題の乗り物というのは、なんと変身を解いた竜血の君自身だったのだ。ラトとクリフの二人は公爵位を持つ竜の背に
その旅路は
結局、ふたりは険しい山岳地帯の奥にある竜人公爵の居城に辿り着くことなく、その手前のクライオフェンに降りて
「エストレイたちの寒冷地装備がなければ死んでいたかもしれない……」
クリフは
ラトとクリフはカーネリアン邸を出る前、夫人の
母親のもとから息子の
「人間は魔物よりもずっと
竜人公爵は宿の主に差し出された
旅費がかからないかわりに
そこに宿の娘が
何か体が温まる飲み物を、と言って頼んでおいたものだ。
「なんだ、酒じゃないのか」
「お酒だとかえって体温が下がりますから……」
娘は竜人公爵が恐ろしいのか、床に視線を落としたまま
「お嬢さん、君は竜血の君の城にあるという死体について、何かご
ラトが寒さで強張った声で訊ねると、娘は「いいえ、私は何も知りません」とか細い
「そう。それが誰なのかもご存知ではないのかな?」
「ええ、もちろんですとも」
そう言って彼女は目を
クリフはラトほうへ体を寄せた。
「いいか、ラト。知らなかったようだが、若い女性に死体について話しかけたりすれば、気味悪がられるに決まってるんだ」
「
「それは単なる
「挨拶ねえ……。僕は単なる挨拶をしたつもりはないけど。ところで、閣下、例の遺体のことは村の方々に既にお伝えになったのですか?」
竜人公爵は
「ああ、ちょうどこの宿の主に訊ねてみた。
返事を聞いてなお、ラトはじっと考え込んでいる。
「ねえクリフくん、僕はこれから、閣下の城にお邪魔しようと思う。だけど、僕が思うに、君はこの村に
「どうしたんだ、いったい」
「君も閣下の城に置かれた黄金像と遺体の謎に興味があると思う。だからこんなことを言うのはとても心苦しいんだけど、城に上がったら、僕は遺体の
解釈をするのに時間がかかる
脳細胞がかちんこちんに
「いや、全然、興味ないから苦しまないでくれ。ぜひとも俺をこの村に置いてきぼりにしてくれ」
「そうかい? ついでといっては何だけど、君にちょっとした用事を頼んでも構わないだろうか。夜には君も気になっているだろう遺体の詳細な情報を持ち帰ってみせるからね」
永遠に帰って来なくて構わない、とクリフは思った。
この何週間か、ラトの
竜の
しかしよけいなことは口にすべきではない場面だというのは明らかだった。
クリフは暖炉の火に当たって
「そんなにあせらなくても構わないさ。その用事とやらはきっちり果たしておくから、お前はじっくり好きなだけ遺体を切り
「ほんとかい、クリフくん。やっぱり持つべきものは相棒だね!」
このときだけは相棒という言葉を否定しなかった。
心の中では否定していたが、
こうしてラトは上機嫌で、簡単だがなかなか面倒な仕事をクリフに押し付け、城に向かった。しかし、面倒な仕事とラトとどちらがいいかと言われれば、面倒な仕事だ。間違いない。
竜血の君が変身を
巨大な竜の姿が、スファレス山の向こうにちらりと見える灰色の城にすっかり消えてしまうと、クリフの目には世界中の全てが輝いて見えた。
色彩というものが
粉雪がまう灰色の
最悪の旅だと思いこんでいたが、思わぬところに楽園はあったのだ。
クリフは勝った。何に対しての勝利かは今ひとつわからないが、確かに勝った。彼は
自由だ。
このとき、満面の笑みを浮かべているクリフを、広場の影から見つめる
だが、そのことに彼はまったく気がついてはいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます