第24話 竜人公爵
かつて王国北部の
この竜は縄張りに足を
これを
こうして追い込まれた王家はとんでもない
この悪竜に公爵の
公爵といえば王に
悪竜のほうも王家に下った形になるものの、金塊をたらふく手に入れることで公爵位を
以来三百
その竜人公爵が、
「もはや
ふん、と仮面の依頼人は明らかに気分を害した様子で鼻を
「
仮面の下から耳をつんざく竜の
体のどこから出ているのかわからないが、あまりの大音響にクリフは思わず後退した。ラトも
その
それまで伝説を目にしていることをどこか
「
依頼人は仮面を
黄金色の髪の毛がこぼれ出た。続いて
まっすぐな
「どうやらパパ卿が君を推薦したのは間違いではなかったようだ。彼は君のことをこう呼んでいたよ。《私たちの
「当然のことです。では、僕を信頼して依頼について話をしてくださるのですね」
ラトは先ほどの咆哮がまだ耳のなかで反響しているらしく、迷惑そうな素振りだったが、竜にも公爵の称号にも
クリフはというと、部屋に置いてきぼりにした剣の存在が恋しくてたまらなかった。何しろ、この大陸で最も凶悪かつ
「もちろんだとも。だがくれぐれも忘れないでくれたまえ、これはまだ
「もちろん心得ております。ここにいるクリフくんも口の軽い人物ではありません」
先ほどの咆哮で腰が抜けたままになっているモーリスを下がらせ、部屋にはクリフとラト、そして竜血の君の三者だけになった。ラトの観察眼を信頼してか、いくらか軽くなった竜血の君の口からは、探偵が聞くに
「実は今、我が
たっぷりと皮肉をまぶした竜人公爵の
「
「ふん、そういうものかね」
相変わらず竜人公爵は不愉快そうで、
どれだけ態度がでかくても、そのへんてこな服の下には
「そういうものなのです。さて、遺体は、閣下への恐れを知らない挑戦者のものですか? 竜を倒して名を
「いいや、我が城に来たときにはすでに死んでいた。死体の状態で運ばれたのだ。それにやつの死体は黄金像に入っていた」
「黄金像? 閣下のコレクションのひとつでしょうか」
「ほんものの黄金ではない。木をくりぬいて色付けしたハリボテだ。年に一度の祭日に領民たちが
竜人公爵は爵位と領地を得たときに、いくつかの村をも手に入れた。
竜の存在は村民たちを
竜人公爵が好むのはもちろん黄金である。が、
そこで、ろくな税も取らずに領民たちを自由にさせていたところ、いつの間にか村は
領主が農民に課す重税さえ無ければ、彼らは働いた分をそのまま
このことに感謝した村人たちは年に一度、
金貨はないが、そのかわりに村一番の美女が竜人公爵に
その方法というのが一風変わっている。
村人たちはハリボテの黄金像をつくり、その中に着飾った美女を隠して連れてくるのだという。
「私も初めのころは、まあ、折角だからと思って食ってみたりしたんだが、美女というのはあまり
しかしその申し出を竜人公爵の
「それからというもの面倒だから放置していたのだが、今回、久々に中身入りの黄金像が届けられたというわけだ」
「久しぶりというと?」
「二百年くらいかな」
クリフは
竜に王家が敗北し、苦しい
「これは純粋な興味からの発言ですが、閣下。死体のひとつやふたつ、閣下の
ラトは妙な半笑いで言った。とてもそうは思ってなさそうな顔つきであった。
「君たちは私のことをおとぎ話の存在だと勘違いしているようだな。確かに三百年前はそれで全ての物事が解決しただろう。
「というと?」
竜人は邪悪なしたり顔で言った。
「
「じつに
「その遺体が城にあることで、こちらの立場が
「なるほど、遺体を差し向けたのは閣下をおとしめたい
竜人公爵は重々しく
「そこのところを
「では遺体について詳しく話してくださいませんか? 男か女かとか……どんな風体だったか、思いつくかぎりです」
それまで
「男……男だろうな」
「太っていましたか? それとも
「ううむ。私に人のことがわかるはずないだろう。太っていようがいまいが、竜の目には同じに見える!」
悲しいかな、それが竜と人との圧倒的な差だった。
クリフは
それほど大きな生物にとって、人間の大小は
竜人公爵の変装が
「そうですか。これは提案なのですが、閣下。僕を閣下の居城に招待してくれませんか?」
ラトの提案に面食らったのは、竜人公爵ではない。
もちろんクリフのほうだ。
「おいおい、聞き間違いじゃないだろうな、ラト。俺にはまたお前さんが、何かとんでもなく
「僕は
「竜の
「ほかのどこに行くの? 構いませんよね、閣下」
「もとよりそのつもりであった」
竜人公爵は頷いた。
「ありがとうございます。そうと決まれば、君も準備したまえ、クリフくん」
「俺が? 何故?」
「探偵の相棒ってものはね、どこに行くにもついて来て何くれとなく探偵の手助けをしてくれるものなんだよ」
「なんでだ!? 俺はお前の相棒じゃないぞ!」
「じゃあ助手」
「言い方の問題じゃない!」
ラトが迷宮街を去り、危険極まりない竜の巣のど真ん中に飛び込むというのは、クリフにとっても歓迎すべきことだ。
これでカーネリアン邸の人々は安らかに眠れることだろう。
しかし、クリフまで道連れにされる道理はない。
ラトは溜息を吐いた。
「じゃあ言わせてもらうけどね、クリフくん。君は最近、カーネリアン夫人の
ラトはさも「言ってやった!」みたいな顔つきだ。
「…………はあ?」
「ここ何日かの君といったら、胸に手を当てて考えてごらんよ。くだらない冒険者仕事さえしないで、演奏会だの、賭け事だの、演劇だの。
ラトはラトであった。
クリフはちょっと考えてから、
ラトはほんの少しのあいだ放心し、その後に「痛い! パパ卿にもぶたれたことないのに!」と叫んだ。クリフはまだ見ぬパパ卿に思いを
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます