第13話 ミイラはどこに行った?・下
ラトが向かったのは商人たちがひしめく市場である。
ガルドルフ邸に
「こんなところにほんとうにシネーラの
「もちろんだともクリフくん。僕の考えが正しければ、このあたりにシネーラ嬢の過去を知ってる人たちがいるはずなんだ。それを探してるんだよ」
「お前の考えとやらが俺には
ラトと親しいと思われるのは、クリフにとっては殺人容疑で
自分の身に降りかかった
「じゃあ、しばらく君は見ていてくれたまえ」
ラトは
店の種類は屋台に品物を並べただけのものや、きちんとした店舗を備えているのものなどいろいろだが、ラトが選んで入っていくのはいずれも《レガリアの取り
店の
迷宮の中から冒険者たちが苦労して持ち帰るのは
店頭に並んでいる品のうち、
この市場では新品の取り扱いは少なく、中古品が多い。
もちろん、たとえ中古であっても、クリフが三か月は飲まず食わずで大掃除を続けなければ手に入らないような値段だ。
ラトは店から出てくると「次が最後になりそうだ」と言った。
「最後くらい、ちょっと手伝ってもらうからね」
そう言って迷いなく市場の奥へと進んでいく。
ガルドルフ邸の入口にほど近いところに細い下りの階段があり、半地下の狭い廊下に三軒ほどの店の入口があった。
その行き当たりに、
ラトは何の緊張感もなく、扉を開けて入って行った。
あまり
正面のカウンターに
しかし三秒後には、来客の存在を
それはそうだ。いまのラトの格好はレガリアを求めにやって来る冒険者の服装からはかけ離れているが、金持ちのそれであることは間違いないからだ。
「ようこそ、見慣れないお
クリフは棚にならんでいるレガリアをしげしげと
確かに、店主が言う通り、ここのレガリアはほかの店の相場よりも二割ほど
「今日はレガリアの買い取りをお願いしたいんです」
ラトは若い娘の声でそう言った。
いつも細い声だが、それよりさらに
「ほほう、どれどれ……」
「上等の品ですが、信頼のおける方にしか見せるつもりはありません」
老人が袋に手を伸ばすと、ラトはその手を押さえた。
そして、かたわらでぼんやりと会話を聞いていたクリフが飛び上がりそうなことを言い出した。
「これはエストレイ・カーネリアンのレガリアですのよ」
ラトがあげたのは二人のよく知る死者の名前だった。生前は迷宮街一の有名クランのリーダーで、カーネリアン夫人の息子でもある。
「エストレイたちがどれくらい高価なレガリアをコレクションしていたか、ご
「ラト、おまえ、いつの間にそんなことをしでかしてたんだ!?」
「私、これを売り払って、この方と
恩人の顔に泥を
いや、ウソなのかどうか、クリフには自信がなかった。
店主は驚き、
「お嬢さん、なんてことを言うんだ。うちは真っ当な商売をしているんだ。盗品の売買なんかできるわけないよ。そんなことをしたら、衛兵やギルドが黙っちゃいない!」
途端にクリフはこの店主が
「俺もそう思う。店主の言うことが正しい」
部屋中の人間を敵に回しても、しかし、ラトは引き下がらない。
「嘘だね。彼は嘘をついてるよ、クリフくん。この店の商品のほとんどは、あまり
すると店主は少しだけ黙りこみ、そして
「お嬢さん、今すぐ帰りな。痛い目に
「その必要はない。むしろ僕は今すぐ、痛い目に遭わせる奴らに会わせてほしい」
そのとき店の扉を開ける音がした。
複数の人の気配がする。クリフは振り返った。
あまり人相のよろしくない、黒ずくめの男たちが四人、出口を
「銃だ」
クリフは
「そうだね。クリフくん。銃だよ。リボルバー式で五発まで
ラトは、いかにも《わかりっきたことだ》とでも言いたげな顔をしている。
冒険者はあまり火薬による武器を持たない。魔術のほうが
「ラト、お前、いったい何をしたんだ?」
「さっきの話を市場中のレガリア専門店の店先でしてきた」
「俺が聞きたいのは、何故そんなことをしたってことだ!」
「明らかさ。シネーラ嬢は違法な盗品レガリアの売買に関わっていたはずだからだ。彼らはシネーラ嬢の闇に包まれた過去まで僕らを案内してくれる水先案内人なんだよ」
「最初に言ったよな。俺は手伝わないぞって!」
「僕は淑女だよ? それは紳士としてはあり得ない態度だよ」
武器はたっぷりと砂を詰め込んだ、重たい革袋だ。
手軽に調達できるうえ、まともに当たれば大人ひとりのあばらを折ることも、頭を殴って
するともうひとりが仲間ごとクリフを突き飛ばし、
「ラト!」
重たい
だが次の瞬間、この
ほんの一瞬のことだったが、クリフからは男が無造作に踏み出した足首に、金色のものが
「淑女はどこに行ったんだ!?」
言葉にならない
男の足に絡みついたのは、いつもラトが手にしているステッキだ。
「これが淑女のやり方だよ」
ラトはステッキを構え、襲い掛かってくる男の
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