第14話 灰色の男
灰色の男が座っていた。
男はずんぐりした
四角張った顎のあたりには
男は金の
そこにラトとクリフがやってくると、新聞をひょいと放り出して舌打ちし、
「どこかの馬鹿たれが、俺の店でわけのわからない
クリフはにっこりと笑ってラトの肩を軽く叩いた。
ラトは「まさか
「ふむ。もうひとりの部下は、
クリフはまじめな顔で「まさか
ラトたちは、あちこちに
彼らはラトとクリフが叩きのめした中古レガリア店の用心棒四人組の、その仲間たちだ。
目の前にいる
もちろん闇の世界の住人であろうことはクリフにも簡単に想像がついた。
ナミル氏はするどい
「それだけのことをしでかしたなら、俺だったらいますぐにでもケツをまくって街を逃げだすぜ。わざわざ親切にもけがをした部下をアジトに運んできてくれるとは、ちょいとおつむが
クリフもこのナミルという男とまったく同じ意見だった。ラトはガルドルフ邸の
「知らないかもしれないから教えとくが、ラト、こいつはやくざだ」
「もちろん、知ってるよ。やくざ者じゃなかったら、わざわざ会いに来る必要なんてない。どうもお
ラトはおおまじめに言った。少なくとも顔つきはまじめそうだ。
ナミル氏はじっとラトのことを
「俺は誰の
クリフは重ねて主張した。
さっきの
「でも
ラトは
「お前たち、死にてえのか?」
ナミル氏は
「どこのどいつか知らねえが、赤毛のとっぽい兄ちゃんと、ジャルーダ産シルクのおべべを着たお嬢ちゃんが、俺の部下の骨と前歯を折りくさって、生きて帰れると思ってやがるのか」
「あなたがそうしたいなら、僕たちも
「馬鹿言え、サリビア産のシルクってのはな、もっとこう、カスタードのような色の
瓶に入った液体とキラキラしたガラスの破片がそこらじゅうに飛び散って、部屋の温度を少しばかり下げた。
そのとき、いささか
「あなた、ずいぶん
ナミル氏は思わず自分の
クリフもそちらに目をやった。確かに、全身が灰色に
「だから何だって言うんだ!!」
ナミルは力いっぱい
荒くれ者の嵐のような怒りはそれだけでは
彼は分厚い
その瞬間、この部屋にあるものはすべて、
クリフは泣き出したい気持ちだった。あしたの朝、自分の死体が迷宮街のドブ川にうち
「おい、ラト。
こんな目にあうなら、
けれど、ラトは
「大丈夫だよ、クリフくん。彼はたぶん、僕たちを奥の部屋に案内して、もてなしてくれるし、親切にシネーラ嬢のことを教えてくれると思う」
「いいや、俺はそうは思わない!」
「もてなして、僕たちの話を聞いてくれますよね? ナミル氏」
ラトのわけがわからない申し出に、ナミルの怒りはいよいよ頂点に達しようとしていた。
彼の顔は真っ赤に
「なんなんだてめえ。気が狂ってんのか!」
「いいえ。確信があるんですよ。ちょっといいですか」
ラトはナミルのほうに顔をよせ、何事かを
それはまるで
しかし、想像したことは起きなかった。
ナミルは立ち
そこには真っ暗な空間がある。
「
うむを言わさぬ
*
地獄の入口だろうか。
それとも、この先には
永遠に続くかと思われた隠し通路の先に、ナミル氏の個人的な仕事部屋があった。
部屋の正面には非常に大きな
ナミルは姿見の前に
「用件を聞こう」
と、彼は言った。
「どういうことだ、ラト。おまえ、何を言ったんだ?」
クリフは恐怖に引き
「ナミル氏の許しがあるなら、
「まあ、いいだろう」
ナミル氏はそう言ってクローゼットの扉を開けてみせた。
その扉の内側は
ただし、女性もの、とひとことで言っていいかは不明だった。
それらのドレスは、ふつうの女性のものより明らかにサイズが大きすぎるのだ。
「確かにこいつは俺の趣味だが、誰も知らない。どうしてわかったんだ?」
ナミル氏は
「爪を整えていたからか?」
「それも
「
「ほかにも参考になりそうな事実はありますよ。あなたの
ラトに言われて、クリフも気がついた。言われなければ、単なる汚れだと思うような
「それは
「おお、これに気がついたか。部下のバカどもは誰も気がつかないってのによ」
ナミルは何故か
「つまり、どういうことなんだ?」
クリフは混乱しながら、ラトに助けを求めた。
「僕はあのとき、彼にこう言ったんだ。《あなたの心は女性そのものですからね》って……。彼は女性だ。見た目はちがうが、心はそうなんだ。あのドレスこそ、彼女が着るべきほんとうの衣服だ」
その言葉は、クリフにとっては裏社会を
「クリフくん、君は最悪の事態を想像しているのだろうね。僕も彼の弱みを利用した
「命が
ラトはうなずいた。
「僕たちはシネーラという冒険者と取引をしていた裏社会の人間を探しています。どうでしょう。話を聞いてくれたら、そのお礼に僕があなたをエスコートして、ワルツを
「そのまえに、お前さんはいったい何者なんだ」
「僕はラト。名探偵ですよ」
「メイタンテイ?」
「優れた
ナミル氏はいかにも理解し
「シネーラ嬢について聞かせてください。彼女は誰かと組んで違法なレガリアの売買を行っていたはずなんです」
ラトはここまで来た
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