第12話 ミイラはどこに行った?・上
「それは
「やらなければならないことがあると言っただろ?
「ギルドの受付係を? なんのために?」
「彼はすばらしい才能を
殺人鬼という言葉の
「おそらく彼は
「適当なことをいうんじゃない」
「僕はうそをつくことはあるが、
「体を鍛えている男性が不思議か? そこらじゅうにいるぞ」
「
「そうかもしれない。だが、体が鍛えられているからといって、格闘家だという説には同意できない」
「どうかな。彼は君と話しているあいだ、ずっと君の剣をみていたよ。それか、
「いま、冒険者ギルドを、人間性の掃きだめって言ったのか?」
「そこのところは大した問題ではない。ほんとうにお気の毒だけどね、脳細胞は使わなければ
ラトの言葉遣いは、あくまでも相手のことを馬鹿にするというよりも、本気でクリフの脳細胞のことを心配しているようすだった。ラトは確かに、敏腕氏もみとめた
「ラト、お前さんがいろんなことを観察しているというのはわかったよ。それに、まんざら当て
クリフとしては、それは最大限の
どんなに気分が悪くとも、ラトのその特異な能力は身の
「ああ」とラトはまぬけな返事をする。「あれは、少しちがう。
「は?」
「君、
突然、質問をされて、クリフは自分の記憶を
「ほら、君の瞳が左側に動いた。それは
「つまり、妹がいるかどうかなんて、知らなかったってわけか?」
「この世の人間はおおよそ三種類に分けられる。妹がいる人間、そして弟がいる人間、
「なるほどな。お前のことをめいっぱい
「やめておいたほうがいい。今の僕は
クリフは溜息を吐いた。
「頼むから、一度帰って、着替えをしないか?」
「いやいや、このままがいい。僕の考えが正しければ、この件を解決するための時間的な
だったらドレス姿をやめて着替えればいいのに、という言葉をクリフは飲み込んだ。どんな軽口でも、口にした
いつだって世の中には口にしないほうがいいこともあるものだ。
*
新市街地の入口までつかまえた馬車に乗り、そこからガルドルフ邸までは歩いて行った。
ガルドルフ邸の第一階層の周囲は市場になっている。
冒険者相手に地図や
ラトは迷宮には入らず、地図売りから第三階層までの地図を買うと、それと
そこは薬局と
鍵つきの鉄扉があり、周囲は分厚い石壁で囲まれている。
鉄扉にはギルドのマークが
扉の前には衛兵が立っている。
それを見てとると、ラトはこんなことを提案した。
「クリフくん、君、ちょっと行って、そこの扉を開けてもらえないかどうか聞いてきて」
「なんでだよ。いやだ」
「君に拒否権はない。事件解決に必要なことだ」
「だとしても、変に思われるだろう」
「安心して。この状況下においては、僕たちは何をしても誰にも絶対に変には思われない。突然、
そう言って、ラトはクリフの手に
クリフは
「申し訳ないんだが、そこの扉を開けてもらえないだろうか」
衛兵はちらりとラトの方を見て、
「ドレスのおかげで、彼はきっと恋人たちの
それを聞いて、クリフはぞっとした。
そのあとに、急速にむかっ腹が立ってきた。
「そういうことなら、絶対に行かなかった!」
「そんなに腹を立てることもない。じつに興味深い結果が得られたじゃないか。地図を見てごらんよ。この場所は君がミイラを発見した
ミイラ状態のシネーラ嬢がみつかったのは地下三階の厨房、それも暖炉の中だ。
遺体は煙突の途中に引っかかった状態だった。
暖炉そのものは、迷宮内部を
衛兵が賄賂にもなびかないことはただ今、証明された。
「地上がこうも厳重に
「じゃあシネーラが
「まったく、敏腕氏を受付係として採用したことは、冒険者ギルドの
敏腕氏の功績はそれだけではない。
彼は蘇生直後のシネーラ嬢の様子を
シネーラ嬢はクリフが牢屋に入ったすぐ後に受付を訪れ、記憶鉱石といくつかのレガリアを提出し、鑑定を受けていた。
記憶鉱石には、彼女がひとりで迷宮の
クリフとエルウィンが第三階層で見た《光》はシネーラが回収したこれらの原石のものだろう。
そして、鑑定の結果、この《原石》は残念ながら《ブランク》だということがわかった。
迷宮から
そうなるとレガリアはレガリアとしての価値を
シネーラはきっと、高い蘇生費用や二年の
原石がすべてブランクだったとわかると、
「そんなこと絶対にありえない!」
そう
シネーラはそのあと冒険者ギルドを飛び出して、
どこに行ったのか、何故いなくなったのかはわからないが、そう叫びたくなる気持ちはクリフには痛いほどよく理解できる。
「迷宮内部でレガリアを発掘したんだとすると、シネーラは最低でも第六階層か、七階層まではもぐったことになる。しかもたったひとりきりで。それらすべてが《
「君、それ、自分で言ってて何かがおかしいとは思わないのかい?」
女冒険者の
「何かってなんだ」
「たとえ女神の行いでさえ、この世に《絶対》なんてないんだよ。だからこそ、僕たちはシネーラの
ラトはそう言って、元来た道へと
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