第7話 危機的状況
地下室に現れたガルシアの目は血走っていて呼吸は
ガルシアは
金色の
「なんてこと。あれは私の息子のレガリアだわ……。
カーネリアン夫人が押さえた声で言った。
胸のあたりで
ガルシアは、殺されたエストレイのレガリアまで
状況は非常に危険だった。
たとえレガリアの力が無かったとしても、ガルシアはエストレイの所属していたクランのベテラン冒険者で、実力は確かだ。
それなのに、この場にいるのは息子を亡くしたばかりの母親と、駆け出し冒険者、そして自称名探偵だけなのだ。
頼みの
「ガルシアくん、交渉しよう」
ラトはガルシアを
「ちょっとして手違いで、残念ながら女神レガリアはここにはない。だけど
「ふざけるな、俺には時間がないんだ。ここに女神レガリアが
ガルシアは
こうなると交渉にはまるで意味がないように思えた。
「このままじゃ皆殺しだ、ラト」
「カモミールのお茶でも
「冗談を言っている場合じゃないんだぞ」
クリフは夫人を背中に
それは元近衛兵隊長の演技ではない。
クリフ自身に
そのとき、
ガルシアがゆっくりと剣の柄に手をかけた。
金色の
天に向けてまっすぐに
「ああ、あれは《
ラトが
クリフは手にした剣をあらぬ方向へと放り投げ、背後を振り返って走る。
それと、ガルシアが手にした剣を
クリフはカーネリアン夫人の体を抱えて地面を
その直後、
激しいスパークが地下室を
大気を熱い炎で焼きはらい、床を
最後の一撃はちょうど、金剛石が
圧倒的な破壊力だ。
この光景を目にして、女神の偉大さに
まさしく、レガリアは人の力をはるかに越える奇跡の力の
「ちゃんと死んでるか、ラト!」
「ああ、なんとか。どうやら頭も腕も足も元の位置についているみたい」
立ち込める
ガルシアもまだまだ
なにしろ、彼に諦める理由など何一つないのだ。
次は確実に攻撃を当てて来るだろう。
万が一、再び
「おいおい、こっちは剣まで失っちまったぞ」
「クリフくん。
「馬鹿は休み休み言え、女神レガリアはもうない。現実を受け入れろ」
「女神レガリアはね……。少しばかり僕にまかせてみてくれないか」
ラトは再びガルシアに語りかける。
「お願いだ。どうか落ち着いて話をしようじゃないか、ガルシア君。何、さほどの
「何を話してくれるんだ? お前と話したいことなんてこっちにゃ何ひとつないぞ」
「ただちょっと確認したいだけなんだ。話したって君の
ラトの呼びかけによって、ガルシアの切れ長の瞳がなんとも言いようのない形に
一言で表現するならば、とてつもなく
ガルシアはレガリアという圧倒的な暴力を手にして、うぬぼれているのだ。
それでいて目の前にいる三人を
「確かにそうかもしれないが、俺はそんな
「では、こうしよう」
一瞬、ラトの瞳がきらりと輝いた。
それは彼が冒険者ギルドの地下牢に座り、
「ここで女神レガリアは手に入らないが、もしも僕の質問に答えてくれるなら、そのお
ラトは手にしたステッキをガルシアに
ガルシアは
「どうせ大したレガリアじゃない。お前を殺して
「そうかな? このレガリアは
「それは確かに珍しいな」
「そうだろう? それに、あまり強がらないほうがいい。わかってるんだよ、君は僕たちを追い詰めているようで、実は追い詰められてるってことはね」
そんなわけはない。
クリフはそう言いたかったが、だが、ラトの言葉によって、ガルシアの様子がわずかに変化した。
あれほど
ラトはガルシアを恐れることなく言葉を重ねていく。
「隠していてもわかるよ。君は
恐ろしい話だが、ラト・クリスタルが紡ぐ
「会話を続けようじゃないか、ガルシア君。君はエストレイ・カーネリアンの殺害後、すぐに迷宮街を去ることもできた。だが、そうはしなかったね。それどころか、カーネリアン夫人に殺害犯であるという
ガルシアは剣をあらぬ方向に向けて振り下ろした。
雷が
「
暴力的に
どういうわけかラトの言葉は、
真実を突きつけられたときほど、人間はみっともない
「女神レガリアを手に入れて、君はそれを闇の
ガルシアは黙り込む。沈黙は
「僕はむしろ君の
クリフは驚いて、カーネリアン夫人を見つめた。
けれども、カーネリアン夫人もラトの言っていることの
「それに、質問といっても
妙な緊張がその場を支配していた。
何故そんなわかりきったことを
ガルシアが殺害犯であるのは状況的に
ほかならないガルシア本人もそう思ったのだろう。
「そうまでして冥途の土産に聞きたいことってのが、それなのか?」
「ああ、そうだよ。もちろん、君が犯人だというのは僕も確信してる。他のメンバーも協力関係にあったとは思うけど、手を
「ふざけるな。お前……いったい何をたくらんでる?」
「何もたくらんではいない。心外だなあ。あのね、僕はね、いついかなるときも自分自身の正しさと知性を証明したいんだよ」
ラトはこうしている今も
「僕は世界で一番優れた
ごく短い間ではあったが、その場に何とも言い
そして、
命を
よくよく考えてみれば、自分の
ここに来てクリフは、ラトがこの非常事態を何とかしてくれるかも、という
クリフは音を立てないように少しずつ、床に転がった自分の剣のところへと移動する。
「ああ、殺した……。エストレイを殺したのは俺だよ」
ガルシアは吐き捨てるように言い放った。
「それが何だって言うんだ、キチガイの変態め」
「そう。やっぱりそうか。その言葉が聞けてよかったよ」
ラトはほっとした表情だった。
「では、約束通りこのレガリアを使用する条件を教えよう」
ガルシアがクリフの
ラトが手にしたステッキには、ある変化が起きていた。
「僕の
光はどんどん強くなり、所有者の全身を
「よく聞きたまえ、使用条件は所有者が《知性》を証明することだ。その力の
ガルシアは目の前で起きている異常な出来事に
だが、もう遅い。
ラトははじめから、自分のレガリアを渡すつもりなどなかった。
ただレガリアを発動する条件を
「これをもって、レガリアの力を《解放》する! 犯人は君だ!」
ラトはステッキをガルシアに向ける。
ラトを
「うわあああっ――――――!?」
ガルシアは
勝利を確信しているかのような
だが、実際の結末は
何も起きなかったのだ。
その場で目を見開いたガルシアはまだ
ただそれだけだ。何も変化はない。
「なんだ、何も起きないぞ……? こけおどしか?」
「いや。僕がするべきことはすべてした。こけおどしかどうかは自分の体で
ガルシアはこのときようやく、クリフがこっそりと自分の剣を回収していたことに気がついた。
「ガルシアっ!!」
クリフは剣を構え、ガルシアとの距離を
ガルシアは剣を振りかぶった。
レガリアの力で
しかし、クリフたちをあれほどまでに恐れさせた雷の力はいつまで
何度剣を振るっても、レガリアは沈黙したまま、ぴくりとも
二人の対決を
「あ、そうそう。言い忘れていたけれど、それが《名探偵》レガリアの力なんだよ。聞いてないかもしれないけどね」
クリフはガルシアの
ガルシアもレガリアが発動しない以上、手にした剣で戦わなければいけないと覚悟を決めたのだろう。クリフの剣を迎えうつ。
何かの間違いで雷撃の力が
クリフは反撃できないよう、剣を叩きつけるように乱暴に振り下ろし、力まかせの
流石にベテラン冒険者のガルシアは、単純で
ラトを信じ切れず
「
ガルシアがニヤリと笑う。
大振りの攻撃には
クリフの力まかせの攻撃を防御しようとして、ガルシアは剣の切っ先をわずかに上げた。
この攻撃を
しかし次の瞬間、クリフの剣の切っ先は空を飛ぶツバメのようにひらりと方向を変え、
こうなると、防御しようとしたガルシアのほうが体の前面を大きく開けることになり、
「しまった……!?」
クリフは
それまでの
おそろしく冷静で、
そうしてガルシアを襲った
ガルシアは痛みを感じるよりも先に
まるで剣の天才を相手にしているようだった。
ガルシアだけでなく、あまりにも
いつもよりも剣に速さと力がある。
今なら、
そのとき、カーネリアン夫人が
「クリフくん! ご婦人の前だぞ!!」
ラトの呼びかけにクリフははっと我に返った。
そして
剣のかわりに
クリフの拳は、あごの骨を
ガルシアの体が
そうして、ガルシアは背中から出入口の扉に叩きつけられ、大穴を開けて止まった。
クリフは
それほどの
あきらかに何か別の力が働いている。
「不思議がることはないよクリフくん。《名探偵》レガリアの鉱石
ラトが何でもないような顔で言った。
この結末はすべて予想通りだとでも言いたげだ。
「僕を追放したやつらは、本当に馬鹿だったね」
「いや、それは、
「そう? まあ、君が言うならそうなのかもしれないね」
ラトは、役目は
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