第2話 投獄
この世界は
世界のはじまりに四つの約束を交わした
そのうちのひとりであるアンドレアス・アレキサンドライトは冒険者で、彼が女神の栄光と共に
狭苦しい
日が暮れるとオレンジ色の
昼の
彼らの足音は美しい街のその、さらに奥深く、
石組で
それも、冒険者ギルドのギルドハウスの地下にある牢屋である。
「僕は何ひとつまちがったことはしていない。そう、この良心に
ラトは
その両手には重たい
手枷からは
まごうことなき、捕らわれの
牢屋に繋がれた者はたいてい、その身に起きた出来事を嘆くものだ。
しかしその嘆きの内容は、ラトの場合は明らかに
彼の話ぶりを同じ
彼の名前はクリフ・アキシナイト。
革鎧をまとったごくふつうの青年だ。
やや長い髪は頭の横で編んで、赤錆色をした毛先を黄色く染めた
迷宮街ならどこにでもいる、いかにも田舎から出てきたばかりの駆け出し冒険者といった
「待ってくれ。つまり…………お前は、パーティの仲間を殺して
クリフはゆっくりと
必要以上にゆっくりと言葉を
ラトはかぶりを振った。
「殺してはいない。彼らを殺したのは第四階層、《神秘の泉》に
「たとえそうだとしても、お前さんは死んだ仲間の遺体を……」
「わかりきったことを何度も繰り返さないでくれたまえよ。仲間の死体を解剖したんだ。でもそれだけだよ。何も問題ない。迷宮内で死んだって、女神の
問題はある。
迷宮内での事件と冒険者の
じきに、ラトは裁判にかけられる。そうなれば
「それだけのことをしたら一生牢屋から出れないぞ。へたをしたら死刑もあり得る。いや、たぶん、死刑になる。まちがいなく」
「何故? この
人類はそれほど知性に
もしも同じ秤にかけたとしても、倫理が
知性が勝つと信じている時点で、目の前の少年だか少女だかの
しかし、それらのことを言葉にはしないで、クリフはにっこりとほほ
ラトは
「もちろん、お前を刺激しないためだよ」
クリフはあくまでも紳士的に言って、
「誰か、助けてくれ! 気が狂った殺人鬼と同じ牢屋に入れられるだなんて聞いてない。酔っ払いを
そして
それからラトのほうをいかにも気味の悪そうな目つきで見ると、クリフには
「悪いんだが、今日は隣の
「人の心ってものが無いのか!」
クリフは助かりたい一心で
このまま狂人と朝まで過ごしたら、何が起きるかわからない。
もちろんラトは手枷足枷で拘束されているのだが、なんだか目の前の少年にはそれくらいのことは
「まあまあ、君。落ち着きなよ。あれは必要があってやったことであって、僕は殺人鬼ではないし、死刑にもならない。裁判だって開かれることはない。
「
眉をしかめたのは大声で呼び出されたギルド職員のほうだ。
彼らは犯罪者を扱うプロというわけではないが、冒険者たちの
そうそう簡単に牢屋を抜け出されては困るのだ。
「いいや。そこの彼がこの手紙をカーネリアン邸に運んでくれるならじきにそうなるって話。あくまでも仮定の話だね」
ラトは白い封筒をクリフに差し出す。
クリフは気味の悪いもののように白封筒を見つめている。
「なぜ俺がそんなことをしなくちゃならない?」
ラトは何も説明することはなかった。
しかし不思議と力強い
「アロン領グーテンガルト。君の出身地だ」
クリフはどきりとした。
ラトが上げたのはたしかにクリフの生まれ
「どうしてそのことを……?」
「大したことじゃない。単なる知識の問題だ。君の髪の毛には似合わない黄色の
クリフは思わず
「だが、しかるべき
わかるはずがない、とクリフは自分自身に言い聞かせた。
ラトには
しかしラトの口からは、望みは
「次に君の家族構成を当ててみせよう。まずは父親と、母親。母親はおそらく既に
「な、何故そんなことがわかるんだ……」
「いろいろと要素はあるけれど、決定打は君の
と、ラトは端的に
「君がつけてる
クリフは冷静を
「僕の推理が正しければ、君は元々持っていた自分の装備を質に入れて、その金で一回りランク落ちした鎧をパーツごとに買ったんだ。何故元々あった自分の装備を売ったのかというと、売らざるを得なかったんだろうね。それを持っていたら、
薄暗い牢屋の中で、緑色の
「冒険者たちは元兵士という
「俺はただの出稼ぎ農民だ。
クリフは動揺を
「それはない」
ラトはあっさりとうそを見抜いてしまった。
「何しろ、ここは冒険者ギルド
ラトはそう言ってあくびをし、クリフの鼻先で白封筒をひらひらと
「やるの? やらないの?」
クリフはじっと封筒を見つめている。
封筒の向こうでは、やたら
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