第38話 弾劾
* * *
アイゼン将軍に案内されて通されたのは、城の最上階にある国王の謁見室だった。
僕が見てきた城とは作りが異なっていて、外壁も屋根も黒く塗装されて丸い窓が等間隔で設置されている。サクラさんの屋敷を重厚で立派にしたような城だった。
青龍は最小化して僕の首に巻きついている。立髪が柔らかくて癖になりそうな触感だ。玄武と白虎は現地で待機の計画になっている。
謁見室に入るとアイゼン将軍が高らかに声を上げた。
「
正面の王座に座る国王が僕の前までやってきて、そっと膝を折る。
「
「いや、宴の席は不要だ。それよりも確認したいことがあるがよいか?」
いつもならここでお約束のお願いをするところだけど、今回はグッとこらえた。僕にしかできない役割を果たすため、不遜な態度のまま話を進める。
「はい、なんなりとおっしゃってください」
「青龍の守人であるサクラ・フェロウズに関して、まともな環境で暮らしているようには見えなかったが知っていたか?」
「は……守人でございますか? はて、私にはなんのことやら、わかりかねます」
「聖女の国セントフォリアの公爵家より各国に遣わせている守人を、国王が知らないのか?」
目の前に跪いている国王が、ギリっと奥歯をかみしめている。顔色もよくないようで、心当たりはあるようだ。
「では、言い方を変えよう。守人が女だから、セントフォリアからの支援も受け入れを拒否して、街でも買い物すらまともにできなかったのか?」
「いえ、そのようなことは決してありません。ですがそれがもし女であればこの国では当然の対応でございます。そのような大事な役目は男の仕事でございます」
「つまり僕の大切な仲間を、女だからという理由で虐げてきたのか?」
フツフツと湧き上がる怒りに、胃痛はどこかへいってしまった。こんな風に性別だけでここまで差別するなんて、まったく理解できない。
「それがこの国の風習です。国民も皆、納得しております」
「そうか、では本当に皆が納得しているのか確かめよう」
「確かめる……とは、いったい?」
ここまで計画通りに運んできた。ここでの国王の対応によって、この後の僕たちの行動も変わる。まあ、予想通りではあったけど、次の段階に進むことにした。僕はイヤーカフ型の通信機に呼びかけるように声をかけた。
「リハク王子」
僕の言葉に国王が苦虫を噛みつぶした顔になる。
階下から複数の足音が聞こえてきて、謁見室の扉が開かれた。そこに現れたのは、リハク王子とウルセルさん、シューヤさん、それからリハク王子に賛同した兵士や高官たちが続いていた。
「リハク……これはなんの真似だ!?」
「父上。オレは
リハク王子の言葉にウスラバ国王の顔色が一気に青くなる。それでも、ここで認めたら後はないと思ったのか知らないふりを続けた。
「だからなにを言っておるのだ! この国ではなんの問題もないであろう!!」
「ご自分のしたことがわからないのですか? 青龍の守人であり、セントフォリアの公爵家嫡子のサクラ・フェロウズ様をあのような状況に追い込んで、なんの咎もないと仰るのですか?」
「だから私がなにをしたというのだ!? なにかやったと言うなら証拠を出してみろ!!」
リハク王子が視線で促すと、後ろについてきていた兵士や高官たちが次から次へと書類の束を運び込んできた。
「サクラ様がこの国にきてから、今まで受けた数々の妨害と証言などの調書です。ここに運んだのは複写ですが」
リハク王子に問い詰められたのがよほど癪に触ったのか、ウスラバ国王はついにキレた。
「ええい、やかましいわ!! 女の分際ででしゃばりすぎなのだ! 女など子を産むしか役に立たんのだから、黙って家を守っていればいいのだ!!」
国王の言葉にリハク王子は一瞬悲しげな表情を浮かべた。
ここまで言ってしまっては、もう庇えない。最後まで変わることのない父に王子として、この国の未来を見据えるものとして心を鬼にして決断を下すしかなかった。
「父上、残念です。……ウスラバ・カトカ・リンネルドを弾劾し、この時をもって第一王子である、リハク・ジルバーン・リンネルドが新たな国王として即位する! 異論のあるものはこの場で申し出よ!!」
リハク王子の宣言により、謁見室は静まり返っている。
「ふざけるなぁぁぁぁ!!!!」
静寂を破ったのはたった今、弾劾されたウスラバ国王だった。真っ赤な顔でブルブル震えている。
「ここまで国を守ってきたのは私だ!! 文句があるならお前が出ていけ!! お前こそ廃嫡だ!!!!」
「父上! いい加減にしてください! 国王であるあなたを退けて、この国を変えると約束したから、クラウス様はチャンスを与えてくれたのです! そうでなければ、この国など今頃地図から消えていてもおかしくないんですよ!?」
「そんなバカな! そんなガキひとりでなにができると言うのだ! 近衛兵たちよ! いますぐこの無礼者たちを捕らえよ!!!!」
ウスラバ元国王の言葉で兵士たちが僕たちを取り囲んだ。
これだけ囲まれていては逃げ場がない。兵士たちは戸惑いながらも、目の前で生きたとこが受け入れられずに、ウスラバ国王の指示に従っていた。
さすがに十日では王国軍の掌握まで手が回らなかったのだ。
「クラウス様、父上はオレが始末をつけます。それだけは任せてもらえませんか」
「ああ、それならほかは僕が引き受けよう。青龍、国王以外は庭に落とせ。広いからそっちでやろう」
「それなら、俺とシューヤは城の中の敵を片付けてくる。あとで庭で合流だ」
ウルセルさんはそう言って、シューヤさんとふたりで階下へと消えていった。リハクさんの後ろにいる兵士や高官たちは、国王と王子の決着を見届けるためにここに残ることになっていた。
「青龍、もういいぞ」
《主人さま、了解だよ!》
青龍は僕の首からスルリと抜けて、もとの半分ほどの大きさになり風魔法を使った。
国王を守っていた近衛兵たちを優しい風魔法で、次々と庭へ下ろしていく。
「はっ!? なんっ……待ってくれ! おいっ! 近衛兵たちがっ!!まっ……ああ!!」
ウスラバ国王は言葉にならない言葉を発している。顔色はどんどん悪くなっているけど、あとはリハクさんに任せよう。
最後に僕と青龍もそっと城の大庭園に降り立った。
「玄武! 白虎!」
僕の呼びかけに応じて、玄武と白虎が姿をあらわした。玄武の上にはセレナとサクラさんも乗っている。突然現れた巨大な聖獣に驚き、兵士たちは武器を構えたまま固まっていた。
「ほう、これが玄武と白虎か!
ただひとり、アイゼン将軍だけが楽しそうに笑みを浮かべている。
リハク王子の話ではこの国で最強の兵士であり一騎当千の実力者ということだ。できれば敵に回したくない。
だけど将軍は僕の希望とはうらはらに、その腰に挿している細身の刃を抜いて構えた。
「クラウス様。申し訳ないがこれでも国王軍の将軍であるゆえ、このまま指をくわえている訳にはいきません。手合わせ願います」
僕を射貫くように見つめる瞳には、ただ目の前の敵を屠るという殺気が込められていた。こちらも本気でやるしかない。
「リジェネ、
青魔法をかけ直して、僕はアイゼン将軍と対峙した。
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