第156話 ここは僕の国、だお

 ある日の午前中、僕は成り行きで異性に子供を作らないかと聞いた。


 その相手は九龍の一角でも陰キャ感が漂っていた中世的な顔貌をしたブラム。


 ブラムは唐突に持ち掛けられた話に、顔を真っ赤にしてうつむき加減に立ち去る。


 かわいい所、あるじゃないの。


 しかし――


「タケル、要はあなたって誰でもいいんですね」


 その様子を気になる異性の一人であるイヤップに目撃されていたようだ。

 ここは大体のメンツが住んでいるホテルのロビーであったことを失念していた。


「ち、違うんだよイヤップ」

「事実です、言い逃れできない」


 僕が国王であることもあってか、ロビーの空気は凍り付いたかのように張り詰め。

 そこに国きってかもしれない、度胸の持ち主が現れた。


「どうしたんだ二人とも、周囲のみんなまで緊迫させてしまっているよ?」


 それは静謐で穏やかな顔をした長身の騎士崩れのランスロットだった。

 モニカという恐妻を持っているからか、どのような修羅場だろうとなんのそのな感じだ。


 ランスロットの台詞に、イヤップは周囲を見渡して居づらくなったようだ。


「わ、私は仕事があるので、これで」


 そして彼女はさっそうと走り去る、ああこれってこのまま自然消滅する奴や。


 すぐさまイヤップにDMした。


『ごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめん(略』


 焦りから思考回路がバグり始めたし、その様子を見ていたランスロットから笑われたし。


「いつもの痴話げんかか、余計なお世話だったかな?」

「うきゅ~」

「はは、でもさタケル」

「う?」

「疎遠になったとはいえ、イヤップは俺の妹なんだ。あまり悪戯するなよ?」


 ……急になんやねん。

 ランスロットは魔王リィダの人格を見せつけて、兄貴面で喝破して立ち去った。


 三日後、国王である僕とブラムの関係性を怪しがる一連が、大々的にそのことを報道していた。


『ジパングの王の正体は陰キャヤリ〇ンカス? 今度の獲物は九龍の一人で、さぁ、一狩りしようぜと言わんばかりの乱痴気騒ぎ!!』


 との文言を新聞に載せられ、僕は自室のスイートルームで絶叫したよ。


「人生、オワタ」


 この国の連中はなんやねん。

 人が必死になって建国してるのに、さぁ一狩りしようぜ。じゃねぇ!


 ここは国王の部屋といえど、開放的にしてあるのが災いしたのか、隣室からエレンとリンが件の新聞を手にしてやってくる。


「面白いわね、他人のスキャンダルほど叩きがいのあるネタはないわ」


 エレンはわざわざ隣室からコーヒー片手に嘲笑しに来る。

 彼女にとってこれはお早うの挨拶なのだ、お早う〇ね。みたいなノリだ。


 エレンの相棒で、僕と関係性を持っているリンはすました顔でいた。


「王様、たまっているのなら、付き合いますよ」

「それがタケルを駄目にするのよリン、あんたっていっつもそう」


 あれから三日、いぜん、イヤップから返事はない。

 つぅー、と目から涙がこぼれた。


 エレンは涙をこぼす僕をにやにやと見て、リンはいぜんすました顔でいる。


「言ったでしょ、タケルには王の資格はないって」

「エレンの言う王の資格ってなんですか」

「威厳よ」

「威厳ってなんですか」

「民草を納得させる言動よ」

「納得させる言動ってなんですか」

「殺すわよ?」


 短気すぎますお! 

 

 その場にジュリアーノ王子が突如として現れたようだ。彼はマジックのように音もなくエレンの背後にあるソファーに腰かけていて、僕らの会話にさりげなく口をはさむ。


「王の資格は、さしもの俺も気にかかる所でしてね。エレン殿の言う通りなのかもしれないし、または張りぼての王がいてもそれはそれで国民は頭を垂れてくれると思うんだ。つまり気にする必要はないんだタケル殿、この調子でがんがん狩っていこう」


 誰が上手いこと言えといったし!


 落ち着けタケル、これは王子のわかり切った煽りだ。

 彼はこの調子で僕が失墜してくるのを待っているんだ、ってか。


「たしかこの新聞の発行元って、王子が管轄していた新聞社でしたよね?」

「ああ、彼らもこれを機にこの国に連れてきたんだ。すごく感心していたよ」

「感心とな?」

「この国の技術力に、以前は新聞一刷つくるのにも膨大な労力がかかっていたようだしね」


 危険だ、この王子にこのエレン。

 どいつもこいつもこの国の価値を一瞬で見抜き、我が物にしようとしてきやがる。


 ……させるかよぉ、ここは僕の国ですお!









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