第155話 呆気ない別れ、だお

 昨日のハリーの酒盛りでこの家に集ったメンバーはほぼ酒に撃沈した。


 王室からの刺客としてやってきたジュリアーノ王子は用意された寝室で死んだように青白い相貌で眠り、朝七時に起床した僕もにわかに頭痛がしたので妹王のアオイちゃんちーがクラフトした優しい頭痛薬を服用した。


 起きて、目が覚めて居間に向かうとハリーは庭に生えた松の木に吊り下がっていた、昨日王子や九龍の一角であるブラムに不敬を働いた刑罰が執行されたようだ。なんて冗談を妄想している暇はない、ハリーを松の木から下そう。


 と、縁側に足を踏み出せば。


「お早う御座います、タケル殿」


 縁側の端にいた見ず知らずの女性から声を掛けられた。


 短く整えられ艶がのった青毛の毛髪に、一目見ただけで秋波を送りたくなる流し目、艶めかしい足を質素な感じに縁側から下して、服装はこの世界の住人が着ていそうな銀色の上鎧姿だった。


「どちらさまで?」

「私の名はユーノ、ジュリアーノ王子ならびにアンナ王女の警護役です」

「ああ、そうなんですね。二人は警護役を置いてきたと言っていたので」

「酷い仕打ちですよね、王子たちは王室から更迭されて権威を失くしたというのに」


 この人は歯に衣着せぬ物言いをするんだな、気を付けよう。


「あのモヒカン野郎でしたら、あのままにしておくべきかと思います」


 言われ、ハリーを遠めに見るとぐぅぐががといびきを上げている。

 昔から思ってたけど、ハリーって変だよな(失礼)。


 その光景を一緒に見つめていた女騎士のユーノは口を開き。


「昨日は王子たちがお世話になりました、確認なのですが王子たちのお住まいはこの家ということでよろしかったでしょうか?」


「じゃないですかね、一応先住民には話付けてありますし」


 返答すると彼女は会釈した。

 その余韻で彼女の匂いが鼻先をかすめ、朝早くから本能を刺激された思いだ。


「では、この屋敷の周辺に後続の者も住居させて頂きますね」

「空き家であれば好きにしてくれていいと思うよ、ところでさ」

「なんでしょう?」


 僕は彼女に歩み寄り、手を差し伸べた。


「国を代表して君たちの来訪を歓迎するよ、ようこそ、ジパングへ」


 ◇ ◇ ◇


 酩酊して爆睡している王子のことはユーノに一任し、僕はアンナ王女を連れて秋葉原方面にある学校へとやって来た。学長であるオーク先生ことザハドに紹介して、彼女もこの学校に通わせることにしたくてね。


「アンナ」

「何?」


 ザハドはアンナに優しく語りかけ、あることを約束させる。


「ここでは身分の違いなど一切関係ないので、貴方もそのつもりで他の生徒と接するよう心掛けてくださいね」


「大丈夫だよ、アンナは頭がいいから」


 アンナの返答にザハドは微笑んで、彼女の手を取って教室へと案内する。


「はい皆さんお早う御座います、今日は新入生を紹介したいと思います」


 大丈夫そうだな、後はザハドに任せて、僕は僕で国王の仕事をしよう。


「じゃあザハド、後は任せたから。アンディや他のみんなも勉強頑張って」

「屑様もがんばれよ」


 アンディのその声をきっかけに、教室にいた生徒から「屑様ふぁいとー」や「屑様がんばって」などの声援をもらい、ちょっと涙しました。いやね? 最近は、エレンをリーダーにした暴徒から色々責められていたので、それが自己否定につながり僕はこの宇宙の塵の一つだと(略。


 そろそろあの過激組織をどうにかしなくちゃいけないなぁ。


 憂鬱加減に根城のホテルに帰ると、ロビーでトオルくんに手招きされた。


「そういえばトオルくんっていつ頃未来に帰るの?」


 というと彼女は「し」と人差し指を口にあてる。


「いわれなくてももうそろそろ帰るよ、だからさ」

「うん」

「俺の代人を立てる必要がある、それは俺の方でやっておくけど」

「ありがとう。いろいろと」

「それよりもタケルは俺の母さんと縁を持ってくれないと」


 彼女は自称未来からやって来た僕の娘で、その相手は謎に包まれていた。

 縁を持て。と言われても、誰なのか判明しない限りはタイムパラドックスを起こす所存である。


「じゃあ聞くけど、君の母親は誰?」

「……青毛で陰湿なゲーマー、と言えばわかるか?」

「……えっと」


 まさか。


「アオイ?」

「んなわけないだろ、近親相姦したいの?」


 でも青毛で陰湿なゲーマーって、他に心当たりないんだが?


「頭文字はBだよ」

「B?」

「バストサイズも確かB」

「ちっぱい?」

「そんでもって、その人は今タケルの後ろにいる」


 言われ、後ろを振り向くと剣幕気味のブラムが見えた。

 っておい、ブラムは♂だろ?


「トオルくん、冗談にしても生物学的に不可能だろ」


 反論しようと再度ホテルロビーのカウンターに向くと、そこにはトオルくんの姿はなくて、カウンターの上には『さようなら』と書かれたメモが置かれていた。その光景に僕はつい声を漏らしてしまう。


「あっけなー」


 別れにしては呆気ない、トオルくんは僕を救ってくれたヒーローなのに……。

 空虚感をもよおしていると、ブラムが僕の肩を後ろからつかんだ。


「タケル、俺の家を返して欲しいんだが、あそこは気に入っているんだぞ」

「……なぁブラム、物は相談なんだけど」

「なんだよ?」


 ――僕の子供を、宿してくれないか?

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