第154話 国を寄こせ、だお

 王室から僕との政略結婚の申し出を出されたのはかれこれ五日前。


 今日はその相手の第二王女、アンナが、兄であるジュリアーノを連れてやって来た。特に連絡もよこさず来ちゃったので、二人の仮住まいとして鎌倉方面の平屋を差し出すか出さないかで今、先住民と揉めている。


「いいだろう、そこまで言うのなら格ゲーで勝負だ」


 先住民の九龍の一角、闇のブラムはまたもやゲームで決めようという。


 勝負を受けてもいいが、負けてしまいそうだしなぁ。


 どうしよう、と悩んでいる僕の肩を誰かが掴んだ。


「へへ、タケル」

「ハリー? どうしてここに」

「ちょっと酒を仕入れによ、この大陸の酒造を巡ってる最中でな」


 へぇー、それで?


「ステータスウィンドウを開いたら、たまたまタケルが近くにいることを知ったんでな、ふらふらっと立ち寄ったんだよ。へへ」


「そのモヒカンが相手か?」


 興奮してなのか、闇のブラムは現れたハリーを対戦相手に仕立てている。

 ハリーはその勝負に受けて立つと、先ず、ブラムの目を砂で潰した。


「待て! 何を!」

「勝負ってのは勝ちゃあいいのよッ!! 甘ぇな青二才!」


 えっと、一応ハリーが勝ったけど……まぁええか(鼻ほじ)。


「卑劣だな、だが見事だ」


 茶の間で開かれた格ゲー大会に、王子はあぐらをかいていた。

 アンナは初めて見たゲーム画面に興味を示すも途中で飽きていて。


 今は王子の股の間に座り、てきとーな感じで拍手している。


「にしてもこの国の工業力は素晴らしいな、タケル殿」

「お褒めにあずかり恐縮です、ですが王子」

「何かな?」

「ブラムは敗れましたが、チャンスをくれませんか?」


 というと、ブラムはときめいた声音で「タケル……」と感動していた。


「どちらにせよ、王子とアンナには召使が必要です。ブラムは腕が立つので二人の世話係としてここに置いてください」


「な!? 俺はそんな話聞いてないぞ!」


「はぁーん!? 勝負に負けたんだから、勝者には従うのが道理だろ? それともブラムはその程度の覚悟だったのかなー」


 あれあれー? ブラムくんってば、肩を震わせてどうしたのかな?

 その光景を見ていた王子は苦笑している。


「タケル殿は王室のことを揶揄するが、貴方もそう変わらないのでは?」

「ほら、もうすぐ日が落ちるし、ブラムはとっとと夕飯の準備するんだよ」


 ブラムのお尻をぺしーんと叩くと、セクハラだとこぼしながら台所に向かった。


 ◇ ◇ ◇


 その日、僕は二人と親交を持つ意味も含めてお泊りすることになった。


 ブラムがこしらえた鮪づくしの夕飯を王子とアンナ、それからハリーの五人で囲む。


「王子、一杯どうだ?」

「頂くよ、ダニエルがこの国のお酒を大層褒めていたことだし」

「へへ、一応言っておくけどな、ダニエルは俺っちの伯父上だぜ」

「なるほど、どうりで」


 ハリーは用意したグラスに、酒造巡りで見つけた一杯を注ぐ。


「これは不思議なエーテルだね、すごく、度数高いのに口当たりがまろやかだ」

「へへ、いけるだろ? 他にも甘いフレーバーだったり、辛口もあるぜ」


 僕は飲まんぞ? アンナと同じ麦茶でいい。


「このおさかな、火を通さなくていいの?」


 アンナは鮪の大トロをフォークでさし、不思議そうにしていた。

 生魚は確かに注意が必要だけど、処理ぐらいしてあるから出したんだろう。


「んー! 美味しー!」

「たしかに、旨い」


 王子も鮪の刺身が気に入ったようだ。

 そこまでは団らんを保てて、よかったんだけどさ。


「……」

「へへ、さては王子、酔いが回って来たな?」

「ん? ああ……そうかもしれない」


 適量という言葉を知らないハリーによって王子は酔い潰される。

 翌朝、二日酔いに悩まされる王子の姿が目に浮かぶ。


「タケル殿、どうして俺はこの星に産まれたのだろう」


 この星に? 酔うにしてもかなり独特な感じだな。


「……俺は、王家に産まれても、役目を果たせなくて、母を悲しませた」

「そ、そんなことないですよ。知らんけど」

「タケル殿はこんな事実を知ってるか」

「知らん」

「俺は、産まれてこの方、種なしなんだ」


 えっとー、ドンマイ。

 王子はその後もたんたんと身の上話をしてくれた。


 なんでも王家の血筋はもともと子孫を残しにくい体質にあるようで。

 彼のような種無しは王室の歴史をたどっても珍しくなかったようだ。


 彼は妹のアンナを立てて、玉座争いをモニカとしてきたようだが。

 結果的にモニカが子供を産んだことによって、諦めがついたと言っていた。


「あの国に俺は必要ない、俺にあの国はもう――必要ない。だから寄こせ、この国を」


 そう言った王子の目は酩酊状態もあってすえて怖かったですお。



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