第153話 鎌倉、だお
「愚王タケルは今すぐに玉座を降りなさーい!」
先日のデモ抗議のあと、今日もまた地上で例のデモが行われていた。
タイミングがタイミングだけに、頭に血が上った僕はエレンに。
『うるさいよブス!』
とDMを送ると――ドォオオオオン! と二回目の爆発音がとどろいた。
爆発音を耳にした王家の第一王子であるジュリアーノは目を細め口端を吊り上げる。
「貴方は義弟になるわけですから、俺のことはユリアンと呼んでくれ」
「はぁ、それはそれは大変光栄なことで」
慇懃無礼な口調でいうと、ユリアンはケーキを口に運びつつ騒動に触れた。
「二度目らしいじゃないか、この激しい抗議活動も」
「しらじらしいですよ王子、あれは王室がけしかけた結果じゃないですか」
「まさか、タケル殿は俺に非があると仰りたいのか」
「イエスだね!」
つい本音を吐露してしまった。
王子はケーキを食べていた手を止め、フォークを置く。
「止しましょう、兄弟同士で争うのは。これでは何のために王国から離れたのかわからなくなる」
「と言われても、僕はこの国の王座を明け渡すつもりはないですお」
「とりあえず俺とアンナの住居を提供してくれないか」
「話をそらさないでくれないですかお! それと、貴方たちのような貴族が来るのなら事前に連絡してくれませんか。お二人の住居なら今から早急に用意しますから」
えっと、どこかよさげな物件はあるかな?
新大陸は日本のような地形をしているので、ちょっと遠いけど、鎌倉方面に用意してもらおうかな。
「ウルル、鎌倉方面にお二人の住居を手配してもらうようイヤップと相談してくれないかな。手配が済み次第、僕に連絡して」
「わかった」
「アンナもついてくー」
ウルルが退室しようとすると、アンナがついて行こうとしていた。
そんな彼女にウルルは目線を合わせるようしゃがむ。
「貴方はここにいてね?」
「ならお姉さんのお名前教えて」
「ウルル、それじゃあね」
して、ウルルはイヤップを探しに向かった。
ウルルが退室すると、王子はアンナに大人しく座っててくれと伝える。
「彼女はタケル殿の配下でしたか?」
「ウルルは……昔からの仲間ですね、とても信頼しています」
時に。
「お二人は単身でこちらにいらしたので? お付きとか、警護の人とかは?」
「いるにはいますが、アンナが我慢できず先走ってしまったもので」
その話はなんとなく筋が通っているような気がした。
付き人は転移スキルを持つ二人にさすがに追いつけず、現在こちらに全力で向かっているとのことだった。
◇ ◇ ◇
数時間後、二人の住居の手配が終わったとイヤップがオーナー室にやって来た。
すると王子は。
「ではお先に」
「「え゛」」
と言い転移スキルを使って消え、僕とイヤップの口から驚嘆をもらさせる。
困るんだよなー、勝手してもらっちゃあさあ!
「ど、どうしましょう」
「落ち着いてイヤップ、とりあえずあの二人にもステータスウィンドウは付与しておいたから。もしもの時は連絡ぐらいくれるだろう」
「だけど……あの二人の住居には九龍がいるの」
「どういうこと?」
「タケルの指定した鎌倉方面は人気で、ほとんどの家屋に人が住んでいて」
そこでイヤップは地域の中でも平屋の大豪邸に住んでいた九龍の一角、闇のブラムに相談したところ、ブラムはしばらくは家に住むといいと提案してくれたようだ。何も知らないあの二人が先に向かうと、また何か起きそうで怖い。
それに気取った僕はすぐさまホテルの屋上にダッシュで向かい、上空に跳躍。
アオイちゃんちーのグライダーを使って鎌倉方面へと向かった。
「あれ、きっとタケルよ!」
「今度こそ撃ち落とす!!」
眼下からまたもや暴徒と化した抗議隊が攻撃を仕掛けてくる。
そこで僕はアオイちゃんちーの新商品を発動させた。
「!? どういうこと、タケルが増えたわ!」
使用者のダミーを即席で作るもので、お値段は金貨30枚!!
この国の労働者の月給の半分といったところでさぁ!
これならば、洗濯物への被害、またはけが人など出るはずもないだろう。
して数十分をかけて僕も件の豪邸に到着。
玄関では連絡を受けていたブラムが仁王立ちで待ち構えていた。
「また俺を騙したのか?」
「王子とアンナは?」
尋ねると、ブラムは親指で後方の縁側をさししめし。
王子とアンナは風情あふれる浴衣姿でくつろいでいた。
「遅かったですね、タケル殿」
王子……とりあえず僕は理解した。
王室のメンバーは、どいつも転移スキルを鼻に掛けた好き勝手野郎だということを。
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