第152話 ジュリアーノとアンナ、だお
「そもそも先日の騒動の発端はエレンやアオイが率いた暴徒集団の」
「その暴徒にしたとて、連中のやり玉は貴方なのです」
某日、自宅兼、オフィスのオーナー室で先日の騒動の弁解をしている。
精悍な面構えをしたカイゼルは鋭い目つきで僕をたしなめているようだ。
カイゼルの隣にいた褐色肌のエルフのケイトは、たおやかな目で僕を諭した。
「心中お察しします、ですが、国の代表というものは総じて民の不満の矢面に立たされるものです。もしもここでタケル殿が国民に不服を唱えでもすれば、国と民が対立しあうと言う最悪な結果を招きかねません」
わかる、わかるけどさ、辛いお。
「じゃあ、どうすればいいかな」
二人は比較的、良心を持っている。
それに年齢も僕より相当上だし、二人は元々他国の幹部でもあった。
だから助言を求めてみたんだけど、カイゼルは困った顔でこういうんだ。
「タケル殿、そこに我々が口出ししてはいけないのです」
「どうして?」
「もしここで我々から助言を出したとして、貴方はそれを実行する。そして次に何か起きた時も貴方は同じことを繰り返す。そうなると、貴方は我々や他の連中の傀儡でしかなくなる」
う。
カイゼルがそう言うと、隣にいたケイトがさらに続ける。
「もちろん、独裁もよろしくはない。ですが貴方は国の最終的な判断を取るべき立場。どうか賢明な判断を望みます」
つまり自分で決めて、自分で責任取れってことね。
……でもさ、やっぱり僕何も悪くないじゃん(´;ω;`)。
暴徒はモニカに踊らされただけで。
僕は追って来た暴徒から煙玉で、防衛しただけで。
今回上がった苦情は煙玉による二次被害についてだった。
洗濯物が汚れた、煙玉で視界不良になって怪我したなど。
また一部は。
『先日の騒動で私の商品が勝手に使われ、私にまで文句が来ていますお兄ちゃ、じゃなかった、タケル王』
アオイちゃんちーはクラフトした魔導具をさっそく製品化していたらしい。
「ではタケル殿、我々はこれにて失礼します」
「あい、この度は申し訳ございませんでした」
エルフ夫妻を見送り、オーナー室で一人になった。
さてと、どうしようかな。
この後、僕が取るべき選択肢は二つ。
一つ、オナヌー。
一つ、苦情ノートに目を通すこと。
「まぁ、現実逃避してないで苦情に目を通すか」
「それ、何が書いてあるの?」
「ん? これにはね、この国に住む人たちの阿鼻叫喚が書いてあるんだ」
「ふーん? 面白い?」
「おもろないよ」
「きゃはは」
なぜ笑ったし。
と言うか、どこかの女王を彷彿とさせる金髪の幼い彼女は一体どなたで?
「お嬢ちゃん、どこから入ったの? ここは一応、関係者以外は」
「アンナ、馬鹿じゃないもん。おりこうさんでしょ?」
「君、アンナって言うのか、どこから来たの?」
「王国からだよ?」
体格や言葉遣いからさっするに、彼女の年齢は四、五歳ってところか。
神出鬼没な感じでいつの間にか現れるってことは――王家の血筋。
僕は内線電話を取り、彼女を接待する意味を込めてデザートを持ってきてもらうことにした。
「もしもしトオルくん? 悪いんだけどショートケーキとチョコレートケーキをオーナー室まで持ってきてくれないかな」
「今持って行かせるよ」
「いつも悪いね」
「気にするな、これが仕事だ」
受話器を机上におき、ソファで体を跳ねさせているアンナを見やった。
「アンナ、今デザートが届くんだけど、食べていく?」
「うん、食べるー」
「わかった、それと君は王国から来たって言ったけど、一人で来たの?」
「ううん、お兄様も一緒よ?」
「そのお兄様はどこに行ったのかな」
問うと、アンナはソファの背もたれから顔を半分だけ出して愛くるしい上目遣いを取る。思わず目じりを下げて笑みを浮かべると――ドォオオオオン! という爆発音が下から鳴り響いた。
「ふぇ、今の何?」
突然のことにアンナも僕も椅子から体を跳ねさせる。
「愚王タケルは玉座を退きなさーい!」
地上からエレンの声でまた抗議が聞こえ。
先日に続く愚行に、ライザが怒声をあげて反抗していた。
「またお前らか! 性懲りもなく何だと言うのだ!」
僕はもう、この場を動かない。
先日のあれ以降、このホテルの警備は強化されているのだから。
下手に動けばまた苦情が上がって来るだろうし、あわてないあわてない。
「タケル、ケーキを持ってきたけど……その子は?」
ロビーに注文したケーキを持ってきたのはウルルだった。
「知り合いの子って言えばいいのかな、一応」
「ふーん、食べる?」
ウルルがアンナにケーキを差し出すと、彼女は元気よく食べると言い、ケーキにむしゃぶりつく。
「ん! 甘ーい! 美味しい!」
本当はあまり甘いもの与えちゃいけない年齢だけど。
今日は彼女と僕の記念日、ということで特別にね。
「アンナ、ケーキは一個だけだからね」
「タケル」
「何、ウルル?」
名前を呼ばれ、ウルルを見ると彼女は指で僕の背後を指していた。
だから背後を振り向けば、謎の人影が立っていたので心臓を少し跳ねさせる。
「アンナ、一人で何を食べているんだ、俺にもくれないか?」
「お兄様!」
その人影はアンナからお兄様と呼ばれ、長身痩躯の金髪姿で、まるで王子様のような出で立ちだ。彼は僕の横を通り、目のまえにあったソファに座るともう一つのケーキを口に運ぶが、その所作も優雅だ。
「これは、中々のものですね、タケル殿」
「失礼ですが、どちらさまで?」
「これは失礼した、私の名はジュリアーノ・ロズウェル。この子は妹のアンナ」
「……ああ、王家の第一王子でしたか」
「そうですね。そして妹は、貴方と婚約することになっているはずですが?」
二人は全身白のコーディネートで、左肩に王家の紋章をたずさえている。
まるで親善大使のようだな。
その感想を覚えると、彼はアンナの頭に手をやる。
「つまり、この大陸は俺が所有することになると」
「……えっと」
何好き勝手ほざいとるねん、王室の連中は。
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