第150話 うん、重い! だお

 学校の視察を終え、自宅兼、オフィスのホテルに帰る。

 ホテルのロビーではトオルくんがベルボーイをしていた。


「トオルくん、未来に帰らないの?」

「……帰らないよ、何故かって、タケルと母の結婚式が控えてるからな」


 え。


「それって、相手は誰?」

「知るかばーか、でも変に意識しないでいい」


 う、うむ。

 トオルくんの言うことが本当なら、未来人だ。


 歴史を改変すると、大変なことになるのはわかったし。

 ここはトオルくんの言う通り自然体でいよう。


 ロビーから正面エレベーターに乗り、オーナー室のある上階へと向かう。

 大理石でできた廊下をコツコツコツと靴底で鳴らしていると、隣室からエレンが出てきた。


「エレン、どちらへ?」

「仕事よ、邪魔しないで」


 あ、はい。


 エレンの生業はお宝ハンターであればダンジョン攻略に向かったってことでいいのか? いやそれにしては装備が心もとない、普段着って感じだったしな。相棒のリンも連れてない所を察するに――嘘だな、ぺろぺろ。


 その推察に行きついても特に用件もない、ふ、無駄の極み。


「タケル、どこへ行ってたの?」


 オーナー室に入ると専属秘書のイヤップがウルルと一緒に待ち構えていた。

 この二人は国興のためによく働いてくれている。


「おかえりなさい」


 ウルルはそう言うと静謐な瞳を瞬きさせる。


「ただいま、何か急用かな?」

「エルフのカイゼルとケイトご夫妻から上がって来た嘆願書を持ってきました」


 嘆願書? とやらをイヤップから受け取ると、そこには大学ノートにびっしりと要望が記載されていた。ま、まさかこれは国民全員に意見調査でも出したのだろうか、おぉぉぉ。


「この量に目を通すのは大変だ」

「その量でもご夫妻の方でかいつまんだらしいですが」


 ノートに目を走らせると目次が書かれており。

 項目の一つには頻発しやすいトラブルなども盛り込まれていた。


 そっかぁ、目の届かない所でトラブルも起こってるのか。


 僕の仕事はこういった国民の声を聴き、実際に叶えるもしくは解決するために各人にお願いをするといったものが主だった。今日はザハドから人手不足の件で相談させて欲しいと言われたので学校に行っていた次第。


「……タケル、この国にも人が増えたことですし、領主を立ててみてははどうでしょうか? 貴方の信頼する人から領主を選び、地方の自治を任せればかたよりも減ると思うの」


 領主を立てる?


「じゃあ、今から領主候補を言うから、感想をもらいたいな」

「えぇ」

「先ずはシャーリーに――」


 オーナー室で領主候補を口にしようとした瞬間――ドォオオオオン!!

 外から大きな爆発音がとどろいた、ふぇえ何事!? と思って窓から外を見ると。


「愚王タケルに告ぐ、今すぐ国王の座をおりなさーい!」


 エレンの声で以上の声明が出された。

 眼下には抗議デモ隊のような列がある。


「そうだそうだ! お兄ちゃ、じゃなかった、下半身脳みそにこの国は任せられないぞー!」


 デモ隊の先頭にいるあれは誰かと思えばアオイちゃんちー、僕の妹のアオイちゃんちーじゃまいか!


 王室からの突然の政略結婚の申し出と言い、今日は厄日なん(´;ω;`)。


「これはどういうことだお前ら!」


 そして眼下からライザの怒号が聞こえ、僕も仕方なく下に降りた。デモ隊はホテル前に陣取って、「竹葉タケル、女の敵、〇ね!」という超攻撃的なプラカードを持っている。


「愚王が出てきたわよみんな、囲みましょう!」


 やめてこっち来ないで!


「逃げろタケル! こいつらは私が処理する!」

「わかった、ここは頼んだライザ!」


 だけど無茶しな、嗚呼! ライザたんが並みいる女性たちの群れに取り込まれてもうた! 無敵のライザと言えど多勢に無勢だったか! 僕は目のはしに涙を浮かべ、一先ずの逃走をはかった。


 猛ダッシュでアキバ方面に逃走、しかし、敵(?)も追跡して来る。


「あいつどこに行った!?」

「向こうが怪しいわね!」


 ……ふ、撒けたか。

 貴方達はステータスウィンドウという、超有能スキルを失念している。

 ステータスウィンドウを使えば、人ひとりを追い詰めるなどたやすいこと。


 追っ手を撒いたことを確認した僕は、路地裏にある店に入った。


「いらっしゃい、ってお前かよ」

「どうしてヒュウエルがここに? しかもなぜ店主っぽい恰好してるので?」


 その店は本来ハリーが営んでいた酒場だったはずなんだ。

 アキバの路地裏にあるビルの二階にひっそりと看板を出している隠れ名店。


 しかし入ってみるとヒュウエルがマスターやっていた。


「ハリーに頼まれてな、急きょ代役やってるんだよ」

「そうなんですね、じゃあアイスコーヒーでもください」

「ああ……息切らせてどしたんだ」

「いや、あの……なんかエレンたちがデモを始めちゃってて、追われてるんですよね」


 ヒュウエルは眉を開き「デモ?」と確認を取っていた。

 その話を耳にいれた、カウンター席に座っていたリザさんが失笑する。


「エレンさんって、ヒュウエルに焦がれていた人でしょ?」

「えぇ、リザさんがいない間ヒュウエルに猛烈アプローチしてた彼女ですよ」


 と言ったら、ヒュウエルがアイスコーヒーのグラスでカウンターを力強く叩く。


「余計なこと言うなよ、お前がここにいること、エレンに教えるぞ」

「いいのよヒュウエル、貴方は英雄ですもの」


 リザさんはそう言って許しているような素振りだったが、以後気をつけよう。

 ……リザさんは、アンディのこと、息子だという認識はあるのだろうか。


 き、気になりますお。


「ところでリザさん、ちょっとお尋ねしていいですか」

「なに?」

「王室についてなのですが、女王モニカを始めとした相関図とかわかりますか?」

「うーん、私が死んで久しいからね。今のロズウェル家のことはわからないわね」


 リザさんは軽やかな声で、ヒュウエルの方が詳しいんじゃない? と話を振っていた。


「なんだタケル、王室についてなんで知りたがってんだよ?」

「王室関係者と僕の間に政略結婚の話が出てるからですよ」


 それを聞くとヒュウエルは口を一度閉ざした。

 何かを思案したようすで、数瞬後に再度口を開く。


「今の王室メンバーは、元は傍系だ。リザの父親、つまり先々代の国王こそが王家の直系だった。だがある事件を境に先々代の国王は国から起訴され、玉座を追われ幽閉期間中に自害しちまったんだ。詳しくはいえねーが、リザはその事件の裏に勘づいてな、結果的に暗殺されちまったんだよ」


 ……うん、重い!


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