第148話 政略結婚、だお
時に、と九龍の勝負を制した僕に天のゼオラが発した。
「時に、タケル殿の願いはなんでしたか?」
「僕の願いは、この大陸と、失われた大陸を一つにすること」
「失われた大陸?」
「おk、僕は闘技大会の時に起こったありのままの出来事を話すぜ」
僕は闘技大会から消えて、失われた大陸に転移していたことをここにいるみんなに語り聞かせた。アオイは夢でも見てたんじゃないの? と真剣に取り合ってくれなかったけど、ヒュウエルは真剣な様子だった。
「あのガキ、今から躾けておかねーと、また問題起こしそうだな」
「アンディを責めないでやってください。責めたいのであれば、ヒュウエルがアンディを指導してやってください。アンディは自分の信念を貫いただけですから」
「単なるガキのないものねだりだろ……で、九龍の連中はタケルの願いを叶えられそうか?」
ヒュウエルから問われると、地のカイザーがある提案を示した。
「わしらをその失われた大陸に連れていけ、そうすればなんとかなろう」
「ですかね、私はカイザーに同意します」
すると月のアーロンが麻雀仲間のよしみだからなのか、カイザーに同意した。
ライザは二人の意見に同調している他の九龍たちの様子を見て。
「じゃあトオルくんを呼ぼうじゃないかタケル、彼は今どこに?」
「わからないけど、DMするよ」
トオルくんにDMを認めていると、ライザが僕の耳元で囁いた。
「タケルの子供なのだろ? 母親は誰なんだ、イヤップだったり」
「それは僕も教えられてないよ、ごめんねライザ」
「いやいいんだタケル、これで私に思い残すことはなさそうだから」
「……」
ライザは以前言っていた。
もし、この大陸での国興が軌道に乗れば、ライザは故郷の世界に帰ると。
そしてライザは故郷を救いたいようなんだ。
「呼んだかタケル?」
「ああ、来たか。あのさ、僕たちをシャーリーのもとに転移させることは出来そう?」
「まぁ一応な。ただあまり公にしないで欲しい」
「じゃあお願いします」
こうして、僕は言われた通り九龍を連れてヒガンバナが咲き誇るあそこへと戻った。そこには白いドレスに身を包んだ正統派の女神、シャーリーがいて、彼女はこの時を待っていたと言わんばかりに僕に抱き着く。
「よろしいのですか、タケル」
「何が?」
「二つの大陸を融合させることによって、貴方の平穏は奪われるかもしれないのですよ」
「……たしかに、それは大事だよ。平穏無事に暮らしていくのは僕の一種の夢だった。サタナに来る前は将来を悲観して、部屋に引きこもってエロゲ三昧の日々を送ってたけど」
けど、あの頃から抱いていたもう一つの夢があったんだ。
異世界に転移した時から希望を抱き始めた、僕だけの物語を紡ぐこと。
「前者の夢を取るのなら、ここを見捨ててもよかったのかもしれませんお」
そう言うとシャーリーは涙ぐみ、僕の頬をやさしくつねては、笑うのだ。
「じゃあ、いきますよ」
ゼオラの掛け声で九龍が力を発揮させ始めると、周囲に咲いていたヒガンバナの花びらが散り始めた。花びらは空へと舞い上り、やがて光って泡沫状になる。失われた命が、現実世界に戻っていってるんだ。
ふと気が付くと、目の端にグウェンとダランの二人が映った。
「見事だな、うむ、天晴れであるタケル」
グウェンにそう言われ、僕は神の修行を終えたことを知る。
僕はこの時を自分のターニングポイントとして捉え。
「1スロット、セーブ」
この大陸で獲得した第四の勇者スキル『セーブ&ロード』を使って記録しておいた。
◇ ◇ ◇
「……目が覚めてしまった、まさか今の、夢落ちなんてことはないよな?」
周囲を見渡すと、そこはホテルのオーナー室で。
『おはよう御座いますタケル』
「あ、おはよう自動精霊」
自動精霊から朝の挨拶をされた。
「自動精霊、今日は何月何日?」
『本日は四月十日です、ステータスウィンドウにモニカからDMが届いていますよ』
「OK、ありがとう」
『どういたしまして』
さて、どうやら夢落ちということはなさそうなので。
まだまだ溜まっている問題を一つずつ片づけていくか。
先ず、昨日の大陸融合のおかげで、この大陸には人口が爆発的に増えた。
もともとこの大陸に居ついていた竜種は九龍に渡した知能薬で人の姿になり。
労働力として役に立ってくれそうだ。
あとはケヘランの伝手を使ってアークをも製造できるアント種も引き込んで。
できればザハドの同朋のオークたちも引き込みたいな。
あと、空世界にいるエルフも少しずつでもいいから渡航してきてもらいたい。
そしてこの大陸に十分な人気がそろったら、今度は――コンコンコン。
「どうぞ」
朝食を摂る間もなく、誰かが自室を訪れた。
扉の前にいる人物は緊張しているのか、中々入ってこない。
「……私だタケル」
「ライザ、もしかして今日だったりするの?」
「今日、もしくは明日にでも。今はタケルにお願いしに来た」
というとライザは頭を下げ、家族のことを案じ始めた。
「イヤップ、ティト、ウェレン、ロンのことは頼む」
「ライザ」
「妹弟たちは、お前にしか預けられないんだ。だから」
「僕の話を聞いてくれないかな」
ライザは面をあげ、なんとも言えない表情でいる。
「ライザは、自分の故郷にもどって、故郷を救いにいくんだよね?」
「そうだ、例え叶わなくても、以前よりは」
「――提案なんだけど、僕たちと一緒に救わないか?」
と伝えると、ライザは苦虫を噛んだ表情になる。
眉根をしかめて、苦しいといった表情だった。
「申し出はありがたいが、他の皆を危険に巻き込みたくない」
「もっと僕たちを信頼してくれないか、危険はあるかもしれない、だけど」
人は、手を取り合うものだから。
そうやって社会を形成し、生きていくものなのだから。
「ライザが一人で故郷を救いたいって言うのは、エゴだよ」
「この話はやめようタケル、私の決意が揺らぐ」
「僕は! 君と離れたくないんだ、イヤップやティト、ウェレン、ロンだって同じさ」
僕が彼にこう提案したのは、ひとえに九龍がやってみせた奇跡の御業にある。
今の僕らの力なら、ライザの故郷を必ず救える。
これまでは不可能とされてきた世界間の転移も、実現可能になった。
アオイが発明したアーティファクトのあれを使えば、きっとできる。
「……わかった、一先ず、もう少し様子見する。私はタケルの傍に付き添い、それが実現可能かどうか見極めたく思う」
「ありがとうライザ」
「お礼を言わねばならないのは私の方だ」
僕はまたライザと抱擁を交わし、彼との絆をさらに深めた。
「お熱いこと、ですがよく見かける光景ではありますわね」
その時、モニカがどこからともなく現れる。
そう言えば彼女からDMを貰っていたらしいが、何の用だろう?
「モニカ、今回は何の用かな」
「通達を出しましたが、まだお読みになられてないのですね」
「ごめん、ちょっと昨日は忙しくしてて」
「いいですよ、とりあえず王室の方針は固まりましたので」
王室の方針? なんかいやーな感じ。
モニカは目でDMを読めと催促しているので、素直にステータスウィンドウを開いた。
『竹葉タケル様 この度、王室の第二王女アンナと貴殿の婚約を締結したく近日中に王室への召喚を命じる。これは貴国と我が国の友好関係を固めるために必要不可欠な政治である。我が国の民衆も、貴殿の国の民衆もこの婚儀を心より願っていることであろう』
「……面倒事増やさないでくださいよ」
モニカ、ならびに王室は政略結婚を仕掛けてきやがった。
モニカとは以前仮初の夫婦関係にあったこともあり、彼女のやり口はわかっていた。
わかっていたはずなのに、どうしていつも出し抜かれるのだろうか。
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