第147話 役満だお

 アオイちゃんちーの助力のかいあって、倒すべき九龍はあと二人となった。


 老師のような風体の地のカイザーと。

 王都にいそうな貴族侯爵然とした月のアーロン。


 二人が勝負を受けたのは麻雀だった。


 そしてその二人に対して「面が気にくわねぇ」とヒュウエルが静かに闘志を燃やし始める。残された一枠に座っているハリーはイカサマが冴えわたるし、ルールを今覚えたての二人でもなんとかなるかもしれない。


「たしか、カイザーとアーロンって名前だったよな? 二人はどうやって九龍になったんだ?」


 ヒュウエルは二人の素性を探ろうと、筐体の仕切り板越しに語り掛ける。

 そんな語り掛けに、地のカイザーが興じるように答えようとしていた。


「わしらのことが気にかかるか?」

「質問に質問で返すな、ガキでも知ってるぜ?」

「ふぉっふぉっふぉ、わしらが九龍になった理由らしい理由など、ありはしない」


 そうなのか。


「この大陸が生まれると同時に、わしらは魂の選定を受けた。どうやらこの世界は死と生を繰り返す仕組みになっているようでな。わしにも一応前世とやらがあったそうじゃが、魂の選定時に前世の記憶は洗い流されてしまった……お主、ヒュウエルとかいったかの」


「ああ、そうだ」


「わしやアーロンに見覚えでもあったのか?」


 地のカイザーの疑問に、ヒュウエルは口をつぐんでしまった。


 答えないってことは、カイザーの言う通り、ヒュウエルは二人に見覚えがあったのだろう。その話は追々、ヒュウエルの口から昔話の一環として聞ければいい。今は二人に麻雀で勝つことが最優先だ。


「なぁおい、タケル、今一要領えれねーんで、ちょっとサポートしてくれねーか?」

「カイザーとアーロン、二人は麻雀の素人なので、僕が手ほどきしてもいいですか?」


 というと、饒舌気味のカイザーは健やかに笑っていた。


「ふぉっふぉっふぉ、なんでもえぇぞ。素人なぞにわしらは負けん」

「とりあえず、銅貨一枚でゲームできるから、この差込口に銅貨入れてね」


 というと、二人はためらうことなく銅貨を支払った。

 まぁこれが金貨とかなら、少しはためらったりもするだろうけど。


「次にアバターを選ぶんだ、ヒュウエルとハリーは初心者だから基本的な四つの中から選んで。アバターは単なる装飾品だから、ゲームの能力とは関係ないよ。これは麻雀という現実にあるボードゲームをデジタル化しただけのものだからね」


「へへ、おもしれー女、こいつにすっか」


 ハリーは女性のアバターを選び。

 ヒュウエルは男性のアバターをチョイスしていた。


「今回はプライベート対戦モードにして、近くにいる四人で戦うようセッティングするんだ。そのセッティングは僕がやるからみんなは待ってて、えっと」


 これをこうやって、こう、っターン!


「そしたら麻雀が始まる、デジタルだから自動的に配牌され、先ずはハリーの手番だよ。あとはさっき教えた通り、役を作って誰よりも先にあがればいい。そして最終的に相手の点数を上回っていれば僕らの勝利だ」


「へへ、なるほどな……じゃあ試しにこいつを切るか、へへ」


 こうして、素人二人と、玄人二人による麻雀大会は幕を切った。


 幸いなことに九龍は暇を持て余している傾向にあるから、何回挑んでもいいみたいだ。出来れば三戦ほどやらせてみて、こつを掴んでもらって、後はヒュウエルとハリーの持ち前の運で勝利と行きたい。


「――ロン、倍満だな。ふぉっふぉっふぉ」


 しかし早速、ヒュウエルがカイザーの待ち牌にぶっこんでしまった。

 倍満だからヒュウエルの48000点の持ち点からカイザーに8000点渡る。


「なるほど、こいつは頭使うゲームだな」

「へへ、俺こーゆうゲームは大好きだぜ。痺れるよな」


 思いのほか、ヒュウエルとハリーの反応はよかった。


「お兄ちゃん、九龍の連中にもステータスウィンドウを付与しておいたら?」

「それもそうだな、今後は協力していきたいし」


 ゲームの真っ最中ですが、ステータスウィンドウ付与。

 付与したあとはステータスウィンドウの使い方をざっくばらんにレクチャーした。


 その間にも。


「――ロン、跳満です」


 ヒュウエルがアーロンの持ち牌にぶっこんでしまい、がっぽり点数取られていた。


「ヒュウエル、相手の捨て牌からあがり牌はある程度見えるので、そこ意識してください」

「そんなこと言われなくてもわかってる、ただ」

「ただ?」


 ヒュウエルは口を噤み、言いかけていたことをやめてしまった。


「ふぉっふぉっふぉ、ヒュウエル、お主、わしとアーロンと因縁があるとでも言いたげじゃなぁ、何が遭ったと言うのだ?」


 カイザーがそう聞くと、ヒュウエルは嘆息を吐いていた。


「昔の話だよ、まだ俺がリィダと切磋琢磨していた時代の、遥か昔のこと。たしかに二人は俺の知り合いによく似ている。だからひょっとしたら、お前さん達は俺の知り合いが転生した姿かもしれねーな」


「おっと、ヒュウエル、それ貰ったぜ、へへ、七対子だ」


 ヒュウエル、まさか同じ素人のハリーにまでぶっこんじゃうなんて。

 月のアーロンはヒュウエルの卓を見ようと背をのけ反らせている。


「できれば教えてくれないか、俺たちの前世のことを」

「断るよ、お前、前世の自分が聖人君子だとでも思ってるのかよ」

「違うのか?」

「……少なくとも、お前らを倒したのはこの俺だ」

「ほう、ならばこの試合は我らの雪辱でもあるわけか」

「知らねーよ、ただこれだけは言っておいてやる」


 ヒュウエル、貴方は実力が実力だけに、どうしても因縁が多いようですね。

 何気なくヒュウエルの筐体を後ろから覗くと、僕はありえない光景を目撃していた。


「九龍の全員は、タケルに感謝しとけよ。タケルがいるからこそ、今、お前らはこうして自分の好きなゲームを出来ているんだからな。そのタケルが今お前らの協力を仰ぎたがっているんだ――ツモ、でいいんだったか?」


「ふぉ、やりおる」


 と、カイザーはヒュウエルのツモ牌を確認してないみたいだが……これは!


「……なぁタケル、トリプル役満って、なんだっけ?」


 麻雀の素人のハリーが表示されたヒュウエルのあがり役を聞いて来る。

 僕はありえない事態にすこし困惑しつつ、説明を口にした。


「や、役満はあがられた時点でゲーム終了です。点数は子だから32000点。だけど滅多にあがれる役じゃないし、さらに言えばヒュウエルのはトリプル役満、つまり96000点がヒュウエルのもとに入って、ヒュウエルの勝ちだ」


「馬鹿な! ゲームとは言え、トリプル役満を出せる人間がこの世にいるなんてっ」


 アーロンは動揺し、声を荒げて席を立った。

 カイザーは目を見開き、ふぉえーと驚嘆している。


「この勝負、俺の勝ちでいいんだな? じゃあテメエら、さっさとタケルの願いを叶えてやれよ」


 ヒュウエル、恐ろしい子。

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