第146話 残るはあと二人、だお

「タケル、いけるんじゃないか?」


 うむ、ライザの言う通り今は僕の優勢。

 隣の筐体に座っているゼオラをちらりと見ると、上着のジャンパーを脱いでいた。


 真剣な様子で僕との試合に集中している。


 しかし、甘い。

 ゼオラのデッキは、カードショップを伝って入手した僕のデッキより総合的に弱かった。なので――


「クソっ!!」


 天のゼオラ攻略だお( *´艸`)。


「まぁ、ゼオラもいい線いってたよ。ただ僕の方が上手だっただけだぇ」


 それじゃあ、次の九龍紹介してくれゆ? ゆゆ?


「負けたこともそうだが、お前の顔は腹立つな」

「( ^)o(^ )」

「闇のブラムであれば、このビルの格ゲーコーナーにいると思う」


 あの人か。

 闘技大会に来たのはいいものの、大会を格ゲー大会だと誤解していた馬鹿ちん。


 あの人は闇の冠を着ているだけあって、黒い出で立ちが特徴的だったよな。

 地下に行き、格ゲーコーナーに向かえば、すぐに見つかった。


「ブラム、ちょっといいかな」

「……お前誰?」

「ゼオラから聞いてない? この国の王のこと」

「お前がそうなんだ」

「初めまして、竹葉タケルです。隣にいるのは親友のライザ」

「ライザの方は知ってる、大会で見たから」


 黒い上下服に、黒い短毛に黒い双眸。

 まぁ様になってるからいいけど、本当に黒一色だな。


「俺に何か用か?」

「実は、今訳あって九龍を攻略しなければならないんだよ」

「ふむ」

「それでゼオラはさっき倒してきた、と言ってもゲームでだけどね」

「ほう、やるな。ならこの俺も倒して見せるか? 俺が得意とするこの格ゲーで」


 もちろん、やりますよ!

 と意気込んだのはいいものの、格ゲーは熟練度やセンスがものをいう。


 さっきゼオラに勝てたのはカードを不正に入手したからであって。

 格ゲーでは、それが通用しない……ぇ。


「く!」

「国王だかなんだか知らないけど、弱いな。その腕でよく挑めたな」


 十戦やって全敗、勝てる要素は自分でも見いだせない。


「ブラム、ちなみになんだけど、他の九龍はどんなゲームが得意なの?」

「他はFPS、と、あと落ちものパズル、あとはえっと……麻雀だったかな?」


 麻雀は豪運があれば辛うじていけるかもだけど。

 FPSやパズルゲーに、運要素はほぼない。


「その他は音ゲーと、MMOが好きな奴もいるし」


 どうしよう……どうすれば、いいんだ!

 肩からがっくりとうなだれていた時、僕は思いがけぬ人物を目に入れた。


「ララララララ! いーよし!」

「……なぁアオイ、お前自分の領土を設定した割には僕の国に居座ってるよな」

「あ、誰かと思えばお兄たま、聞いたよー、最近行方不明だったらしいね」


 隣にいたライザを見ると、一応までに伝えておいた、と顔で言っている。


「そう言えばアオイって、ゲーム得意だったよな?」

「まねー、一時はプロゲーマー目指してたし」


 アオイが小自慢すると、今まで対戦していた闇のブラムに火がついたようだ。


「プロゲーマーの卵か、俺が揉んでやるよ」

「お兄ちゃんこの陰キャ中二病はどなた?」


 という訳で、僕の代理人としてアオイが乱入。

 手始めに格ゲーを得意とするブラムと戦ってもらうことにした。


 まぁ結論から語ろう、この勝負。


「しゃあっ! 闇のブラムって言ったっけ? 雑魚のブラムの聞き間違いじゃなくて?」


 勝負は煽りまくりのアオイが勝利をもぎ取った。

 途中から観戦していた天のゼオラが声をかける。


「ブラムまで負けてしまったのね」

「……」

「何か言ったら? まぁ、潔く認めることも大事なんじゃないですか」

「ああ、アオイって言ったか? とりあえず今日は俺の敗北でいい」


 ――けど、次の機会に恵まれたら。


「その時は土下座を賭けて勝負してもらうぞ」

「次の機会とか言わずにさぁ、今からでも勝負したらいーじゃん」


 舌戦がヒートアップしそうだった二人をとりあえずなだめ。

 僕たちは次の九龍のもとへと向かうことにした。


 ◇ ◇ ◇


 その後も、アオイちゃんちーのゲームセンスはフルに発揮される。


 FPSを得意とする火のインディゴを破り。

 ガンシューティングを得意とする水のウェンディを撃破。

 さらにTPSを得意とする風のパンサーにも勝利。


 そのまま勢いに乗って音ゲーを得意とする雷のシンク。

 落ちものパズルを得意とする山のティタンにも勝利を収めた。


「さぁ、次はどいつが相手!? 九龍なんて名前ばっかりのぼんくらやんヒャハー」


 底の知れない相手をぼんくら呼ばわりして自爆するアオイの未来が見えた気がした。

 まぁそれはそれとして。


「ゼオラ、後の二人は何を得意としてるんだっけ?」

「月と地の九龍は、麻雀ですよ」


 麻雀か……恐らく、アオイちゃんちーには無理だな。

 一応までにアオイにいけるか? と聞くと、そくざに首を横に振る。


「麻雀はおもろーない、麻雀やるくらいなら百人一首の方がまだいける」


 だよな。


「タケル」


 最後の九龍攻略をどうしようか思案していると、見知った顔から声を掛けられた。

 立派な口ひげと、恐ろしい強さが秘められた鋼の肉体を持つ元勇者――ヒュウエル。


「ヒュウエル、それとハリーまで、どうしたんですか?」


 街中でのヒュウエルとハリーのツーショットは珍しいと言えば珍しい光景だな。


「闘技大会の優勝賞金、まだ貰っちゃいねーからな。どうなってるのか確認しに来たんだよ」

「とかなんとか言ってるけどよ、へへ、ヒュウエルもタケルのこと心配してたぜ」


 ……適任だな。

 この二人は麻雀を知らない素人だろうけど、なんか強そう。


 僕は二人をゲーセンの麻雀コーナーにエスコートした。


「なんじゃ、九龍の面々が一斉にそろい踏みしたな」

 そこには老師のようなたたずまいの九龍、地のカイザーと。


「……もしかしなくとも、貴様らは負かされたのか?」

 侯爵のようなたたずまいの九龍、月のアーロンの二人が麻雀に興じている。


「地のカイザーと月のアーロンですね? 初めまして、この国の王をやっているタケルと申します。今日は九龍を攻略してまわっているのですが、残されたのはお二人となりました」


 というと、二人は同時に「「はぁ」」とため息を吐いた。


「普段から尊大な態度を取っているくせに、情けない」

「良いではないですかカイザー殿、所詮こいつらの好事するものは陳腐だったのですよ」


 月のアーロンは続けざまに、だが、麻雀は違うと豪語する。


「私とカイザーが受けて立ちますよ、他のふがいない九龍の雪辱を晴らして見せます」

「わしらの相手は誰じゃ?」


 それはヒュウエルとハリーの二人になる、が、しばしお待ちを。


「ヒュウエルとハリー、麻雀のルールはわかりましたか?」

「ああ、一応な」


 しかし、特に現金主義なヒュウエルがただで受けてくれるとも思ってない。

 僕はステータスウィンドウを開き、金貨三千枚をヒュウエルに払おうとしたら。


 ヒュウエルは何も言わず素直に麻雀の筐体に腰を下ろした。


「へへ、よくわからねーが、タケルの期待に応えるのが俺の生き甲斐よ」

「ありがとう二人とも、でもヒュウエルはいいんですか?」


 ただ働きになりますよ? と確認すると、ヒュウエルは重たそうにしていた口を開いた。


「この二人の面が気に食わねぇ、だから負かしてやりてーんだよ」


 ヒュウエルがさっそく対戦相手に文句つけると、地のカイザーは苦笑をこぼしていた。

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