第138話 闘技大会その一、だお

 ウルルと一緒に穏やかな時間を過ごせた。

 僕はそのまま闘技大会の場所に向かった。


 広い空き地に円盤状の石舞台が中央に置かれていた。

 中央の舞台の周りには観客席が連なるように敷かれている。

 大会中はザハドが観客席に結界魔法をしいて、出来うる限りの安全を確保している。


 僕が闘技場に着いた頃には、観客席はほぼ埋まっている状態だった。

 僕はウルルを連れて主賓席へと向かう。


「お兄ちゃん、さっきぶりだね」

「アオイか」

「アオイか、じゃないよー、今からお前の所の奴をぶっつぶすんで! よろしく」

「じゃあアオイの国からも代表が出るのか、一体誰を……」


 主賓席から俯瞰して見えたあの男は、今燃え滾っているようだった。


「ウォッシャアアアアア!! これでさみしかった俺の人生に華が咲くぜ!」


 ジュード、あの爆弾大馬鹿野郎も大会に出ると言うのか。


 トーナメント表を見ると、ジュードはライザと第一試合で当たる。

 戦いは何が起こるかわからないが、こりゃ楽勝っすわ。


 他の対戦カードを見ると、ヒュウエルとエレンの試合まである。

 こりゃ胸熱の展開必至すわ。


 あとは、九龍を代表して闇のブラムとやらも出場するし。

 王都を代表してランスロットも出るのか。


 色々とハチャメチャな戦いが繰り広げられそうだ、ワクテカ!


「では、只今よりジパング開国記念闘技大会を行うものとする。各人舞台に上がってもらおう」


 ダニエルが闘技大会の審判をするらしい、適役すぎて何も言えない。

 僕はてっきり、ハリーが審判するものだと思っていた。


 ダニエルに言われ、今回の出場者たちが円柱状の舞台の上から観客にアピールしている。俺こそが勝者だと、皆闘気をむきだしにして熱気でむせ返り。その中でも一人冷静沈着にたたずむヒュウエルを見て、異様な空気を感じていた。


 それは隣に立っていたアンディも同じだったらしい。


「屑様、ヒュウエル勝つかな?」

「わからない、けどヒュウエルは負ける気がしないよな」

「ああ……」

「声援の一つでも送ってやったらどうだ?」

「それはいいよ、邪魔になるだけだし」


 ヒュウエルの場合なら本当にそう言いそうだ。

 そんなヒュウエルに、第一試合でぶつかるエレンが語りかけていた。


「まさかヒュウエルをこんな場所で見ることになろうとはね、私の後を追ってきたの?」

「馬鹿野郎、俺のお目当ては大会の賞金だけだよ」

「ふーん、でもなんだっていいの。ヒュウエルと試合して、ちょっとは成長したってこと、見てもらわないとね」

「見るまでもねぇさ、お前はいい女になったよ、エレン」

「……今さらなのよ」


 闘技大会に出場する選手たちに、観客席から裂ぱくの掛け声が飛ぶ。

 絶対に勝て! 死んでも勝て! 栄光を掴め!


 舞台にいる選手たちはその掛け声とともに、戦意を高めていくのだった。


 ◇ ◇ ◇


「それでは、これより第一試合、ジュード対ライザの試合を行う! 双方とも準備はいいか!?」


 今大会の審判の軍神ダニエルが二人に確認すると、ジュードがエラーを起こした。


「その前に!! 聞いて欲しいことがあるんだ!!」


 なんだなんだ、ジュードの奴は何をしようって言うんだ。


 って、――そうだ。

 今さらだけど、ジュードは確かゆりちーさんがどうのこうの言っていた気がする。


 ジュードは持ち前の大声で会場を静まり返らせると。


「……ゆりちーさん!! ゆりちーさんはいますかッ!?」


 お目当ての人の名前を呼んでいる。

 ジュード、他人事だけど、恥ずかしいよ。


「俺は!! 今日の大会で、勝って、勝つと同時に、ゆりちーさん、貴方にプロポーズしたいです!!」


 僕は恥ずかしかったけど、会場にいた観客は一瞬の笑い声のあと、歓声を上げた。


「アオイ、お前がジュードを選抜した理由ってこれか?」

「まぁね~、最高のシチュエーションじゃない?」

「さぁ、どうなんだろ」


 審判もとい、今大会の進行役でもあるダニエルがジュードの肩をつかむ。


「もういいか? そなたの想いはゆりちー殿にきっと伝わっている。後は大会に勝って、二人きりの時間を持ち、その時改めて告白するといいだろう」


「ああ! 俺はやるぜ!!」


「では仕切り直して、これより第一試合を行う。双方構え!」


 ダニエルが審判でよかった。

 彼は無理なく大会を進行している、名審判だ。


「ライザ! お前のことはよくしらねーが、勝たせてもらうぜ!」

「……ジュードが勝たねばならないように、私も勝たねばならない理由がある」


 ライザはジュードから剣尖を向けられ、半歩引いた半身の構えを取っていた。

 この試合、僕はこれといった不安は覚えなかった。


 ジュードが相手だから? というのもあるけど。

 ライザへの絶対的な信頼が、僕に勝利のイメージを見させるんだ。


「では、第一試合……始め!!」

「喰らいやがれッ、ジュード様秘伝の大花火ッ!」


 ジュードは観客のことも考えず、大型の爆弾を生成しライザに目掛けて投げた。

 これがゆりちーさんへの想いだと言わんばかりの自爆攻撃。


 ライザは投げられた爆弾を――下から風を起こしてジュードと一緒に上空へと運ぶ。


「おお! なんだこりゃ!」

「私の第二の勇者スキル、風遁だ。お前の爆弾は危険極まりないので返すとしよう」

「な!? ちょま! やめ!」


 ――ッッッッ……!!

 会場の上空で、ジュードが生成した爆弾が本人と一緒に大爆発し。


 ジュードは爆破の影響で気絶して、そのまま舞台にぼて、と落ちた。


「勝負あったな、第一試合を制したのは――ライザ!!」


 ダニエルによってライザの勝利が告げられ、僕は誰にも見えないように小さく拳を握りしめる。それに次いで、観客も大歓声を上げ、闘技大会への期待値をどんどんあげていくのだった。

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