第135話 再生の歓喜、だお

 アンディの転移能力を使い、グウェンがいる神々の楽園へと向かった。


「おお、愛くるしい目をしているな貴様」

「え? えっと」


 グウェンはアンディと共だっていたロンの両肩に手をやり。


「周囲にいる者を老若男女問わず虜にする儚い存在、見事」


 といって、ロンを抱擁していた。

 グウェンが動物愛護にかまけている横に、ダランが立っていた。


「お久しぶりにしておりますね、三人とも」


 ダランはグウェンとは違って恭しい態度の女神だ。

 例えあっしらのような無知蒙昧な小僧にでも、敬語を崩さない、へへ、出来た女神でさぁ。


「グウェン様、ダラン様、お久しぶりにしております」

「ケヘラン、再びこうして会うことが出来て嬉しいです」


 ダランにそう言われると、ケヘランは手で涙をぬぐうようにしていた。


「ダラン、それとグウェン、折り入って聞きたいことがあるのですが」

「なんでしょう?」

「ケヘランやザハドに知能を与えた薬があるそうじゃないですか」

「ありますね、それが何か?」

「その薬をどーしても入手しなくちゃならないんです、そういう事態になったんです」


 だから、ダランのお薬ちょーだい!

 まるでギャルのパンティのようにおねだりすると、アンディが汚物を見る目でいた。


「萌え豚がよぉ」

「(´◉◞౪◟◉)」


 ダランは修行をつけてくれていた時から、僕らの言うことを聞き入れてくれる趣向にあった。ダランは「追い求める心こそ、魔の真髄」と僕によく言い聞かせていたぐらいだ。


「……構わないですよ、ですが」

「何が問題が?」


 ダランはいつになく、困った様子でいる。


「あれは神々の楽園に湧き出る泉を主成分にしているものです。今、その泉は枯れている状態にあります」


「えっと、ほんの一滴でも薬は残ってないんですか?」


「えぇ」


 なんてことだ……! 僕はその薬にわずかな希望をつないでいたのに。

 また問題発生か、ツイてない。


「……アオイをここに連れて来い、タケル」


 するとロンを愛でていたグウェンがアオイちゃんちーの名前を挙げた。


「なぜ、ですか? アオイとは今はたもとを別っていまして」


「何を仰々しいことを言っている、所詮は兄妹のすれ違いていどの小事でしかない。いいからアオイをここに連れて来い。そしてアオイが得た新しい能力を使い、神々の楽園を再生させるといい」


 そう言えば――たしかアオイの新スキルって、リサイクルだったよな?

 アオイのそのスキルを使えば、もしかしたら件の泉も復活する?


 この推測にたどり着くと、グウェンは不敵な笑みで僕と視線を合致させていた。


「そういうことだ」


 ほーん、なるほどね!

 なら急いでアオイの寝所を強襲、じゃなかった、偵察しに行こう。


「ふほほほほ、男は愛する男のために、男は愛される男のために、ふほほっ」

「アオイー、ちょっといいかー?」

「何、お兄ちゃん……ん? なんか引っかかるような?」

「アオイ、折り入ってお前に相談があるんだよ」


 新大陸に新しく興行されたアオイの国、ミヤビ。

 アオイは九州地方にあった豪邸の一つを自室として占有していた。


 室内は妹の嗜好らしいピンク色の壁紙を基調としたデッコデコの部屋だ。


「相談って?」

「お前の新スキルでグウェンの住処を再生するんだよ、あくしろ」

「ちょっと待って」


 ……気づかれたか?


「今、この本のいいところだから、読み終わるまで待たれよ」


 ふぅ、そうか。

 アオイはどうやら気づいてないみたいだ、ニチャァ。


 今、アオイの家の周辺にはザハドが錯覚魔法を仕掛けている。


 アオイがどういうつもりでミヤビを国興したのかわからない。グウェンに連れてくるよう言われたとき、元々アオイのお付きをやっていたザハドがこの計画を提案したのだ――アオイであれば引っかかってくれるでしょう、と。


「って何やってるんだよアンディ」

「え!? ちょ……なんかここらへんに、な、何かが隠されているような気がして」


 同参していたアンディはロンと一緒にアオイの下着を漁っていた。

 アンディの将来がにわかに心配になったよ。


 して、錯覚魔法を掛けられたアオイを神々の楽園に連れていく。


「うへへへへ、うへへ、しあわせー」


 アオイの目は逝っていた。

 グウェンがそんなアオイに早速、スキルを使うように促す。


「うむ、これがガン決まりという状態だな。さぁアオイ、神々の楽園を再生するといい」

「りょ!」


 アオイは両手を地面につき、リサイクルと詠唱する。


 瞬間、背筋に言いようのない怖気が走った。

 ダランは僕の肩に手をそえて、慈母のような目つきでいる。


「タケルは感のいい子ですね、貴方が今感じたのは神気です」

「神気って、言われても、これは」


 この気配には、自我を失いそうになる。

 愚直なことを言えば、僕がオナヌーしたあとに押し寄せる全能感。

 あの体感が空気を鼻で吸った先から、僕たちを支配するかのようだ。


「神とは、全能が故に、よく見間違われるのですよ。神は全てを知り、そしてあがめられます。それはある種の人間にとっては狂気じみてさえいる領域なのです」


 恐怖や孤独、絶望を感じると同時に。

 僕の身体は今、圧倒的な快楽に包まれている。


 神に生まれなくてよかった、と僕の本能が訴える。

 ここはあまりにも僕に不釣り合いな禁域だったんだ。


 身体を震わせ、委縮する僕をダランは支え。

 グウェンは、再生したかつての神域に、全身をもって出迎えていた。


「我々は今、喜びに満ちている」



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