第132話 一先ずの帰還、だお

「そうです、私です、この大陸で一番偉いノアで御座います」

「ノアに次いで偉いギリーです」


 僕たちは竜の群れに囲まれている。

 その折に女神のノアたちと対峙している。


 ノアがパチンと指を鳴らすと竜の群れは解散していた。

 緊張感ある場面が一転して台無しだな。


「それで、ノアの隣にいる人は誰?」


 竜種の群れが立ち去ると、その人は自然と視界に入った。


 ウルルと同じ白髪の持ち主で、精緻な髪は風になでられるとふわりと揺れ。

 燃え盛るような赤い瞳と色素の薄い肌が印象的な短髪で小柄な女性だった。


「紹介しましょう、こちらにいるのは九龍クーロンの一角、天のゼオラです」

「初めまして」


 九龍の一角? 天のゼオラ……たぶん、中身は屑だな。

 うやうやしい態度で挨拶したけど、きっと今に豹変する。


 ライザもノアの登場に牙をそがれたようで、剣を収めていた。


「九龍の一角というのは、特急ダンジョンのヌシのことか?」


 ライザが問うと、紹介された彼女は口角をつりあげて微笑む。


「そうですよ、大陸に住む九龍を代表して皆さんにお伝えしたいことがありまして」

「何だろうか?」

「……――ぼんくら共が、好き勝手してるんじゃねぇ。と」


 純真無垢そうなゼオラが本性を表したようで、脳内の僕は塵芥と化した。


「ですが、皆さんにも利用価値というものは存在します。無益な争いは辞めませんか?」

「そうしよう」


 彼女の提案を飲み込んだのはかくいう僕で。


 僕の返答にランスロットやナナが嫌な顔していた。


「そう嫌そうな顔しないで、ゼオラの提案は平和的でいいじゃないか」

「確かに争わなければ誰も傷つかずにすむ。けどそれは見え透いた幻想だよ」


 ナナはランスロットの言うことは一理ありますわね、と賛同している。


 しかし、僕たちはあることを理由にその提案を飲み込まなければならなかった。


「ノアからは色々と聞かされております、貴方たちが持つ秘密を」


 ゼオラがそう言うとランスロットとナナは手のひらを反すしかなかったようだ。


 ナナは恨めしそうな目でノアを睨むが、ノアとギリーの二人は小躍りしている。


「平和、平和、らぶあんどぴーすじゃあ御座いませんか」

「v(・∀・)v」

 これが正真正銘の、アへガオダブルピースってね(意味不)。


 して、僕らは来た道を戻って群馬方面から東京方面へと帰った。

 来た時と同じように先ずは上空にジャンプして、アオイの魔導グライダーで戻る。


 滑空するように帰路についていると、何故かゼオラ嬢がついて来ていた。


「……ゼオラはダンジョンにいなくていいのか?」


 僕に並走していたライザが聞くと、ゼオラは素直に答える。


「貴方たちにお願いしたいこともいくつかありますので」


 なんやろ?


 拠点となるホテルの前につくと、ウルルが駆け寄って来た。


「お帰りタケル」


 ウルルは僕に抱き着き、無事帰還したことを喜んでいるようだ。


 彼女や、ライザとの抱擁を感じ、僕はあることを受け入れていた。


 アオイやダニエル将軍の独立は、すでに起こったことでもあるし。

 今さらどうしようが、現実は変えられない。


 なら僕はこの現実を受け入れて、これから先のことを思索しよう。


 そう思った。






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