第130話 僕が今やるべきこと、だお

 今までは僕に付き従っていてくれた人々との別れがあった。


 アオイちゃんちーが引き抜いた人数も相当なもので。


 僕の国づくりは早々に崩壊してしまった。


 これまで過労を押して尽力したけど、すべて無駄だったんだ。


 当然のようにやる気がなくなり、僕はあれからエロゲ三昧の日々を送っている。


「うへへへへ、ここがえぇんやろ?」


 今僕は、エロゲの中でも王道ジャンルである痴漢ものを嗜んでいる。

 それもサキュバスに対して痴漢する奴だ。


 モニターに映ったヒロインたちの弱い所をクリッククリック。


『あはぁ! そこは、嫌……なのに』

「うへへへへへ」


 モニターに映るヒロインの淫蕩な姿につばを垂らしている。

 そんな毎日を送っていた。


 嗚呼、これからもずっと、こんな日々が続けばいいな。

 って思うじゃん?


「気持ち悪いッ!」

「だお!?」


 しかし、その日々はエレンの侵入的来訪と共に断ち切られるのだった。


 エレンはエロゲに熱中している僕の背後を取り、しばらく様子を覗っていたらしく。


「タケル、腐るにしてももうちょっとマシな腐り方してくれない?」

「マシな腐り方ってなんですか」

「例えば国中の女と毎日遊びまわる、とかよ」

「そんな生き方は禍根を残すだけで、僕にはできませんお」


 僕は腐って(?)以降、ウルルやイヤップと言った女性と距離を置いていた。無気力で自堕落な生活を送っている今の僕に、誰かとお付き合いしていく資格などないと思えるから。


 リンもその内の一人だった。

 彼女から距離を置いたことで、エレンは部屋に忍び込んだのかもしれない。


「私ね、偵察しに行ってきたのよ」


 偵察?


「アオイの所ですか、それともダニエル将軍の所ですか」

「どっちもはずれね、この大陸に眠る真のお宝に興味ない輩に、しょせん王なんて務まらないのよ」


「……別にいいじゃないですか、今挙げた二人は僕より百倍も王の素質がありますよ」


「あらら、今じゃあ張りぼての虚勢すらもなくしたのねあんた」


 ああ、そうだよ。

 今の僕はエレンたちが言う通り、腐ってるんだ。

 このまま限界まで腐って、ネ申になるんだよ。


「アンディが心配してるわよ?」


 知ってる。


「オーク先生といった、学校関係者が悲しんでたわよ?」


 知ってる。


 エレンが示唆した人たちからは、時折DMが来るから。


 でも、どうやら僕は重大な過ちを犯してしまったようで。

 ライザ――狐面の勇者で、僕の無二の親友からは音沙汰がなくなってしまった。


「ライザは今どうしてるんですか?」

「ライザだったら今頃、特級ダンジョンに挑んでると思うわよ?」

「特級ダンジョン? エレンが調査していた九つのダンジョンのことですか」

「えぇ、私が偵察に向かったところ、ある竜からこう言われたのよね」


 ――この大陸にある九つのダンジョンを乗り越えた時、お前の願いは叶うだろう。


「ってね、私にそう言った竜はダンジョンの主らしいわ。その話をライザにこっそり話したら、あの子ってば、タケルには内緒で九つのダンジョンを攻略して、タケルに吉報を持って帰ろうって張り切っちゃってねぇ」


 なんてことだ、ライザは危険を冒してそんなことしてたのか。

 今すぐ辞めるよう言わないと。


『ライザ、馬鹿な真似は辞めるんだ。僕だったら平気だから』


 とのDMを送ると、エレンがにやけていた。


「なんですかエレン」

「なんでもないわよ、ただ、あんたが腐るにはまだ早いって思ってね」


 かも知れないけど、失った国民は元いた国民の八割にも及ぶ。

 幸いなことに知り合いを始めとした関係者は残ってくれたが、どうしようもないじゃないか。


 けど、エレンは今回の事態がさじたることと言いたげに、悪戯な笑みをこぼしていて。


「もう少しだけ、頑張ってみたら?」


 僕の背中を押すようにしていた。


 その時、ステータスウィンドウの通知音が鳴り、ライザから来た返信を目にして。


 僕は、僕が今やるべきことを思い知るかのように、血の気を引かせていた。


『助けてくれ、タケル』

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