第129話 分裂、だお
「所で、アオイはこんな遅くまでアキバにいて、帰れるのか?」
「は!? 今なん、ってもう19時か! やばい帰ろ」
……帰ろって、どうやって?
前言すれば、アオイとその仲間は西日本を勝手に占領した。
だから思うに、沖縄地方に拠点を構えたと思うんだよな。
毎日遊んでいるように見せかけて、何か隠しているのは兄である僕には見え透いていた。
「送ってやるよ」
「大丈夫だよ、一人で帰れるし」
アオイが帰ると言い出したところで、オタトークで盛り上がった四人は解散ムードになった……しまった、そう言えば今日はアンディと伝説の木の下で待ち合わせしてたんだ。
ステータスウィンドウを開き、アンディの返信を確認しがてら。
「……右、ヨシ! 左、ヨシ! 上下も、ヨシ!」
僕はアオイちゃんちーの後をつけていた。
アオイは僕の国の誰にも見つからないよう警戒している素振りだ。
馬鹿な奴、ステータスウィンドウでなら僕の尾行も簡単にわかるというのに。
屑スキルと侮るなよ?
そのまま尾行し続けていると、アオイは街の一角にあるビルの屋上に向かい、不思議な出で立ちをした門らしきものの前で立ち止まる。
「……右、ヨシ! 左、ヨシ! 上下も、ヨシ!」
上下左右の確認はあっても、前後の確認がない。
むしろ、これは妹による釣りだった可能性も強まって来た。
「よし、帰るか」
アオイはその不思議な門をくぐると、姿を消していた。
そこで僕は門に近づき、恐らくアオイがクラフトスキルで作ったこれの機能を想起する。
「これ、ひょっとしなくても転移ゲートって奴か?」
恐らくそうだろう。
僕はアオイの兄だから、行動から大体の推測はたっていたが、まさか本当に……。
そこで、僕は急きょザハドを招集した。
時刻は午後八時に差しかかり、街では夜行性の竜種が活動をし始めた頃で。
「お呼びでしょうか」
「ぬぁ!? びっくりしたー」
闇の中からぬめりと現れたザハドに一驚する。
して、ザハドにもこの門の正体について尋ねた。
「私も見たことがない魔導具ですね、恐らくタケルの推測通りの代物かと」
ということだった。
恐らくこの門は入り口と出口、対をなす門があって初めて機能するのだろうが。
この魔導具のことがモニカに知られれば、あいつワンチャン消されるぞ。
モニカのことだろうから、アオイを懐柔しようとするだろうけどさ。
とその時、アンディから重要なDMが入った。
『屑様、今すぐ帰ってこい。なんか大変なことになりそうだぞ』
このタイミングでアンディから帰るよう言われる。
とりあえず、この門のことは保留にしておき、ザハドと拠点のホテルに帰った。
ホテルのロビーには大勢の人集りができていて、ライザが説得しているようだった。
「この国をさっそく捨てようと言うのか? 貴方達はこれまでタケルにどれほど世話になったと思っているのだ」
と人集りに向かってライザが言うと。
「私たちは腐っても王都の人間だったってことだよ、先日のダニエル様のお言葉を聞き、今さらわかった――私たちは王都の人間として、王都の繁栄を築き上げるのが人生の正しい使い道だと」
ライザの言葉に老年の男性が答えた。
ライザは彼の言葉に反駁しようとするのだが、男性は手を差し出す。
「もう決めたことだ、我々はダニエル様についていく」
それは、予感していた離反だったと思う。
アオイちゃんちーが勝手に独立し、僕の隣でダニエルが哄笑を上げていた時から予感していた。そして老年の男性は僕を見つけ、歩み寄り最後の言葉を口にし始めるのだ。
「タケル様、今までお世話になりました。我々はこれからダニエル将軍について行きます」
握手を求められたが、胸中を引き裂かれるようなショックを覚える。
グウェンに最後の試練として与えられた、僕の国づくり。
その試練は早々に崩壊し始め、僕の心は暗い闇に吞まれていく。
これまで精一杯、頑張って来たつもりだったけどさ、こう思うしかなかった。
僕の人生、オワタ。
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