第126話 オーク先生、だお

 遠のいた意識。


 目には暗闇しか映らない。


 もしかして、僕は死んじゃったのだろうか。


「タケルは平気なの?」

「はい、恐らく過労性の失神だと思いますよ」


 あ、でもウルルとザハドの声が聞こえた。

 まだ生きているっぽい。


「ですが油断していると、このまま逝く可能性もあります」


 ううう、死にたくないお。

 その後、また意識がフェードアウト。


 僕の目には暗闇だけが映るばかりだった。

 こうして暗闇に意識を置いていると、色々と整理がつく。


 アオイがどうして独立したのか、理由は知らないがもう過ぎてしまったことだと。


「……なんだここは」


 気づくと、僕は赤いヒガンバナが咲き誇る平原にいた。

 一面艶やかな宝石みたいなヒガンバナが咲いている、水平線の向こうまで。


「竹葉タケル?」


 目の前に、白いドレスを着た女性が立っていた。

 彼女が着ている服は神話に出てきそうな感じで、うっすらと肌が透けている。


 見覚えのない人だ、誰だろう。


「それとも人違いだった?」

「いや、恐らく本人です」


 僕は竹葉タケルであっていると思う。

 肯定すると、彼女はヒガンバナの茎を足で押しのけなが近寄って来た。


「会いたかった」


 そう言い、彼女は僕の背中に両腕を回していた。


「貴方は誰なんですか?」

「シャーリー、私は貴方にずっと会いたかった」


 えっと……さ、さきほどから、貴方のおつぱいが胸に当たってて。

 彼女の色香についつい、鼻の下を伸ばす。


「タケル、これは逃れられない運命なのです」

「と言われましても、あ、貴方のおつぱ」

「――貴方は、世界を変えてしまった」


「おっぱいッ!! は、ここは僕の部屋か」


 気づくと、目の前にシャーリーと名乗っていた女性はいなくて。

 僕はホテルのオーナー室のベッドに横たわっていた。


 部屋の明かりが消えていたので、自動精霊にいって電気を点けてもらう。


 すると、暗闇の中にライザの妹のウェレンがいたもので。


「うお! びっくりしたー」

「す、すみません、タケルさん……今姉さんを呼んできます」


 ウェレンは急ぎ足で部屋を出ていき、イヤップのもとへと向かった。


「えっと、自動精霊、今何時?」

「現在は午前三時です、お早う御座います」


 うむ、お早う。

 枕元にあった差し入れの液体を飲むと、体が爽快感に包まれた。


「なんだこれ? ポーションかな」


 ◇ ◇ ◇


 コンコンコン。


「どうぞ」

「失礼します……あの、タケルはどちらに? 回復したと聞いたのですが」

「タケル? 誰かしらそれ……ああ、あの愚王のことかしら」


 拝啓姉さん、僕は過労で倒れるほど頑張っています。

 なのに、エレンとかいう暴力女に、ボッコボコにされるんです。

 僕はただ、彼女にヒュウエルの件を遅れて伝えただけなのに。


「平気ですかタケル? 今回復してあげますから」


 と、部屋に訪れたザハドは回復魔法を使って傷を癒してくれた。

 その時僕ははっとした。


「ザハド、君って確か魔法の才能があるんだよね?」

「えぇ、私は魔法の才能を買われて、グウェンの弟子になりました」


 今までザハドには不動産の管理を一任していたが、これは人選ミスだった。


「ザハド、出来れば君には学校を運営してもらいたい」

「学校を? ですか」

「君の魔法の才能を、無駄にしたくないんだ。君は大らかで、現実主義でもあるし」


 だから、ザハドは教師の才能があるよ。

 そう言うと、ザハドは倒れていた僕を抱えながら言ったものだ。


「それよりも傷を癒さないと、エレン、病人にこの仕打ちはありえないですよ」


 ザハド……ありがたいけど、エレンには何を言っても。


「うるさいわね、気がどうにかして死にそうなのはこっちなのよ」


 ほらな!

 して、僕はその後、グウェンの弟子を部屋に集めた。


 ザハドから事情を聞いたケヘランがエレンと取っ組み合いになっている。


「頭おかしいんじゃないの!」

「アント種の貴方に人間様の気持ちはわからないわよ!」

「上等じゃないの、あんたには特別に蟻酸を喰らわせてやるわよ!」


 喧嘩するなら他所でやってくださいお。


「ザハド、アオイのことは残念だったけど、三人にお願いしたいんだ」

「例の学校の話ですね?」

「そう、先ずはこの国に残ってくれた子供たちに、授業をつけてもらいたいんだ」


 下は六歳から上は十一歳まで、アンディと親しくしている子供がいる。

 子供と言っているが、彼らはこの国の未来を担う人材だ。


 ザハドはオーク種だが、グウェンに見込まれるほどの魔法の才能の持ち主であれば。


「タケル……」


 僕は彼らを前にして、地面に額をつけた。


「君らの一生を費やすことになるかもしれないけど、お願いします! どうかこの国で教鞭を取ってください」


 ザハドは数瞬黙り、考えているようだった。


「……いいですよ、私は貴方の願いを聞き入れます」

「本当に? ありがとう、ザハド」


 こうして、グウェンの弟子のうちの二人には学校を任せることになった。

 ミレーヌはハリーの傍に居たいらしく、断られちゃったけど。


「オーク先生、お早う御座います」


 以来、ザハドは子供たちからオーク先生と呼ばれ、愛着されるのだった。

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