第123話 募集:専属秘書、だお
ザハドと一緒に昼食を摂っていると、誰かが背中を叩いた。
「ああ、リン、昼食ですか?」
と言うと、リンは首を横に振る。
「エレンが呼んでるから、後で顔出して」
ザハドはエレンの名前を聞いてちょっと身震いしていた。
にしても、何の用だろう、心当たりは一つしかないが。
ヒュウエルの奥さんのリザを蘇らせたこと、ぐらいじゃないか?
「……ザハドも一緒に行く?」
「いえ、私は仕事があるので」
「そんなの僕だって同じだよ!」
ザハド、この裏切りは生涯覚えておくぞぇ……。
なんて冗談はやめて、さっさと殴られてくるか(ぉ。
「エレン、今回は何用ですか」
昼食を摂り終えたあと、ザハドと別れて彼女の部屋に向かった。
エレンはステータスウィンドウとにらめっこしている。
「タケル、この大陸にある特級ダンジョンなんだけどね?」
「懐かしい響きですね、たしか手付かずのダンジョンのことでしたっけ?」
「あんたそれでも冒険者の端くれ?」
まぁまぁ、その話は置いといて。
エレンがすぐに攻略しに行かないなんて、何か訳ありなんだろうか。
「……どうにも、お宝らしいお宝がなさそうなのよね。ボス級のモンスターはいても」
「へぇ、じゃあエレンのようなお宝ハンターにとっては、無意味ですね」
するとエレンは嘆息をついてステータスウィンドウを閉じ。
腰かけていたベッドに仰向けになって倒れた。
「モニカからこの大陸の調査を頼まれてたけど、どうにもやる気にならないわ~」
「……所でエレンはヒュウエルの件は知ってますか?」
「それね! 勇者スキルで蘇ったらしいじゃないの、リザさん」
え、えぇ、そうなんですよー、困りましたね。
なんて言うとエレンは物を投げてくる。
「余計なことしてくれちゃって、まぁいいわ、例え誰が相手だろうとヒュウエルは譲らないんだから」
エレンのその言葉を聞いて、僕は彼女を見直していた。
粗暴な性格は直した方がいいとは思うけど、どこまでも諦めない性格は長所だ。
「ちなみに、この大陸の特級ダンジョンの位置はおおむね把握したから、教えておくわね」
「ありがとう御座いますエレン」
エレンはステータスウィンドウのマップを使い、ダンジョンの位置を教えてくれた。特に役立つ情報ではなさそうだが、君子危うきには近寄らず。と言うし、一応注意しておこう。
「そしたらエレンは今後どうするので?」
「……しばらくはここに居るわ、今はヒュウエルの顔みたくないし」
「じゃあ、エレンも闘技大会に出場してみませんか?」
「そんなのあるの?」
「あるんです、今出場者を募ってるので、一応お声がけしておきますね」
「考えておく、それじゃ、私もう寝るからお休み」
お休みなさい、ってまだ昼やがな。
これ以上ここに居ても目の保養にしかならないし、自分の部屋に戻るか。
部屋に戻った後は、自分の指定席に座り。
各方面から上がっている報告のDMに目を通し、返信する。
例えば聖女のリーダー格であるメグは。
『私どもは引き続き勇者を輩出する予定でおります。つきましては聖女基金にご寄付お願い致します』
聖女の活動を支えるために金を寄こせと言ってくるし。
酒場第一号店として栄えていたハリーからは。
『タケル、店にある酒がさっそく切れそうなんだがよ、どこで補充すればいいんだ?』
お店にあるお酒がなくなりそうだという旨の一報をよこしてきたりする。
「自動精霊にお願いして、酒造も始めてもらうか」
それとメグたち聖女にはジュードの月給の四倍支払っておけば問題ないだろ。人が増えるごとに僕のタスクも比例して多くなって、僕はさっそく秘書が欲しいと思うようになった。
だからその足でホテルのロビーへと向かう。
ロビーには冒険者だったり、職探しをしている人用の掲示板がある。
掲示板は僕のスキルによってウィンドウ化されている、優れものの一品だ。
「タケル」
「やぁトオルくん、お疲れさま」
そこにホテルのオーナーとなった幼馴染のトオルくんがやって来る。
「何してるんだ?」
「そろそろ僕も秘書というか、お手伝いさんが欲しくなって、ここに求人貼りだしてみようかなって思って。トオルくんは?」
「このホテルだけじゃ回し切れなくなってきたから、二号店、三号店のホテルの従業員を募集したくて」
僕たちはお互いに人手を求めているらしい。
掲示板を手元のパネルで操作して、早速こんな触れ込みで求人を出してみた。
『急募:王の秘書 内容:この国の王と一緒になって国に貢献してみませんか?』
……怪しい勧誘みたいでワロタ。
その時、僕の背中をつんつんと突いた人がいた。
「ウェレン、君か」
振り返ると、そこにはライザの妹のウェレンがいた。
薄灰色の毛並みと、碧い瞳が綺麗な狐面の獣人。
他とは一線画した外貌に、周囲の人間の視線を集めていた。
「あの……ティトと一緒に秘書に立候補してもいいですか?」
お?
「いいと思うよ、ライザの妹さんだし、信用度は高いしね」
と言うと、ウェレンは不安そうだった表情を明るくさせていた。
「さっそくティトを連れてきます、どこに行けばいいですか?」
「あ、でも、君は確かバイキングの給仕してたよね?」
「……私、接客はちょっと不安で、だったら信頼できる人のお付きの方がいいです」
「ティトも大体そんな感じなの?」
「はい」
ライザに似て、内気な性格なんだろうな、おk。
ウェレンには後で僕の部屋を訪ねるよう言い、掲示板から求人を引っ込めた。
「羨ましいな、もう見つかったのか」
トオルくんは早速候補を見つけた僕を羨んでいて。
どう切り替えしていいから少し迷った後、普段通りでいいかと開き直るのだった。
「トゥフフ、サーセン」
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