第121話 ヒュウエルのハッピーエンド、だお

 翌朝、目が覚めると隣にケヘランとウルルがいた。


 昨夜はケヘランといたしてしまった、以上。


 僕は今日の服に着替え、昨日から想起し始めた建国記念パーティー企画を動かそうと思う。


 そのために不動産担当のザハド、メイン企画のアオイちゃんちーとその他友人数名、ケイトとカイゼルの両名にも参加を要請した、一応ライザとランスロットの二人にも出席してもらい、ホテルの会議室でさっそく会議を行う。


「近々、建国記念祝祭を開催したいと思う、そのために今回みんなに集まってもらった。建国記念の祝祭だから、主に重要なゲストを招待して行うパーティーと、国民のみんなが楽しめる内容の大がかりな祭りにしたい。メイン企画は妹のアオイに一任することにしました」


「ハロー、私に任せてくれれば大成功間違いなしだから、期待してちょ」


「ザハドはアオイと連携をとって、アオイの企画を実行できるように協力して欲しい」


「承知しましたタケル、アオイが無茶しないよう厳重に目を光らせておきます」

「く、殺せ!」


 で、友好のある各大陸の首脳陣を招待する役目は、君だよランスロット。


「ランスロットには王都の首脳陣がパーティーに出席して頂くよう誘致してほしい」

「わかった、僕はとにかくモニカと連携を取るよ」

「そうだね、それが君の仕事だ」


 着々と祝祭の役割分担を決めて行っていると、ライザが聞いてきた。


「私は何をすればいいのだ?」

「ライザにはね、ちょっと特別な役目があって。僕の騎士をやってもらいたいんだ」

「タケルの騎士? この上ない役目に思えるが、何をすればいい?」


 とそこでメイン企画のアオイちゃんちーが声高らかに説明し始めた。


「説明しよう! お兄ちゃんを王とするこの国の祝祭で、各国の親睦を深めるための闘技大会を開きます! 各国の王が自分の騎士を選抜して、闘技場で戦わせるといった内容です! 優勝すると、その年の国家予算ぐらいの金貨が手に入る! と言った謳いこみなんだけど、どうかな?」


 アオイの提案に、ライザは敵なしと言った笑みを浮かべた。


「是非ともやろうじゃないか」


「補足するとね、僕らは各国に対して、闘技大会で強さをアピールしたいんだ。でないと王都か、もしくは他の国がいつ僕たちの国に侵略してくるかもしれないから、ならここは最初から招いて、力を見せつけることによって相手の牙をもぎたいと思っている。だからねライザ――思う存分暴れていいよ」


「承知した、私は闘技大会で必ず優勝する」


 所で、とアオイが僕の台詞に続く。


「所で、今日が何の日か知ってるかい?」

「今日は二月十四日だから、バレンタインデー?」

「はい、当たり! 今からチョコ配るよー、みんな受け取ってねー」


 アオイから義理チョコを貰うと、ケイトはアオイにバレンタインデーの概要を聞いていた。


「この日は自分の好きな人、特に異性に向けてチョコを渡して好意を伝える日なんですよ」

「ほう、ならばカイゼル、この後でチョコをプレゼントさせてもらうな」


 羨ましい話だなぁ、しみじみ。


 会議はそこで終了し、遠巻きに、アオイの友達がライザに本命チョコを渡している現場が見えた。

 あとは当人同士の問題だ、僕はこれ以上関与しないよ。


 会議室を抜け、自室のオーナー室へと向かうと先客がいる。


「アンディか」

「屑様、今からちょっと付き合ってくれねぇ?」

「どこに行こうっていうんだ?」

「……俺の本当の母親を、蘇らせようかなって思ってさ」

「それは、ちょっと僕からはどうとも言えない」

「ヒュウエルのためだよ、あくまでヒュウエルのためにリザさんを復活させる」


 アンディは腰かけていた机から飛び降りて、俺は本気だからなと言うのだ。


「アンディ……わかった、一先ずヒュウエルの所に向かおう」

「話が早くて助かるぜ屑様」


 で、アンディの転移スキルを使ってヒュウエルの酒場に向かった。


「お前らか、新大陸の興行の件は順調なのかよ?」

「ヒュウエル、大事な話があるんだ」

「言ってみろ」


 そこでアンディはヒュウエルに向かって吠えるように発言し始めた。


「ヒュウエル、俺、勇者召喚されて、本物の勇者になれたんだ」

「そいつは不幸だったな、勇者なんかになっても、酷使されるだけだぞ」

「それで俺の勇者スキルが、亡くなった人をこの世に蘇らせるものなんだ」

「……で?」

「リザさんを蘇らせてもいいか?」


 アンディが打診するよう言うと、ヒュウエルはうつむいて嘆息をこぼし始めた。


「アンディのスキルには欠点があるみてーだな、確かにリザを失ったのは俺の生涯の後悔だ。だが、仮にリザを生き返らせて、リザはどこで人生を終わればいい。リザは幸せなまま死んでいったんだ。生き返らせることで、余計なトラブルが起こり、次死ぬ時は苦しむ結果になるかもしれねぇだろ?」


「じゃあどうするんだよ」


「お前ら二人ならいいか、ついて来い、リザの墓に連れて行ってやる」


 ヒュウエルについて行く途中、王都の花屋により献花を購入した。

 僕たちは花を持って、王都の中にある広い丘にある墓場へとやって来た。


「ここにリザが埋葬されている、二人とも、花を添えて冥福を祈ってやってくれ」

「……俺は、リザさんをこのままにしたくない! ――リザレクション」


 アンディは冥福を祈る前に、自身の癇癪からリザさんに復活のスキルを使ってしまった。ヒュウエルが厳しい目つきでアンディを見るが、アンディは目を逸らすことなく言葉を出した。


「たしかに、俺のスキルは不完全だ。この世の全てには始まりがあって、終わりがある。リザさんが幸せのまま死ねたというのなら、俺は大きな過ちを犯したけど、そしたらヒュウエルの最期が悲しいじゃないか」


 リザさんのお墓の上に、ケヘランの時と同じく光で出来た棺が現れる。

 中には見目麗しい女性がいて、ヒュウエルは彼女を見た瞬間、棺に手をやっていた。


「俺は、二人に、夫婦として生きて行って欲しいだけなんだ!」

「ガキが、テメエのスキルは後々大問題になるぞ。二度と使うんじゃねぇ」


 リザさんを包んでいた光は、徐々に霧散し、彼女は蘇ったようだ。

 ヒュウエルがリザさんを抱き留めていると。


「……ここは?」

「王都の墓場だよ、お前はこのガキのスキルでこの世に蘇っちまったみてーだリザ」

「ヒュウエル? ……ぷ、老けてる」

「当たり前だろ、お前が死んだ時から何十年経ったと思ってるんだ」

「そうなのね、でも、老けてても貴方は素敵よ」


 えっと、じゃあ僕らはこの辺でお暇しますかね。

 アンディ、行こう。


「……じゃあな母さん、それから父さん――末永く幸せになってくれよな」


 ヒュウエル、今回ばかりはアンディに感謝した方がいいんじゃないですか。

 だって、立ち去る間際、ヒュウエルの顔は明らかに喜びをあらわにしていた。


 貴方が理屈こねた所で、それは貴方の本心じゃなかったわけで。

 アンディの言う通り、リザさんと末永くお幸せにお過ごしください。

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