第120話 膨らむ夢、だお

 建国記念パーティーを想起した後、僕は勇者召喚の祭場の前にやって来ていた。


 この大陸で初めて召喚される勇者を、僕は歓迎したく思う。

 僕の隣にはウルルまで居て、今は手をつないでその瞬間を待っていた。


「タケル以上の勇者は出てこない」

「それはどうかな、出来れば今回の勇者は回復系のスキル持ちがいい」


 などと、ウルルと一緒に召喚される勇者を予想しあっている。

 すると、祭場の方から歓声があがった。


 どうやら無事に勇者召喚は成功したらしい。


 祭場の中に入り、疲労困憊のメグに声を掛けた。


「おめでとうございますメグ、勇者召喚が成功したようで」

「……ちなみに聞きますが、タケル様は何かしませんでしたか?」

「何の話ですか」


 と、メグが不機嫌なのを不思議に思っていると。

 彼女は今回召喚した勇者の背中を押して、僕たちに紹介してくれた。


「アンディじゃないか」

「そ、今回の勇者召喚に選ばれたのは俺だったらしいぜ」


 するとアンディのステータスウィンドウから通知音がなり。

 スキルを報告するための特別なウィンドウが開いていた。


「まぁ、新しいスキルについては今はいいか」

「出し惜しみするなよアンディ、ちょうどいいし、今日は聖女たちをホテルまで案内してやれよ」


「わかってるよ屑様、姉ちゃん、帰ろうぜ」


 そう言えば、勇者召喚の儀式って、現地人からも選抜されるんだったな。

 勇者召喚の基準がわからないけど、儀式の最中にミスしたから、なのだろうか?


 機会があれば、聖女のマージャに儀式のあらましを聞いておこう。


「で、アンディの新スキルはなんなんだ?」


「えっと、スキル復活、このスキルはあらゆる対象をこの世に復活させることが出来る、奇跡の御業ともいえるスキルでしょう。って書いてあるな」


「……アンディ、そのスキルを使ってもらいたい人がいるんだよ」


 スキル復活――もしかして既に亡くなったものを蘇らせることが出来たりする?


 なら、ケヘラン。

 今はもうこの世にいない姉弟子の彼女と、再び出会えるのではないか?


 夜遅くだったが、僕はケイトとザハド、ミレーヌを連れてケヘランの墓地へと向かった。


「アンディ、彼女を復活させてやってくれ、その代わり僕にできることがあればなんだって聞く」


「屑様はいちいち大げさなんだよ、えっと……対象の魂に手をかざして、――リザレクション。これでいいのかな」


 すると、僕たちの目の前に一筋の光の柱が浮かび上がった。

 光の柱は棺桶のような形をしていて、中にはケヘランがいる。


 そして光の棺桶を構成していた光の筋は、徐々に空気に霧散していく。


 ケイトが現れたケヘランを抱き留め、大声で彼女の名前を呼んでいた。


「ケヘラン! しっかりしろ! 意識があるのなら返事をしてくれ!」

「……私、今までここじゃない夢を見ていたような。ってタケル!」


 ケヘランは本当に復活してしまった。

 今は事の成り行きに感謝するしかなくて、僕はケヘランに近寄りハグをした。


「ケヘラン、守れなくてごめん」

「いいのよ、あれは私が未熟だったから起きた災難、当然、タケルが仇を打ってくれたんでしょ?」

「えぇまぁ、説明が長くなりますから、僕の国に帰りましょう」


 こうして、あの時守れなかったケヘランはこの世に舞い戻って来た。

 アンディのスキルは正直、また誰かに利用されそうで怖いぐらい強力なものだ。


 ならば、僕はますますアンディを注視しようと思う。


「(´◉◞౪◟◉)」

「なぁ屑様」

「どうしたアンディ」

「屑様の部屋にあった、これってなんだ?」


 とアンディはやりかけだった例のエロゲを取り出した。

 説明するのも馬鹿らしいし、今度一緒にやってみゆ? トゥフフ。とだけ言うと。


「なるほど、これがキモオタグッズって奴か」

「そーゆうことだから返してくれな」


 さてと、ここから先はどうしようかな。


 人口も増えてきたことだし、ハリーや氷山と言った面々にはさっそく企業してもらおうかな。ああ、そうだ、ホテルのロビーにクエストボードを設けよう。竜種の脅威はまだまだあるようだし、冒険者には竜種を引き続き狩ってもらいたい。


 なんだかどんどん夢が膨らむ、いい展開になってきたなー。

 

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