第118話 ライザの妹弟を救出、だお
「誰か、誰か、誰かっ」
ライザと共に件の場所に向かうと、狐面の子供が竜種の群れに追われていた。
場所は緑生い茂る山間の森林だった。
「来るなよ! 来るな!」
ライザはその光景を目撃するなり、スキル雷遁をつかって竜の群れを一蹴する。
「……もしかして、兄ちゃん?」
子供がそう言うと、ライザは彼を抱きしめていた。
「私だ、ロンだよな?」
「兄ちゃん……っ!」
「ロンだけか? ティトや、ウェンリーはいないのか?」
「ティトたちは、他の一族に捕まってて」
「生きているんだな? すぐに救出に向かう、場所を教えてくれ」
と言い、僕らはライザの小さな弟さんの案内でその場所に行ってみた。
そこではライザの妹弟が、集団リンチを受けている。
「逃げた、じゃねーよ! どうして俺たちに知らせねぇんだ」
「……貴方には関係ない」
「ふざけんな!」
「っ!?」
その光景にライザは激昂し、再び雷遁を使って他二人の妹たちの前に現れる。
「え? もしかして兄さん?」
「私の妹が貴様らに何をしたと言う、答えろ」
僕は弟さんのロンと一緒に草葉の陰から様子を見守っていた。相手は数十人のライザと同じ狐面の獣人で、ライザは暴力を振るっていた一人に剣尖を向けている。なんか、絵に描いたような悪漢だな。
「獲ったぁ!」
相手の一人がライザを背後から奇襲したが、動きがとろすぎる。
ライザは背面に剣を添わせて、片手で軽くいなしていた。
僕たちは自分が思っている以上に強くなっているみたいだった。
「どうやら、貴様らは単なる屑みたいだな」
とライザが言うと胸が痛んだ。
やっぱり僕の忌み名のあれは、そろそろ封印してもらいたい。
「クソ強ぇーな、お前、俺たちとは同郷のようだし、仲間にならねーか?」
剣尖を向けられた一人の獣人がそう言うと、ライザの妹さんが声を上げた。
「そいつらの言葉を信じちゃ駄目!」
「安心しろウェンリー、私が信じるのは家族と、友達だけだ」
して、ライザは結局その数十人の悪漢を雷遁で撃退し。
彼らは仲間と共に山の奥手へと散り散りに逃げて行った。
残されたのはライザの妹弟の三人と、一緒に捕まっていた奴らの奴隷だ。
「タケル、逃げた連中は始末するか?」
「……酷だけど、放っておこう。たぶん、あのままだと竜種に食べられる」
とりあえず残っていたメンバーはすぐに拠点に連れ帰ろう。
ライザの妹弟さんたちは酷く怪我している。
アンディにDM飛ばして迎えに来てもらう。
『アンディ、出番だぞ』
『何がだよ! あんた本当に屑だな』
『おおん!? それでも勇者の卵か!?』
◇ ◇ ◇
「おかえり、っと、酷い怪我だな」
ホテルに帰ると、玄関ロビーに幼馴染のトオルくんがいた。
昨夜内線で話した通り、彼はホテルマンの制服を着ている。
「このホテルに救護室ってある?」
「ない、だから宿泊部屋を数室用意して、そこで治療……できるか?」
特に酷いのはライザの妹の一人のティトだった。
口元の皮膚が剥がれていて、左腕は完全に骨折している。
左足の先っぽもおかしいし、けいれんを起こし始めた、急いで処置しないと。
僕たちがざわついていると、ロビーで遊んでいた子供たちがやって来た。
「うぇ、酷い」
「うぇ……うぇええ」
みんな彼らの惨状におびえ始めるが、アンディがそんな子供たちを諭していた。
「おびえるなよ、俺たちが今すべきことは回復するよう祈ることだ」
僕のスキルは役に立つって自負していたけど、彼らを回復するようなものはないんだ。
しばらく待っていると、薬草師のケイトがやって来た。
「ここは私に任せてもらおう」
ケイトは懐のポーチから回復薬を取り出そうとする。
「その必要はない――治癒陣」
と言い、手のひらをかざして回復魔法を使ったのは、軍神ダニエルだった。
ダニエルは武術のみならず、魔法にも長けていたらしく。
彼が発動させた広範囲の回復魔法で、ライザの妹たちの怪我はみるみると治る。
「ありがとう御座いますダニエル」
「これで、昨日の借りは返した。それにしてもまだ頭痛がする、日本酒とやらは魔の酒だな」
ダニエルはこの惨状をまるで日常的な光景であるかのようにふるまっている。
そう言えば、魔王討伐の前線の光景はもっと酷かったしな。
「う……ここは?」
「ティト、もう大丈夫だ、大丈夫」
ライザの妹さんの意識は回復し、その場にいた民衆は歓声をあげる。
「ダニエル様、さすがで御座います」
その歓声に、ダニエルは静まり返るよう片手をあげて応える。
「時に、諸君は愚劣であるか? 諸君は自分が無力だからといい、この子たちの命を天に任せることしかできない、無能どもだったか? 紛いなりにも、諸君は我らが誇る王都の民であろう! 今この場に私がいなかったらこの子たちは死んでもいいと言うのか! 否! そのような堕落した者たちのために私は命をとして戦ってきたのではないと知れ」
む、むぅ。
悔しいが、カッコいい。
「一命をとりとめたようなので、私はこれにて失礼する。あとはご婦人に任せた」
ダニエルはケイトに後を任せると言い、エレベーターの方へと向かっていった。
「どうせなら最後まで処置してくれないか?」
「冗談を言うな、私は退役間近の老兵だぞ」
あの人は、年いくつなんだ。
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