第117話 ライザの同朋、だお

 ハリーの店で夜通し飲み明かした翌日。


 僕は、二日酔いに悩まされていた。


 ホテルになんとか戻った後は、ライザの部屋に向かった。


「ううう、ライザ、ライザ、バブー」

「どうしたタケル? そう言えば昨夜の意味深なメッセージはなんだったのだ?」


 と聞かれても、頭にぐわんぐわんと波打つ頭痛が襲って涙している。


「ライザ、ライザ、バブー」

「一体何事ですかタケル、ライザに甘えるのは見苦しいのでお辞めになられてくれます?」


 ライザの隣に控えていたナナはこれみよがしにライザを独占しようとしていた。


 とりあえず、かくかくしかじかと事情を説明。

 するとライザは心の底から心配した様子でいた、バブブー。


「どうりで酒臭いわけだ、今日は私に任せてタケルは休暇を取るといい」


 ありがと、あいがと~。

 お言葉に甘えて、今日は休ませてもらうとしよう。


 今日の夜中頃には回復して、またメグたちの様子を見に行かないとならない。

 ことさら言うと、昨日誰よりも豪快に酒をあおっていたダニエルも轟沈している。


 今朝はアンディにDMして迎えに来てもらったほどだ。

 アンディは酒臭ぇ! とかって叫んで、二日酔いに悩む僕たちを傷めつけていた。


 では部屋に戻り、今一時の休息を。


「タケル! タケルはいるか!」


 寝ようとすると、ジュードが大声で怒鳴りこんでくる。

 ぶちぎれそうだお。


「何?」

「食堂の利用客についてなんだがよ」

「うん」


 さっそく問題発生か?


「……ナンパとか、しちゃ駄目なのか?」

「(#^ω^)」


 自業自得とはいえ、ここにいるのは駄目だ。

 この部屋にいると誰かしらやって来て、用件を言い始めてしまう。


 アンディに再度お願いして、どこかに避難しよう。


『アンディ、僕は一旦どこかで休むから、足になってくれオナシャス!』

『屑がよ、あんた俺がいねーと何もできねーのか?』

『一生に一度のお願いだからぁ』

『わかった、金輪際その手口は聞かないからな?』


 フヒヒ、馬鹿め、一生に一度のお願いは事実上無制限なのだぁ(屑感)。


「で、どこに運べばいいんだ?」

「王都に」


 と言うと、僕の容体を見に来たウルルが呼び止めた。


「待って、私も行く」

「ありがとうウル――っ」


 やばい、ウルルの顔見て安堵した瞬間、胃のたがが外れた。

 僕は思い切りとしゃ物をまき散らし、あろうことかアンディにゲロをぶっかけてしまった。


「ぬわぁああああああああああああああああああああッッ!!」


 大声だけは勘弁してください、ビクンビクン。

 アンディが大音声で絶叫すると、隣にいたエレンたちが駆けつけた。


「何よ今の悲鳴は、ってくっさ! タケルは今度は何をしたの?」

「二日酔いですよ、昨日飲みすぎちゃって」

「あんたねぇ……!」


 するとリンがステータスウィンドウを開き、アイテムボックスから薬を提供してくれた。


「これ効くから、お水と一緒に飲んで」

「私、お水持ってくる」


 ウルルはそう言うと部屋に備えつけてあった小さな水道から水を汲んで。

 僕はリンの薬を服用し、一先ず横たわった。


 アンディ? あいつなら僕のゲロまみれになって涙目で出ていったYO。


「タケル、やっぱり王の座は私に譲りなさい、これは私の最大限の気遣いよ」

「エレン、もしもその話断ったらどうなるので?」

「あんたをさくっと亡き者にする」


 ううう、どうしてそこまで言うのこの人は。


 ◇ ◇ ◇


 あの後、僕は自分のベッドで仮眠を取った。

 五時間ほど眠っていたみたいで、現在は午後の〇時みたいだ。


 リンから貰った薬が効いたみたいで、目が覚めると頭痛はなくなっていた。


 今のうちに口内を綺麗にするか、そう思い立ち上がると。


「やぁタケル、お早う」

「ランスロットですか、今日の僕は面会謝絶ですよ」

「はは、二日酔いぐらいで仰々しいな」


 ランスロットは壁を背もたれにして佇んでいた。

 まぁ、特だった殺気も見られないし、水で口をゆすごう。


「……王都の人間が、この国に紛れ込んでしまったようだな」

「ん? そうですね、でも貴方が誘致したんでしょ?」

「僕がかい? もしかしたら魔王がそうさせたのかも知れないよ」


 ランスロットはことさら自分の中にいるリィダの存在を挙げていた。


「約束どおりヒュウエルやライザには教えてないみたいだな」

「言ったところで無益っぽいので」

「タケルの損得勘定の判断は正確みたいだね」

「それよりも」


 と、口をゆすぎ終わったあと、僕は自分の指定席に座った。

 クラシックな赤い絨毯の上と合わせた漆塗りの丈夫な机の席だ。


「ランスロットは今どんな業務にあたってるんですか、さして活動してないみたいですが」

「僕はモニカとの連携で忙しいんだよ、信じてくれ」

「信じるとか信じないとかじゃなくて、ちょっとは国に貢献してくださいよ」


 たく、ランスロットはさっきから恣意的に魔王リィダの影をちらつかせる。

 彼は魔王のような動向を見せ、魔王のように怪しい文句を次々と口にするんだ。


「……そうそう、この大陸には竜種のみならず、ライザの同朋もいるみたいだよ」

「場所特定してますか?」

「無論だ、今から接触するか?」

「い、今ですか、たしかに体調は治ったっぽいですが、んー、いや行きますか」


 僕はライザとイヤップ、それから戦闘で役立ちそうな面々にDMを送り、ホテルの玄関ロビーに集合してもらった。ライザはナナを引き連れてロビーにやって来ると、先に来ていたアオイちゃんちーがむっとしていた。


「二日酔いは治ったのか?」


「うん、おかげさまで――今回集まってもらったのは、ランスロットがライザの同朋のような存在をこの大陸で発見したからなんだ。今から接触しようと思うんだけど、大丈夫だった?」


 そう言うと、ライザとイヤップの二人は驚いた様子だった。


「兄さん、もしかしたらあの子たちも流れ着いてるかもしれない」


 ライザとイヤップには他に下の妹弟がいることは知っていた。

 二人はことあるごとに、妹弟たちを気に掛けた様子だった。


「……タケル」


 ライザはその情報を耳にすると、僕を連れてみんなから離れた。


「私の同朋というのは、私の姿にそっくりな獣人がいたということだな?」

「ああ、そうらしい」

「一つ言っておくが、私の故郷はここと比べると修羅の世界だ」


 修羅?


「私はイヤップや家族を信頼しているが、他は敵視するしかない。発見した獣人の数はどれくらいなんだ?」


「ランスロットが知ってる、彼が見つけたみたいだから」


「私の同朋だったとしても、連中には心がないと思う。私に任せてくれないか?」


「たしかに君の強さは無類だけど、心配だからせめて僕も連れてってよ」


 と言うと、ライザは碧色の瞳で僕の双眸を覗き込んだ。

 強く真っすぐな目だったけど、瞳の奥底に燃え盛るものがあるように映った。


「タケル、なら……上手くできるかもしれないな」

「ありがとう、僕を信用してくれて」

「だがな、努々、警戒を怠らないようにして欲しい」


 と言うわけで、集まってもらったみんなには悪いけど、今回はライザと二人で向かうことにした。そのことを知らせるとアオイはぶーたれる。


「わざわざ呼びつけておいてなんなん、お兄ちゃんたちは」

「すまんすまん、まぁ」

「まぁ?」


 まぁ、これも王の特権ってことで。


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