第116話 お気に入りの国、だお
王室は軍のトップであるダニエルを僕のもとへと寄こした。
ダニエルの口ぶりから察するに、王室は武力でけん制している。
「ちょうどいいです、今から僕に付き合ってくれませんか?」
「どこへ?」
「聖女たちに言われて勇者召喚の祭場を作ったんで、そこに」
直にルームサービスも届くはずだし、僕も少し準備しよう。
先ずはライザママぁにDMを。
『ライザ、王室は武力で物を言わせる気だ、気を付けて』
次にハリーボーイにDMを。
『ハリーって坊やだったんですね、死んだわよ』
……あかん、僕はさっそく疲れている。
隣室にいるエレンに頼み事しておくか。
「エレン、折り入ってお願いがあるんです」
隣室の豪奢な一室に向かうと、エレンはステータスウィンドウとにらめっこしていた。
「何よ」
「エレンはこの大陸のダンジョンに挑むんでしたよね? でしたら踏破したダンジョンの詳細を報告して欲しいんですよ。僕に直接でもいいし、ライザでもいいです」
「……わかったわ、所で総司令様はいつの間にこちらにお出でなさったので?」
エレンは僕の背後に佇んでいたダニエルを気にかけていた。
当然と言えば当然か。
リンが服のすそを掴み、何事か耳打ちし始める。
「この二人はその昔付き合ってた」
……!?!!?
え? エレンとダニエルが昔付き合ってた?
「正確には、エレンは彼の愛人をやっていた」
瞬間、脂汗がどばぁーと噴出し、僕は口からフヒヒヒヒヒヒヒとこぼす。
「ヒュウエルに一途だったんじゃないんですか?」
リンに耳打ち返すと、目の前をナイフがヒュン! とかすめていった。
「余計なこと詮索しないで」
「エレン殿、私はタケル殿のお手伝いしに参ったのだ」
「あらそうですか、で、タケルの用件はそれだけ?」
「フヒヒヒヒヒヒヒヒ、NTR」
そう言えば、もしかしたら秋葉原にあれあるかもな。
僕がサタナに来る直前までやっていたエロゲ。
機会を見つけてちょっとショップ見てこようかな。
その後、僕はダニエルを同行して祭場へと向かった。
祭場では白い正装をした聖女たちがいて、メグが一目散に駆けつけた。
「お疲れ様ですメグ」
「ダニエル様! このような遠方にお越しくださり、恐縮です」
メグは僕をナチュラルにスルーして、隣にいたダニエルに頭を下げる。
この野郎、エレンをNTRしたことと言い、許せねぇ。
「ダニエルの目から見て、この祭場はどうですか?」
と尋ねると、彼は顎に手をそえてまじまじと内部をうかがった。
「いいのではないだろうか、王都にある儀式場とは細部が違うみたいだが」
「これはその、タケル様が用意してくださったものですので」
だからって責任転嫁はいくない。
メグはダニエルにろこつな上目遣いを取り。
「勇者召喚の儀式は上手くいくのでしょうか……?」
聞かれたダニエルは勇敢な笑みをたたえ、メグに手を差し出していた。
「上手くいく、私が保証しよう」
「ありがとう御座います!」
なんか知らないけど、僕もメグに声援を送った方がよさげだな。
同じ感じで顔を微笑ませて、僕もメグに手を差し出した。
「成功をお祈りします」
「……うん、そうだね」
しかしメグは僕には握手し返さなかった。
くそう、これが人望の差って奴なのか! 有名税の差って奴なのか!
「それではこれより勇者召喚の儀式を始めますので、お二人はご退室ください」
「わかりましたお」
向こうの方を見やると、他四人の聖女が見ている。
ダニエルは彼女たちに手を挙げると、黄色い歓声が巻き起こった。
……くそったれぇえええええええええええええええ!!
「ダニエル、続いて付き合ってもらってもいいですか」
「あまり年寄りを連れまわさないで欲しいが、どこに?」
「貴方の甥っ子さんが経営している酒場ですよ」
「ハリーは酒場を営んでいたのか」
えぇ、らしいですね。
僕は魔導エンジン車にダニエルを乗せ、一路秋葉原を目指した。
夜の東京都の蛍光灯に照らされた街並みに、夜行性の竜種がちらちらと見える。
しかしハリーが暴れた影響もあってか、竜種はおびえてすぐに姿を隠すのだった。
「この乗り物、私にも売ってくれないか」
「いいですけど、王室に譲渡したりしないでくださいよ」
「タケル殿は勘違いしておられる」
何を?
「王室は悪ではないのだ」
「……個人の感想の違いですね、僕も王室を悪だと断じてるわけじゃないですけど、倦厭したくなりますよね。ダニエルさんにとっては死活問題かもしれませんが、大抵の民衆にとってはどうでもいい存在のはず」
「決めつけはよくないぞ」
かも知れないけど、僕は見てきたんだ。
これまで王室の強引な政治によって、困惑する人々を。
そういった人たちは僕の店に訪れて、様々な愚痴を言っていたよ。
ハリーの店に着いたので、僕はダニエルと一緒に店の扉を開いた。
そこではハリー同様の酒乱癖の強い酔っ払いが、声高らかに談笑している。
「おういら、ってタケルじゃねぇかぁ、ちゅーしてやるぜ」
「いらん! それよりもハリー、ハリーの伯父さんを連れてきましたよ」
「おう、オジキも久しぶりだな」
「意外と繁盛しているようじゃないか」
たしかに、この国にはまだ三千人ぐらいしか人がいないはずなのに。
店内は大盛況を見せている。
「へへ、俺はヒュウエルに負けたくねぇんでな。何飲むよお二人さん」
「メニューはどうした?」
「おお、すまねぇ、これだよ」
と、ハリーから差し出されたメニューを見ると、意外としっかりとしている。
ハリーの手書きなのだろうか、お酒の種類や見た目、大雑把な口当たりなどが書かれていた。
「……では日本酒とやらを貰おう、タケル殿、ここは私の奢りでいいからな」
「僕の国ですから、僕の奢りでオナシャス」
ダニエルは日本酒を頼み、僕はカルーアミルクを注文。
ハリーはさすがはおじき、目の付け所が違うな、へへといい日本酒をドン! と置いた。
「ハリー、一升瓶丸ごと寄こしてどうするんですか」
「お、おう、そう言えばそれにはこれが必要だったな」
と言い、ダニエルに栓抜きを渡す。
ダニエルは栓抜きを使わず、素手で開けて、そのままラッパ飲みしちゃった。
「……美味い、なんだこの透き通った酒は、王都のものと味の深みが違う」
「な? 美味ぇだろ?」
「他には? 例えばこの国の料理などはどうなっている」
「おじき、ひょっとしなくてもこの国を気に入り始めたみてーだな」
そう、なのか。
親族にしかわからないやり取りのようだった。
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