第115話 軍神ダニエルの来訪、だお

「とりあえず、ジュードとゲヒムも給仕してくれない?」

「ああ? そんな都合のいい話があるかよばーか」

「じゃあジュードは非協力的だから、僕は王の権限でジュードに退去してもらう」

「……ち、何すればいいんだよ」


 やることは簡単、自動精霊が作ってくれた料理をバイキングに運ぶだけ。

 バイキングで汚れた皿はキッチンの台所に置いておけばいい。

 これを朝は六時から夜は十一時まで、延々と繰り返す。


「ふざけんな!」


「ジュード、君、お金に困ってるんじゃないの? いいのかな。女子を誘惑するにしても、先立つものがないと何もしてやれないよ? そんなの、同性である僕からみても用ないね」


「なら前払いで金貨二百枚は貰うぞ」


「わかった、手出して」


 とそこで僕は金貨を二百枚ステータスウィンドウから引き出し、麻袋に詰めてジュードに渡した。


「ジュードとゲヒムは僕の知り合いだし、特別に賃金は高めに設定しておくよ」

「……うおおおお! やったぜゲヒム! 金貨がこんなに!」

「おめでとうございますジュード」


 なんだこいつら、チョロ松すぎて笑っちゃうぜ。


「給仕する時の制服はあとで渡すけど、今日はその恰好でいいから」

「おう、任せろ!」


 ハリーに言えばどこからか調達してくれるだろう。

 とその時、僕の足元に誰かが引っ付いた。


「あ、みんなも来ちゃったの?」


 それは王都にある僕の店の一階を憩いの場にしていた子供たちだ。


「お父さんたちにお願いしたら、連れてきてくれたー」

「屑様がここでは一番偉いってほんとう?」


 子供たちの問いには、アンディが答えた。


「本当だよ、屑様はこの国の王様だからな」

「屑なのに王様っておかしいねー」


 いい加減、僕の二つ名である屑様のいわれも辞めてもらいたいところだった。


「お集まり頂いた皆さん、この大陸で一番の、女神ノアで御座います」

「相棒のギリーです」


 ノアはノアで政治活動みたいなことしてるし、いよいよ管理しづらくなってきた。


 ◇ ◇ ◇


 バイキングで夕食を取り終え、僕は自室であるオーナー室からホテルのロビーに内線してみた。


「はい」

「あ、初めまして、タケルと申します。ホテルの管理は誰がやってるんですか?」

「当ホテルの管理は一応私が勤めてさせております……俺だよタケル」


 んぉ? 誰?


「えっと、どなたで?」

「幼馴染だっただろ、俺たち、トオルだよ」


 あ、ああ、日本にいた時、はす向かいに住んでいたトオルくんか。


「なんでホテルの管理人なんてやりだしたの?」

「ホテルマンやってたから、活かせることしてるだけ」


 へぇー。


「ルームサービスって頼める?」

「それが狙いだったか、後で持って行かせるけど、ご注文は?」


 どうせ仕事は夜遅くまで続きそうなんだ。


 ならと思い立ち、僕はルームサービスを頼みたくて、気まぐれでロビーに内線してみたんだ。もしもトオルくんが出なかったら、誰かにホテルの管理を任せようと思っていた所だっただけにありがたい。


 たしか、〇時から聖女たちがこの大陸初めての勇者召喚の儀式を始めるはず。

 それに先立ち差し入れでも持っていこう。


 その前にカイゼルが寄こした大学ノートに目を通さないと。

 と思っていると、誰かが部屋の扉をノックした。


「どうぞ」

「失礼する、久しぶりだなタケル殿」

「……失礼ですけど、どなたでしたっけ?」


 茶色い短毛と、口ひげ、ブルーの瞳に精悍な面構えの紳士がやって来た。


「私だ、ダニエルだ。魔王討伐隊では総司令をしていた」

「あ、失礼しました。お久しぶりにしてます」


 その人は魔王討伐隊の総司令をやっていた王都でも偉い人の彼だった。

 ダニエルさんとの面識は浅く、記憶に残ってないのも無理はない。


 彼は僕が魔王討伐隊に入ってすぐに、魔王リィダと死闘を繰り広げていたっけな。


「今回は何用でしょうか?」

「王室から直々に勅命を出されてな、タケル殿の国づくりの手助けをするよう言われた」


 ……ふーん。


 王都の王室メンバーは、誰かから聞いたか知らないけど、早速この国に干渉しようとしてるんだな。モニカ? それとも彼女に次いで玉座に近い弟王子の仕業かな。僕は王室が一枚岩じゃないことを知っているし、面倒だお。


「下手に断らない方がいい、王都の軍神と謳われている私が来た背景を考えて欲しい」


「実に王都らしいやり口ですね、まだまだ国としては脆弱だけど、宝の山とわかったら暴力で物を言ってくる。王都のそんな横暴なやり口に、どれほどの人が嫌気を差していると思ってるんですか」


「今さらだ、私だとて不本意だし、それと前言しただろ。私たちは国づくりの手助けに来たのだと。つまり王室はタケル殿を一人の王として認めたのだよ」


 ……たぶん、僕を王として容認したのはモニカだ。そして総司令のダニエルをここに遣わしたのは、別の誰かだった。今さらだけど、どうしてグウェンが最後の試練として国づくりを挙げたのか、わかった気がした。


「甥はどうしている?」

「甥? 貴方の甥って誰でしたっけ」

「君とは親友だと言っていたがな、ハリーは」


 は、はははは、ハリー!?

 ハリーってそんなに偉い所の出だったのか。






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