第110話 王の責務? だお

 数日後、かなり脱力していた氷山も立ち直り、先達の僕にあれこれ聞いてきた。


 ここはどういう世界なのか改めて教えて欲しい、とか。

 人口比率は? 食べ物の衛生面は? 観光スポットはとか。


 質問の内容から察するに、彼もこの世界で生きていく覚悟を少しは持っていた。


 今僕はそんな氷山とお風呂を一緒にしている。


「一応お礼言っておくな、サンキュー」

「いや、こんなことしか手助け出来なくてごめん」

「お前変わったよな、以前はもうちょっとプライド高めだったのにさ」

「そ、そう?」


「……実は俺、高校卒業後は美大に入って、就職先もアート職の方面で内定貰ってたんだ。内定をもらって、ここに来る前までは、ちょっとサボり気味だったけど、その罰がたたったのかなって思ってる」


 氷山の話を聞くと、内定先はゲーム会社だった。

 僕も小さい頃はゲーム会社に入るのが夢だったから、ちょっと親近感がわいた。


「だから俺、夢を奪われた心境になって、すごいへこんだけど……今は新しい夢を計画してる。俺はこの世界で初となるゲーム会社をつくるよ。それでこの世界のゲームの歴史をつくってやる」


「思考の切り替えがすごいはやいな、さすがは生徒会長」


「それはあんま関係ねーよ、ってことでタケル、俺と一緒にゲーム会社作ってみないか?」


 ぐぬぬ、かなり嬉しい申し出じゃないか。

 だが僕にはこの国の王として、国の基盤を作っていく使命がある。


「今は無理だけど、いずれお世話になろうかな」

「いつでも来いよ、待ってるぞ」


 や、やべぇ、僕は男なのに、同性の氷山にきゅんきゅんしちゃう。


 ◇ ◇ ◇


 お風呂から上がると、アオイが友人たちを連れて笑顔で聞いてきた。


「あ、お兄ちゃん、ライザくんってどこにいるの?」

「ライザ? あいつだったら俺の隣で寝てるよ」

「冗談はやめろ、ライザくんを出せやおら」

「知らないよ、自分たちで探したら?」

「チ、使えない」


 ライザはアオイの友人たちのアイドルになっていた。

 ザハドが物悲しそうな顔をして、立ち去ったアオイについて行く。


「……やっと行ってくれたか」

「ライザたん、いつの間に」


 ライザはいつの間にか僕の背後にいた。


「妙に慕われてるけど、何かしたの?」

「彼女たちのうちの一人を、竜種から守って以来、好意を持たれてしまったみたいだ」

「ああ、それで色めきだってるんだ……やり難いようだったら、さすがに言ってくれよ?」

「まぁ、これは自分の問題だから、私の方で解決するさ」


 偉い! それでこそライザだ。


「ところでタケル、今回新しく加わった地球人の一部にな」

「うん」

「エルフの虜になって、馬車馬のような扱いを受けている人間がいるらしいぞ」


 は?


「いくらエルフが容姿端麗だからって、そんなことある?」


「そういう噂を、彼女たちから聞かされたんだ。彼女たちは他愛ない話をよくあれだけ口にできる。私は口数の多さに圧倒されて、さっそくだが疲労気味だよ」


 いやー、えっと、えぇ?

 手で後頭部を搔き、困惑しているとライザは面白がるように笑った。


「王になると言うことは、色々と厄介ごとがついてまわるものだな」

「そんな笑ってないで、手かしてくれよ。できれば氷山も」


「俺はゲーム会社作る計画で忙しい、他あたってくれ」


 うぇええ、これが王の責務って奴なの?


 それ本当?





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