第108話 某番組じゃないんだからさ、だお
大陸の女神の朝は早い。
彼女は大陸を管理運営するのに必死だっただけだ。
そのために一人の勇者の前で土下寝をした。
しかし勇者には断られ、彼女は一時の絶望を味わう。
右も左もわからない神としての役目。
今日も相棒のギリーを着て、大陸に集った民衆の前で彼女は言う。
「ラジオ体操第一、いち、に、さん、し」
これが神の役目なのか? 当然のように彼女も自問自答し、苦しんでいる。
女神は手探りで、今日も今日とて大陸の繁栄を願っていることを、誰も知らない。
「ご、ろく、しち、はち」
◇ ◇ ◇
「タケルさん、私考えたんですがね?」
僕はアオイちゃんちーが約束通り開発してくれた無人偵察機を使って、今はこの大陸の全貌を調査している。その折に、特に何もしてくれない女神のノアがやって来た。
「なんだよノア」
「タケルさんの国づくりに、プロジェクト名をつけませんか?」
「……命名してどうするの?」
「それは貴方、この国の歴史に載るんですよ」
「歴史ねぇ?」
歴史は僕が苦手な分野だ。
小学校の頃は偉人の肖像画に悪戯書きして遊んでいたほどには、苦手だった。
「プロジェクト名は私が考えてあります、プロジェクトノア、なんてどうでしょう」
本日の女神の自己顕示欲PR、いただきました。
隣で一緒に無人偵察機を操り、地図に起こしているイヤップとウルルのバディはノアが気になっているようだった。なにせ、ノアと言えばこの大陸随一の変人だからな。
ノアといつも共にある恐竜型の着ぐるみのギリーは、ウルルに声を掛けた。
「ウルルさん、首尾はどうでしょうか?」
「忙しいけど、なんとか……貴方もしてみる?」
「私はノアを守る役目があって、申し訳ないです」
「ふーん」
ギスギスしてんねぇ!
そこにKYの妹、アオイちゃんちーが差し入れ持ってやって来る。
「お疲れちゃーん、みんなトロピーセットいるー?」
「トロピーセットってなんだアオイ」
「トロピーの飲み心地を引き立たせるためのセット料理だよ兄くん」
王都のジャンが開発した新商品で、さっそく品薄ー。といい、みんなに渡していた。
無人偵察機を神経とがらせて操っているイヤップはアオイにお礼を言っていた。
「ありがとうアオイ」
「いいんだよイヤップ姉さん」
「ね……姉さんですか?」
「お兄ちゃんと結婚したら必然的にそうなるでしょー」
「た、た、タケルとはまだそこまでの関係になってません」
ああ、妹はまた微妙な話題に踏み込んでしまったみたいだ。
ノアはそのやり取りを傍から見つめ、どこか寂しそうにしていた。
「ノア、具体的に神様の役目ってどんなのがあるの?」
「役目ですか? 神は大陸と一心同体であるので、自然の理に従いますよ。ですからタケルさんの国づくりに手を貸すことはしないと思います」
「本心からそう言ってるの?」
と聞くと、ノアの相棒のギリーが両手の爪を立てて僕をめちゃくちゃにする。
周囲にいたメンバーは相手が神なのを知っていたからか、制止できなかった。
「やめてギリー、それ以上はいいよ」
「ノアに精神攻撃を仕掛けた貴方が悪いのです、タケル」
「お前らもうどこかに隠居してろよ! グウェンだってそうしてただろ?」
と言うと、ノアは素面で返答した。
「他の大陸の神のことは知りませんね」
大陸の女神の朝は早い。
彼女は例え、その大陸にもっとも貢献している手合いであろうと、正面からぶつかっていく。
辛いのは女神だとて一緒。
彼女は神の不文律に縛られて、したいことが出来ないでいる。
不完全燃焼、だが、彼女は神としての役目を全うする。
全力で。
自分の持てあます全てで、神の役目を果たそうと言うのだ。
たとえその先に民草からの信望がなくとも、彼女は信条を貫くのだった。
「やめてくれこのBGM、某番組じゃないんだからさ!」
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