第105話 ライザの痛切な思い、だお
ウルルと混浴したあと、僕は今回の遠征に同行した六十五名を食堂に集めた。
「お早う御座います皆さん、この大陸の新米王のタケルです」
「いよ! お兄ちゃんやってんねぇ!」
「騒ぐな妹王よ、皆さん、僕はですね」
「いよ! お兄ちゃんやってんねぇ!」
「黙れアオイ」
僕の説明はまだ始まったばかりでしょうが!
「これから皆さんと国づくりするにあたって、会議しようと思います」
みんなには、先ず今回同行した素直な気持ちを聞いておきたかった。たぶん、言いづらい理由の人もいるだろうからステータスウィンドウのDM機能で伝えて欲しい。そう言うと、一番苦い顔をしていたのはアンディだった。
「屑様、俺これ苦手なんだよ」
「わかったわかった、アンディは僕が手取り足取り教えるから」
「きもちわるっ」
アンディは結構な好色家っぽいしな、そのうちいい人見つけてくれればいいんだけど。
ウィンドウの操作が苦手といったアンディは極々短文で以下のように言っていた。
『このくにでめいじつともにちからをつけるため』
うむ、いいんじゃないか?
三十分もすれば、みんなの気持ちがDMで寄せられて僕は一喜一憂した。
なお、若干一名だけギャル語で語ってきた妹がいたのでそれはスルー。
「……ありがとう。そしたら僕が思う国づくりの思想を伝えておきます――僕の国では、すべての人がステータスウィンドウを持ち、基盤として生きていけるような画期的な国にしたいと思ってるんだ。例えばステータスウィンドウを通して、生活の機能を動かせるようにしたい。それは僕と、僕の妹のアオイ、ここにいるみんなの協力があれば不可能じゃない」
むろん、ライザが唱えたようにみんなの安全は保障したいし。
誰もが希望を抱けるような、そんな国にしていきたい。
演説染みた台詞を口にすると、メグが挙手する。
「勇者召喚のための祭場については?」
「造るよ、この後すぐにでも」
答えると、メグを始めとした聖女たちはほっと胸をなでおろす。
次はハリーが手を挙げた。
「俺の店は?」
「何の店ですか?」
「そらお前、色々よ」
「色々じゃわからないから具体案を後で聞かせてください」
他には? と言うと、親方の息子さんのブランカが手を挙げる。
「こんな完成された街に、俺が来る必要あったか?」
「必要です、この国はまだ全貌がわかってないし、僕が知っている限りでも未開拓の所は全然ありますから」
「それにしたって人手がまるで足りない、その問題はどうする?」
人手不足については、と、ランスロットがいち早く声を上げた。
「僕の伝手を使おう」
伝手を使おう、って、それ完璧モニカ頼みじゃん。
ランスロットは自由を求めているような素振りだったけど、首絞めてないか?
「皆さん、お早う御座います。この大陸の神こと、ノアで御座います」
「ノアのパートナーのギリーです」
すると大陸の神を名乗るノアがやって来ては、壇上を支配する。
ノアはギリーのお尻を使って僕を退かせ、よよよいと自己PRし始めた。
「この大陸で一番偉いのはタケルさんじゃあ御座いません、私です」
「次いで偉いのはギリーです」
こいつら、自己顕示欲隠せよな! 本当に神か!?
他人のこと言えないけど、とりあえず。
「ライザ、ちょっといいかな?」
「何用だタケル」
僕はライザをボディーガードとして誘い、一足飛びに開けた場所へとやって来た。
「今からここに勇者召喚の祭場を作ろうと思う、付き合わせてごめんね」
「構わないが、どうやって作るというのだ?」
「エルフの大陸で得た変幻自在城を使って、基本を作って、後はブランカさんに調整してもらう。王都では何回か見ただけだし、あいまいな所はこの世界の人に直してもらうよ」
だからちょっと下がっててというと、ライザは素直に下がった。
「……タケル、私はこれとは別に、作ってもらいたい施設があるのだ」
「どんな施設? ――建城」
新スキルの合言葉である建城を唱えると、目の前に岩肌が目立つ鈍色のドームが出来た。両手をぽんぽんと払い、土ぼこりを落としたあと、ライザの方に振り返ると泣いているようだった。
「……どうしたんだライザ」
「タケルとの別れが、刻一刻と迫っていることを痛感してしまった」
「……以前もこんなこと、あったよね」
あれはライザが魔王討伐隊に加わるために、遠征した日のことだ。
僕はあの日以来、ライザとの友情を確かなものだと感じたし。
今だってそうだ。
「ライザ、僕たちは別れを惜しむ前に、やるべきことがあるんじゃないかな」
「それもそうだ、今はタケルの国を作らなくてはな」
数十年、もしくは数年で僕の国はつくられるかもしれない。
ライザの言う通り、その時は刻一刻と歩み寄っている。
しかし、始まりがあれば終わりあるのは全てのことわりだから。
なら、僕は涙を流す前に、彼と、集ってくれたみんなと共に、先ずは笑うよ。
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