第104話 ウルルの思想、だお

 ハリーが眠りこけている間、僕は一足先にホテルの食堂へとやって来た。

 ここの朝食はバイキング形式だったらしく、忍び込んだ小型の竜種が食い漁っている。


 よくわからないが、追い払っておこう。

 そう思い、神々の楽園で修行に修行をつんだ剣を抜く。


 さぁ……かかってこいや!!


 ◇ ◇ ◇


「……あー、何してるんだタケル?」

「その声はハリーですか……僕はもう、駄目ぽ」

「もしかしてこいつらとちょっと遊んでたのか?」


 小型の竜種は、意外に強かった、まる。

 剣で追い払うつもりが、弄ばれてしまった。


「無茶しやがって、お前が剣の腕を鍛えたがってる、って言うのは昨日ライザから聞かされてたけどよ? このレベルのモンスターに負けるぐれーなら、俺が剣を教えてやるぞ」


「本当ですかお?」


「お前と俺は竹馬の友じゃねーか、竹葉タケルだけに、つってな」


「言葉間違ってるけど、ありがとうハリー」


 ハリーは倒れている僕に手を差し伸べ、今一度剣を握るように促した。


「たとえこれが真剣じゃなくとも、勝負を決めるには相手の隙を突くんだよ」


 言われ、小型の竜種と対峙する。

 そして相手を観察しているが、隙らしい隙が見えない。


「……隙がねぇって思ってねーか?」

「その通りだお」

「相手の隙が見えねぇ時は、こーすんだよ」


 ハリーは慣れた手つきでポケットから砂を竜種に向けてまく。

 竜種は砂が目に入ったようで、ようやく隙を見せてくれた――ッ!


 僕は竜種の眼下に入り、剣を横にして下から上に振り上げた。

 そこで相手の首を断ち切り、鮮血を浴びる。


 その光景に他の竜はおびえ、食堂から立ち去っていった。

 ハリーは甲高い拍手を慣らし、僕の勝利を祝っている。


「よくやった、先ずは第一関門クリアだな」

「ハリーの特技なんですか? 目つぶしは」

「まぁ常套手段の一つだな、タケルの剣筋はいいと思うぜ」


 そら、手にマメを作るほど剣を振ったから、多少はね?


「足りてねぇのは経験だな、何も命をさらせって言ってるんじゃなくて、例えば子供の頃、誰かと殴り合いしたことねーのか?」


 ないない。


「意外とお坊ちゃんだったんだな、まぁ練習相手ぐれーにはなるぜ」

「ありがとうハリー、そしたら僕はちょっと汚れたんでお風呂に」

「おう、俺はテキトーに酒漁るわ」

「飲み過ぎないようにお願いしますよ」


 エレベーターに向かい、大浴場のある地下一階へと降りた。

 お風呂に浸かりつつ、今後の方針を考えるべきだろうな。


 グウェンが言うには、僕はこの大陸の新米王として派遣されたんだ。

 他の国が安易に攻め込まないよう、先ずは防衛の礎を築きあげるか。


「あら、どちら様かと思えばタケルではないですか」


 地下一階の大浴場前には、ライザと女勇者のナナがいた。

 ナナもランスロットと同じく、今回は僕たちに同行していたのだ。


 ライザは鼻先をすんすんと鳴らすと。


「血なまぐさいなタケル、何か遭ったのか?」

「ホテルの中に小型の竜種が侵入してたから、追い払った」

「怪我しなかったか?」


 大丈夫やで、ライザママ。

 僕はいつの間にかライザにバブ味を覚えている。


 そう感じるほどにライザのママ味は凄い。


「二人は朝風呂に入ったってこと?」

「ええ、豪華で優美なお風呂ですからね、ここは」


 ナナはお風呂上り特有の馥郁をかおらせつつ、ホテルの大浴場を気に入った様子だ。


「僕は今から入るよ、ライザ、またあとで」

「ああ、ではなタケル」


 して、エレベーター前にいた二人とは別れ、大浴場に入る。

 もちろん男湯であることは確認済みだったが。


「タケル、私も一緒に」

「その声はウルル?」


 性差意識の低いウルルが男湯に紛れ込んでしまった。

 まだ緊張するけど、エルフの大陸の時も裸の付き合いした仲だし。


 今さら慌てふためくのもなんか変かなって思いまして。

 だからウルルと並ぶように湯船に浸かっている。


「……ウルルは結局、何がしたいの?」

「何のために生きているか、ってこと?」

「いやそこまで重い話題ふったつもりはない」


 元をたどれば、ウルルは魔王リィダに付き添っていたドラゴンの化身だ。

 僕は彼女が大切にしていたっぽい巨大なアークを破壊したし。

 彼女からドラゴンとしての姿を奪ってしまった。


「ウルルは人間の姿になってから、僕の傍にいるようになったけど、何が目的だったのかなって」


「万物にはそれぞれの生き方があるように、人間には人間の生き方がある。私はこの世の摂理に従ったまでに過ぎない」


「……ウルルが思う人間の生き方ってなに?」


「好きな人と子供を作って子々孫々とした繁栄を願うこと」


 ウルルの言うことは、動物的な思想に思えたけど、一つの生き方でもあるよな……だからと言って彼女によし、子づくりしようなんて言わないけどな!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る