第98話 ライザの決意だお

 ライザに弁明しようとヒュウエルの酒場に向かった。ステータスウィンドウで確認した所、彼はヒュウエルと一緒にカウンター席にいるみたいだから。


「あ、ライザ」


 ライザはヒュウエルの酒場に向かう道中を、帰っているようだ。


「タケルか、昨日は楽しかったな」

「僕は昨日の記憶があいまいで、覚えてないんだ」


 けどライザが楽しかったと言ってくれるのなら結果オーライだお。


「昨日は君やイヤップに迷惑かけたようで、ごめん」

「いや私は別に……昨日はヒュウエルの昔話を聞いていた」

「へぇ、ヒュウエルの? 僕も興味あるな」


 と言うと、ライザは得意気な笑みを浮かべる。


「そうだろ? いつかヒュウエルの口から聞くといい」

「……今は家に帰っている最中だよね?」

「どうだろう、タケルと合流したことだし、このまま散歩してみないか?」


 OKだお。

 ライザは僕を誘うように、王都近郊へと繰り出そうとしている。


 絶対的な信頼をよせるライザの後を追うと、彼は大輪の笑みを見せていた。


「ヒュウエルが言っていた、タケルとの絆は何があっても大切にしろと」

「そっか、ヒュウエルにお礼を言わなくちゃいけなくなったなぁ」


 そう言うと、ライザは笑みを崩さないままで。

 ふと、彼の笑顔に遠望の念を覚える。

 僕とライザは未来永劫、大切な仲間のままなんだという希望だ。


 今はもう王都近郊の森に魔性のモンスターは巣食ってないようだ。

 とても静かで、ライザは森を抜けた先にある王都を一望できる丘へと向かった。


「タケル、例えこの先苦難が待ち受けようとも、ともに乗り越えよう」

「この世界に来て、一番の幸せは君と出会えたことだと思う」

「私も同感だ、タケル以外の人間であればきっとこう上手くいかなかったと思う」


 異世界サタナに来た当初、僕とライザは路頭に迷う生活からスタートした。

 それが今じゃ王都でも一、二を争うほどの出世頭になれたんじゃないか?


 僕はライザと横に並び立ち、どこまでも青い空の下に栄える王都をふかんしている。若干不安だった気持ちはすっかり晴れわたり、この時のことは深く印象に残っていくと思えた。


「どんな国をつくりたい?」


 と聞くと、ライザは即座に口を開いた。


「誰もが安心して暮らし、希望を持てるような国がいい。そして出来るのならば」


 ――私はその業績を故郷に持ち帰り、あの世界を救いたいと思う。


「……つまり、グウェンの最後の試練が終わり次第、私は故郷に帰る。イヤップのことは任せたぞ」


「そんな一生のお別れみたいな言い方しなくてもいいじゃないか」


 それに、帰る算段は目途がついているのか?

 聞くと、ライザは口を噤み、黙ったまま何も言わず。


 過去の僕たちにとって全てだった王都の光景を、忘れないようおがんでいた。


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