第97話 時に激しく、だお
拝啓姉さん、お酒って怖いんですね。僕は酒の持つ魔力を味わったみたいで、今は猛烈に後悔しています。せめてもの救いは、今ここにいる女子たちは僕に好意を持ってくれていたことでしょうか。
もしもしポリスメン? こういった場合はどうすればいいのでしょうか。
「逃げればいいんじゃないでしょうか?」
ビクゥ!?
「あ、誰かと思えばノア」
「昨夜はお楽しみだったようでなにより、タケルさん、早い所新大陸に向かいませんか」
女性フェロモンが香りたつリンの寝室。
そこには部屋主のリンと、恋人のウルルと、奥さん候補のイヤップが裸でいた。
どう言い訳しようとも弁明出来ない状況だ……!
とりあえず服を着て、猫背になってそろそろとリンの部屋から出る。
「タケルさん、やってしまったことは取り返せませんよ。ここは開き直りましょう」
「黙ってくれノア」
「私が黙っても、ギリーは黙りません」
ノアが被っている恐竜の着ぐるみの顔を見上げると、怒っているように見えた。
「ウルルさんと私は一応親類ですからね、ぞんざいな扱いは許しません」
そうこう言っているうちに、僕は三人を起こさず部屋から出ることに成功。
二階でコーヒーでも頂いて、冷静になろう。
「タケルさんが決めた期限は明日ですが、明日の何時ごろ向かいましょうか?」
ノアは自分の大陸にさっさと行きたがっている様子だった。
何がそこまで彼女を追い立てるのか、神には神の悩みがあるのだろうか。
「事前情報として知っておきたいんだけど、ノアの大陸ってどんな場所なの?」
「竜種のモンスターが多いのが魅力的な所ですかねぇ」
「魅力的じゃなくて脅威的なんじゃないか?」
竜種のモンスターが多い、ねぇ?
つまり人間らしい人間はいないってことだろうか。
「論より証拠と言いますし、実際に行って、ご自身の目で見た方が理解しやすいでしょう」
「それはそうなんだけどさ、注意点とかあれば今のうちに」
「注意点らしい注意と言えば、タケルさんはもっと私たちのことを理解すべきですね」
それらしいこと言っているが、今の僕には何一つ有益な情報は得れてない。
ノアはまどろっこしい性格をした女神様だと理解するのに、時間はそう掛からなかった。
時計を見ると、時刻は朝の早い段階を示している。
夜は早くに寝て早朝に起きる体質なんて、昔じゃあ考えられなかった。
「……とりあえず、みんなのコーヒー用意するか」
僕はいつものルーティーンをこなすことに決め、先ずはお湯を沸かし始めることから始めた。
その後、家の住人が各自起きて来る。
イヤップやウルルが起きてきて、イヤップは僕を見るなり恥ずかしがっていた。
「お、おはよう御座います」
「おはようさんだお」
「……なんと言ったらいいのでしょうか、昨夜は、お互いに何を思ったのでしょうね」
えぇ、僕も昨夜の記憶がありません。
「と、とりあえずコーヒー淹れてあるから、これ飲んで落ち着きなよ」
「ありがとうタケル」
イヤップとウルルにコーヒーを渡すと、リンも次いで起きてきた。
「お早う、昨日はなんかごめん」
「謝る方はむしろ僕な気がする、昨日はすいやっせんした」
流れるように椅子から立って土下座すると、リンは眠そうな声で。
「昨日のあれは、普段のタケルは見せない本能だよ」
本能とな?
「私が仕込んだ薬と、酒が乗じて、昨日のようなことになっちゃったみたい」
その説明を聞いたあと、僕は昨夜何があったのか、おおよそのことを聞いた。三人の説明によると僕は時に大胆で、時にキテレツで、時に淫靡だったという。ヒュウエルやライザと言った比較的まともな人種は、僕に冷たい視線を送っていたらしい。イヤップはだからと続けざまに言うのだ。
「新大陸に向かう前に、兄さんとよく話し合った方がいいと思います」
うむ、そうするとしよう。
ライザを探しに家を出て、ステータスウィンドウを開き、僕はヒュウエルの酒場に向かった。
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