第95話 ステータスウィンドウの新ツールだお

 ハリーの怒声と共にパーティーは始まった。


 前のめりに倒れこんでいた僕は、ランスロットが手で起こしてくれる。


「タケル、俺たちの祝福に先立って、乾杯」

「ああ、乾杯。ランスロットは結局新大陸について来るの?」

「もちろんさ、モニカが思いのほか了承してくれたしね」

「………………」


 策士のモニカが、フィアンセの派遣を了承しただと?

 何やら陰謀めいたものを感じるが、追々処理していこう。


「屑様! ちょっとこっち来てくれよ」


 僕を早々に呼んだのはアンディだった。

 世話が焼けるよ。


 アンディはこのパーティーに家族を連れてきたようで、僕はまず老母のマージャに声を掛けた。


「マージャ様、この度はお別れ会に出席してくださりありがとう御座います」

「タケル様、私は今貴方に酷い怒りを覚えているのです」

「アンディの件でしょうか?」


 聞くと、マージャは冷静な表情で首肯した。


「アンディはまだ幼いではありませんか、その幼い子を扇動して、自分の手ごまのようにしようとする。卑劣でとても許容しがたいです。今すぐアンディとは縁を切ってくれませんか」


「……無理ですね、アンディはもう僕の親友と言っても過言じゃない。アンディの意志を昨日聞かされ、僕はその意志を生涯貫いて欲しいと思っています。そのために出来ることがあるのなら、僕は最大限アンディを助けます。もちろん本人の成長を見越したものですが、アンディが新大陸に行こうとしているのは、彼の意志です。僕の扇動とか、誘惑によるものではありません。なぜならアンディはヒュウエルに次ぐ勇者で、心の強さは僕を超えていますから」


「本気なんですね?」


「本気ですお」


 と言うと、言葉が崩れた僕をアンディが怒っていた。


「屑様、TPOはわきまえようぜ」


 ごもっともですお。

 マージャは僕とアンディのやり取りを見詰め、嘆息をこぼすと。


「では、アンディのお目付け役として聖女も幾人か派遣させて頂きますよ」


 え? えぇえええええ!? いいの!?

 聖女と言えば勇者召喚が出来る王都でも屈指の能力者じゃないか。


「アンディも、それでいいでしょうね?」

「ばあちゃん、それだと姉ちゃんたちが危険な目に遭うぞ」

「アンディ、姉さんたちを守り切れる自信がないのなら、今すぐにでも辞めなさい」


 聖女の代表のマージャは中々に痛烈な提案を仕掛けてくる。

 精神的揺さぶりならマージャの方が上手だと思えた。


「聖女やアンディの身は僕が必ず守りますお」

「はぁ、本当にタケル様は成長なされたようで、私としても嬉しいですわ、はぁ」


 だったらため息をどうにかしてくれないですかお?


 それで次は、親方の放蕩息子さんに会いに行ってみるか。

 親方の姿が酒場にいない、けど外から親方の怒号が聞こえる。


 行ってみるか。


「ねぇお兄ちゃん、ちょっといい?」

「アオイ? すぐに済むならいいよ」


 外に行く前に僕はアオイから呼び止められた。

 アオイの隣には王都で有名な味の勇者のジャンがいる。


「ステータスウィンドウに、新しい機能を付けてみたんだ。お兄ちゃんにもあげるね」

「どんな機能なんだ?」


「話をさかのぼれば、私がジャンジャンに一緒に来ないかって誘ったんだけど、断れてさぁ困ったぞっとなった頃、私はその時閃いたんだよね。どんなに遠くにいても通信が取れる機能と、無制限のアイテムボックス、この二つの機能を改造してやることで、じゃじゃーん、ステータスウィンドウで物品のやり取りが出来るようになったよ」


 ほぇー、そりゃたまげた。


 つまりアオイが作ったのは簡易的な交易システムだ。対象同士にアオイが魔改造したステータスウィンドウがあれば、どんなに遠い所にいても物品のやり取りが出来る。試しにアオイにメツバキノコを10個送ってみようとすると、謎の交渉ウィンドウが開いた。


「お兄ちゃんが提示したアイテムは、メツバキノコ10個ね。なら私は金貨100枚で条件打診しよう」


「お前が凝り性なのは知ってたけど、凄いシステム作ったな」


「えっへんだもん!」


 これで、新大陸で獲得したアイテムを王都の人間とやり取りすることが可能になった。アオイが召喚されてからというものの、ステータスウィンドウはどんどん便利になっていく。


 口元が緩むほど、僕は僕のスキルが使い物になる様相が嬉しかった。


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