第94話 パーティーだお

 自分より若い子の魂が揺さぶられる光景に居合わせると、こっちまでやる気が漲って来る。若さとは、それだけで素晴らしいとの格言然り、昨夜の出来事はたるんだ気持ちに覇気が宿ってよかった。


「お早うタケル」

「お早うミレーヌ、僕はこれから王都の知人に挨拶周りしてくるけど、君も一緒に行く?」

「うん、行く」


 ミスト種のミレーヌは悪戯が大好きで、早朝、僕と一緒に王都の人々に挨拶周りしていると。


「お早う御婆さん」


 出会う人出会う人全てに、相手の身体にまとわりついて驚かせていた。


「ヒャっ、だ、誰かと思えばタケルさんではないですか」

「お早う御座いますマージャ様、アンディから話は聞かされてますか?」

「お話? ですか、特に聞いておりませんが」

「ならこの後でアンディの口から直接聞いてみてください、彼の人生にかかわる重大な話ですので」


 聖女の代表を務めている老母のマージャは、アンディを寵愛している。

 そのアンディが僕と一緒に新大陸に向かうことを、彼女が了承してくれるとは思えない。

 頑張れよアンディ、さっそく第一関門があるぞ、昨日の意気で乗り越えて見せろ。


 マージャとの挨拶を終えると、今度は街の親方のもとへと向かった。


「お早う親方」

「うぉ! ミスト種か、なんでこんな所にいやがるんだ、おう?」

「彼女はミレーヌといって僕の仲間なんですよ」


 ミレーヌの悪戯をフォローするように彼女の前に出ると、親方は破顔した。


「おう、これは大将じゃねーか、早朝からご苦労なこったな」

「夜はやることがないから寝るに限りますお、そうなると自然と早起きになっちゃうんですよね」

「カッカッカ、ジジイ臭い悩み持ってるんだな大将」

「……親方は、この先の予定とかってありますか?」


 出来れば親方にも新大陸について来て貰い、建造物の指示や構成などを任せたいと考えている。この人は重要なポジションの人なのだから、僕も親方への譲歩は最大限惜しまないで行こう。


「交渉しませんか?」

「交渉だって? 大将、今度は一体何を画策してるんだよ」


「僕は神から新大陸の王を務めあげる試練を与えられたんです。ですから親方の力が必要になるんです。どうか僕と一緒に新大陸を開拓して頂けませんか?」


 親方は僕の打診を受け、指をとんとんと突いて思案し始めた。

 一応検討してくれている、んだろうなぁ……でも反応から察するにきっと断れる。


「……大将、それよりももっと面白い話しねーか?」

「面白い話ですか?」


「俺には一人、放蕩息子がいるんだけどよ、その息子もそこそこ大工の腕は立つ。俺っちはできればその息子にそろそろ当代の座を譲りたいんだ。だから新大陸には息子を出向させる、それであいつを色々と鍛えてやってくれ」


 思いがけぬ親方の打診に、僕は腰から頭を下げてお礼を言っておいた。

 僕の新スキル、変幻自在城があると言えど、建築家は必要だから。


 その他にも、僕はこれまで自分の店で出会ってきた冒険者や遠距離恋愛のお客さん、兵士から冒険者になろうとしていた客や、行商人の客などにも声を掛けていった。


 そんな風に声掛けして王都を巡っていると、夜になりそうだった。

 ミレーヌを連れて急いでヒュウエルの酒場に向かうと、入り口に見覚えのある人が突っ立っている。


「ハーイ、タケル、久しぶりじゃない」

「エレンじゃないですか、それとリンも、再びこうして会うことが出来て嬉しいです」


 リンはためらうことなく僕に肉薄して、キスをしてくれた。


「久しぶり、この後時間空いてる?」

「二人とも聞いてないんですか? この後、ヒュウエルの酒場でパーティーがあるって」


 と聞くと、エレンは舌打ちをして。


「リンは今からあんたと二人きりでデートしないって誘ってるのよ、鈍感ね」

「あ、ああ、えと……とりあえずパーティーに出て、いい頃合いになったらで」

「パーティーに出ると私たちは大抵酔いつぶれるのよね、責任はタケルがとりなさいよ」


 異議あり!! 酒で酔いつぶれても、責任の所在は飲酒した本人にあるかと! 


 などとくだらないやり取りを交わしていると、エレンは僕の首根っこを掴み、ヒュウエルの店に思い切り投げ込んだ。


「イヤッホ――イ! 主賓のご到着だぜ!」


 いつも威勢のいいハリーがパーティーの音頭を取り始め、僕たちのお別れ会はこうして始まるのだった。


「みんな飲み物持ったよな? では、俺たちのタケルの新たな門出を祝って、いっちょ乾杯と行こうかぁあああああああああ! 今日は無礼講の乱痴気騒ぎだぜぇええええええ!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る