第93話 アンディの誓い、だお

「お兄ちゃんただいまー、どうして暗いムードなの?」


 僕についで、ライザやイヤップにウルルが家に帰って来たあと。

 最後にアオイが帰って来た。


「いやー、さすがは王都ですねぇ。神々の楽園とかいう何もない僻地とは違って、今回の収穫物はうっはうはだったよ。鼻血出そうになりました、まる」


 アオイはそう言い、よいせっとと一階の長椅子に座る。


「おや? お兄ちゃんこの人誰ー?」


 そこでアオイはようやくノアとギリーの二人に気づいたみたいだ。


「タケルさん、もしかしてこちらの方が件の妹様で?」

「そうだよ、アオイは君の評価だとどれくらいなんだ?」

「割といい線いってますが、50点ですね」


 アオイは50点か……ヒュウエルを100点とした場合。

 僕の評価は65点で、ライザの評価は40点だった。


 気をつけろアオイ、神々による僕たち新米勇者の査定はすでに始まっているぞ。

 お気をつけなはれ……!


「私は、自身の力を過信していたのか」


 40点の評価だったライザはがっくりと肩を落とし、階段を背もたれにしてうなだれていた。ライザが落ち込むと、その場の空気に伝播して、帰って来たアオイから見たら暗いムードに映っていたということらしい。


「アオイ、その恐竜の着ぐるみ姿の人が、例の新しい神様らしいぞ」

「うっそ!」

「それで、彼女の着ている恐竜が、ドラゴンの化身らしい」


 そう、ノアが着ている恐竜の寝間着みたいなの、あれ意思があるんです。お昼にアンディが子供の容姿だったことを利用しようとしてノアにスキンシップを図ったが、ドラゴンの化身であるギリーにもてあそばれる結果となった。


 上着を引き裂かれ、肌に棘のような傷を残されたアンディ、汚されちゃった。


「へぇー、この着ぐるみさん、心があるんだー」

「私を初見で愚弄しなかったのは貴方が初めてです、アオイさん」

「あ、ほんとだ、喋りやがる。陳腐な外観なのに」

「前言撤回致します」

「うーん、でも、これまで見てきた感じだと、他はまともだったよね?」


 アオイ、言いたいことは判るけど、言っていいことと悪いことがあるんだぞ!


「見た目に惑わされるなってことだろ」


 と僕がフォローのフォローから入ると。


「違います、私は生涯この姿のままです」


 ギリーは悲しいことを口にしていた。

 アオイは目の前にあったお茶を口に含むが、毒でも入ってたらどうするんだ。


「アオイ、いくらそれがお茶に見えたからって、いきなり口にするのは頂けませんね」


 アオイの付き人状態になったザハドが、それをたしなめる。


「く、殺せ。で、この人が例の神様ってことは、新しい大陸はすでに?」

「らしいぞ、グウェンに連絡したらあとはよしなにって言われた」


 新しい神と、ドラゴンの化身の誕生。


 そしてそれにまつわる新しい大地が生まれ、僕たちはその大地を守らなくちゃならない。この情報が誰かにリークされてなければ、新しい大陸はまだ手付かずのはずだ。


 そう性急な話じゃないと思うけど。


「一応出立は三日後にしようと思うけど、アオイやザハドはそれでよかった?」

「りょ!」

「承知しましたタケル」

「それじゃあ、明日の夜はヒュウエルの店でお別れ会開くことにしてあるから」


 今日はもう寝よ寝よ、各人解散! お疲れっしたー。


 して夜。

 何を思ったのか知らないがアンディが我が家を尋ねた。


「屑様、これから俺と一緒に王都を散歩しないか」

「……別にいいけど、アンディがそんなこと言い出すのは気持ち悪いな」

「子供に向かって暴言が過ぎるだろ、屑がよ」


 アンディに連れられて夜の王都に繰り出すと、街路のいたるところにランタンが置かれていた。以前の王都とは違い、生活の風情がよりいっそう強調されているようで、変わりゆく街並みにわだかまりを覚えた。


「屑様は、この世界のことをどう思う?」

「……今の所は良いとも悪いとも思わないよ」


 そう、アンディに聞かれて今口にしてわかったように、今の僕に異世界サタナの感想はまだはっきりとしない。最初は、クソみたいな世界だと皮肉っていたけど、徐々に僕も王都で評価されるようになって、色んな人とのつながりが持てた。


 同期の勇者、ジュードのような腐れ縁もあるけど、おおむねはいい人たちだったと思う。


「俺は、魔王リィダの襲撃事件以来、王都の人間が憎くてさ」

「……」

「正直、屑様やアオイちゃんたちを除いた人間は要らねぇ」


 そうか、それでもアンディは王都の人々を守れるぐらい強くなるって言ったんだ。

 アンディはこれから先も社会の闇を見て、辟易とするかもしれない。

 それでもこの子は勇猛果敢な王都を代表する勇者になれる素質がある。


 アンディは心根の強い男だから、いつかヒュウエルに並び立つぐらいの勇者になるんだろうさ。


「アンディ、この先辛いかもしれないけど、一緒に頑張っていこうな」

「屑様が辛くなったら、俺に助けを求めてきてもいいぜ。その代わり」

「ああ、その代わり、僕はアンディの面倒を見るよ。アンディが王都で一番の勇者になるまではな」

「つまりそれって、俺を新大陸に連れて行ってくれるってことだよな?」

「そうだとも、成人になるまで僕と一緒に新大陸を守ろう、アンディ」


 そう言うと、アンディは心の底から嬉しかったのか。

 王都の空に見える緑色の月に向かって叫んでいた。


「俺はッ!! 絶対、屑様に認められるような勇者になる……なるんだッ!」


 それは近い未来、僕の勇者と言っても過言ではないほどの大きな存在になろうとしていたアンディの宣誓だった。月はアンディの意気に応えるよう空に雄大な姿でたたずんで、萌芽した彼の勇気を祝福しているようだった。

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