第91話 大きな存在だお

 ヒュウエルの前で見事な土下寝をしていた彼女は。


「私、ノアって言います」

「僕も貴方と同じ境遇だった勇者です、困っていることがあれば助力しますよ」


 彼女にこう打診すると、ノアは僕の胸に抱きついて、泣き声をあげた。


「うぉおおおおん!」


 女子なのにずいぶんと勇ましい泣き方だな。

 ノアを連れて酒場に入ると。


「おおお!? 誰かと思えばタケルじゃねーか! 久しぶりだなぁおい」

「ああ、ハリーですか、その後おかわりないようで何より」

「よそよそしい態度はよせよ、俺とお前の仲じゃねーか」


 酒場に入るなり旧知の仲であるハリーに声を掛けられた。

 僕はハリーに一旦ノアをお願いし、ヒュウエルがいるカウンターへと向かう。


「この上俺に何か用だったのかタケル? 何か飲むか?」

「エレンの帰りがいつになるか知ってますか?」


「たしか、新しい特級ダンジョンに向かって、かれこれ一か月は経つな。もうそろそろ帰って来てもおかしくはないと思うぜ」


「ふーん、実は僕、グウェンから与えられた最後の試練として、新大陸を開拓しなきゃいけないんですよ」


 だから、王都に寄ったのは人材集めの一環でもあった。


 グウェンの話によると僕たちは新しく生まれる神とドラゴンの化身を養う必要があるらしい。生まれた神がグウェンたちに比肩するような存在になった暁には、僕は晴れてお役御免となるようだ。


 アオイは神々の楽園から解放された瞬間、ザハドを連れて資材調達に向かったし。

 ウルルとイヤップ、ライザたちは王都の食材を集めに散っていった。


 僕たちは存外、やる気満々なんだお。


「それはご苦労なことだな、言っておくが、俺はここから離れるつもりはねーぞ」

「なんとなく、そう言われるのだろうと予想してました。ハリーの手は空いてるの?」


 と、向こうのテーブル席にいたハリーに声を掛けてみると、二つ返事だった。


「俺なら年がら年中暇してるよ、タケルとは一蓮托生だと思ってるぜ」

「重いお」


 世紀末にいそうなモヒカン頭のハリーと一蓮托生の間柄だったとは、僕の印象はどうなってるんだお。ヒュウエルは注文していないのに料理し始めた。


「その新大陸とやらにはいつ出立するんだ?」

「一週間後です」

「一週間か、それまでにエレンたちが戻って来るといいんだけどな」

「ですね、挨拶ぐらいしたいです」

「……タケル、物は相談なんだが」


 カウンター奥手のキッチンで料理しているヒュウエルは、意味深な声音で相談を持ち掛けた。


「お前たちを幸先を祝福する目的の、パーティーでも開かないか?」


 ぱーちーとな?


「もちろん、費用は主催者であるお前持ちだがな」

「ああ、別にいいですよ、開いてくれるのならお言葉に甘えます」


 話に了承すると、ヒュウエルは即席で作った勇者定食をっターンとテーブルに置いた。


「これ、例のお嬢ちゃんに持って行ってやりな」


 僕が来た時もそうだったけど、ヒュウエルの気心は王都に召喚された勇者を影から支えてきたのだろう。残念ながら、仲間に誘うのは失敗したけど、ヒュウエルは王都にとって大きな存在だったみたいだ。


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