第90話 新世界の開闢、だお
平和を取り戻した僕らに、この先待ち受けているものは何だと思う?
それは新しい試練だった。
晩御飯時になると、僕らの師を務めているグウェンとダランの二人は同じ食卓につき、グウェンであれば快調な声音でそれぞれの弟子と会話を交わす。例えば修行は順調か? とか、他愛のない話題さ。
「時にタケル」
「なんでやんしょうかお頭」
「お前とライザの力を見込んで、お前たちにある新大陸を任せたいと思っている」
新大陸を任せたい? へへへ、卑劣で矮小なあっしにはちと荷が重いのでは?
まぁお頭がそう言うのなら、心に留意しておきまっせ。
「エルフの大陸の時みたく、争乱があるんですか?」
「実はな、その新大陸はつい最近、出現する兆候を見せた」
「出現する兆候ですか? じゃあ本当に手付かずの大陸なんですか?」
「ああ、そういうった新大陸に限って、各国の覇権争いが絶えず、人死にも大勢出る。そこで、我々の方からその大陸の王を任命し、無益な争いを起こらないようにしたいのだ」
なんか、話のスケールが急にでかくなった気がするが、気のせいかね?
グウェンはそのまま話を続け、僕たちの中でも特にアオイの目はギラギラと燃えていた。
「新大陸の発生は今より二週間後の見込みだ。その時、その大陸を司る神が生まれ、神と対を成すドラゴンの化身も何匹か生まれる。タケルとライザ、その他の面々にこれを治めてもらいたい、それがお前たちの修行の最後の試練としてやってもいいぞ」
アオイちゃんちーはグウェンの言葉に気をよくし、快活な声を発した。
「うぉっしゃー! 私はやるよお兄ちゃん、最後の試練を受けて立つ!」
「……ライザは? この話引き受けるの?」
「やろうと思う、タケルと一緒に試練を受けれるのは私としても頼もしいからな」
なら、やるお。
これまで僕を支えてくれた人たちに報いるためにも、僕はやりますお!
そんな風に全員が全員、それぞれに士気を高めている中、ある来客がやって来た。
「ご機嫌よう皆さん」
モニカ――彼女の来訪にランスロットは罰の悪そうな顔をしていた。
「今回は何しに来たんだモニカ」
「ランスロットがまた勝手に私の傍から離れようとしていたので、忠告しに来ただけです」
「なら席を外そう、ここだとみんなの士気を下げてしまうから」
「いいですわよ」
するとモニカは王家の転移スキルを使い、ランスロットと二人していなくなった。
なーんか、いやーな感じ。
グウェンはモニカの来訪を特に気に留めた様子もなく、口を開いていた。
「諸君、試練の時は近いぞー! 諸君の双肩に、世界の未来が懸かっている! 私は大船に乗ったつもりでいるからな」
えい、えい、むん!! だお。
◇ ◇ ◇
グウェンの最後の試練である大陸に向かう前に、僕たちは余暇をあたえられた。
王都にとんぼ返りし、まずはエレンとの共同宅である我が家に向かう。
何か月ぶりの王都だろう、郷愁の念が込み上げて、ついつい口元が緩む。
僕の店として改築したガラス張りの一階部分は、相も変わらず子供たちに占拠されていた。
「屑様だ!」
そのいわれも懐かしい。
「ただいまみんな、エレンとリンは?」
「エレンお姉さまだったら、ダンジョン攻略に行ったって」
「そうなんだ、いつ頃帰ってきそうとかって、ああいや、これはヒュウエルに聞くか」
エレンが子供たちに情報を与えておくとも思えないし。
エレンのことだったらヒュウエルに聞くのが一番だろう。
「アンディは今どこにいるの?」
「学校だって、屑様、アンディ最近遊んでくれなくてつまらないんだ」
「アンディもアンディで必死なはずだからね、しょうがないよ」
魔王リィダが王都に侵攻した事件で、アンディは大活躍したのはいいが。
それには裏があって、僕たちはグウェンのもとで修行する羽目になったんだ。
アンディは学校の勉強を頑張っているみたいだし、末は学者にでもなるんじゃないかな。あのアンディが? 草が生えますお。といった失言は心のうちに秘めて起き、早速ヒュウエルの酒場に向かうとしよう。
ヒュウエルの酒場の前には珍しく人混みが出来ていた。
なんだなんだ、と、僕も人垣から様子を覗うと。
「そこをなんとか、お願いします!!」
「駄目なものは駄目だ、お嬢ちゃん、いくらお前が新しい勇者として召喚されたばかりの右も左も知らない身だからって、そうそうに他人に甘えるなよ」
酒場の前ではヒュウエルが今回新しく召喚された女性に土下寝されている。
聞いた話だと、王都の聖女たちは召喚した勇者を毎回この酒場に放り込んでるそうだ。
面倒見切れないなら次々と召喚するなよなって思う。
「ヒュウエル、何か問題でも起こりましたか?」
ヒュウエルに声をかけると、眉根を上げていた。
「いつ戻って来たんだ? グウェンの修行はどうした」
「大きな宿題出されて、ちょっと余暇をもらったんですよ。それよりも彼女は?」
ヒュウエルの前で見事な土下寝をかましている同い年ぐらいの彼女は寝ぐるみ? とやらを着ていた。恐竜をモチーフにしてあるのか、薄茶色で、お尻の部分にはドリルの尻尾が生えている。
「こいつは今回召喚された勇者らしいんだが、右も左もわからねぇあまりパニックになっているみたいでな。俺に泣きついてきた。後はタケルが面倒見てやってくれないか?」
まぁいいけど。
この場を任してもらうよう合図し返すと、ヒュウエルは店内に引っ込んでいった。
「えっと、お顔上げてもらってもいいですか? 僕の名前は竹葉タケルっていいます」
というと、恐竜の寝ぐるみを着た彼女は洟をすすりながら立ち上がり。
僕の前に、綺麗な金髪と愛くるしい紺碧色の瞳をあらわにするのだった。
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