新たな大陸と女神 編
第89話 元・魔王親衛隊の面々だお
エルフの大陸から帰った後も、グウェンとダランの修行は続いた。
と言っても、神々の楽園での修業は自主性が肝要となって来る。
ここに集いし者は総じて限界を感じ、さらなる段階を極めるためにやって来る。僕やアオイのようなそもそも基礎が出来てない人間にとっては、何をしたらいいのかわからん。
「お兄ちゃん、やっぱり私思うんだ」
「何を?」
「いつまでもこんな辛気臭い場所にいないで、さっさと帰るための方法を考えようよ」
アオイはここにいることに限界を感じているらしい。
新大陸で得たクラフトスキルを試したくてしょうがないと言った感じだった。
しかし僕はユタの一件で戦う技術を身につけようと思い、今は剣を素振りしている。そのためにライザに指南役をお願いしたぐらいだ。
「タケル、素振りの一刀一刀に意味を持たせるんだ」
「一刀一刀に意味を持たせる?」
「例えばなんら変わり映えしない上段から下段への斬り下ろしにしたってあらゆる想定での一刀にしてやってみるんだ。目の前にある岩を砕くための一刀なのか、それとも目にも止まらぬ敵に対する必殺の一撃なのかとかな」
「わかった、早速やってみるよライザ」
「タケルはせめて自分の身は自分で守れるぐらいにならないとな」
のように、僕とライザやイヤップは真剣に修行に励んでいる。
アオイは目に涙をためて、鬱屈としたストレスを吐き出すかのように。
「バトル漫画じゃないんだからさあああああ!! もうやだあああああああ!」
と叫び、うぇええんと泣き出してしまった。
アオイはステータスは最強だけど、心が非常に弱いよな。
自己承認欲求の塊というか、心が満たされてないとすぐに投げやりになる。
「しょうがありませんわねぇ、だったら私のスキルで精神を高揚させてあげますわよ」
そう言ったのは、ライザと一緒に魔王リィダの軍門に下っていた女勇者のナナだった。ライザの説明によるとナナのスキルは相手の精神に干渉し、心のケアをすることが出来るらしいのだ。
ナナは体に吸い付くような黒いワンピースを着ている、黒魔術師みたいな三角帽が特徴的な人だ。
「あ、なんか気分が滾って、キタ――――――――――――ッ!」
ナナのスキルによってだったのか、アオイは急に元気を取り戻し、猛ダッシュで去っていった。ナナは得意げになるわけでもなく、好意を寄せいているライザに近寄り褒めて褒めてと言い、甘えていた。
ライザにも恋人みたいな人が現れたようで、僕は安堵から苦笑してしまった。
平和っていいよな。
「タケル」
とその時、ランスロットから声を掛けられた。
彼もライザと同じく魔王の軍門に一時下っていた勇者で。
こともあろうにも、彼は王都の王女モニカとただならぬ関係にあるらしい。
精悍で生真面目で、正義感に富んだ彼がなぜ魔王に味方したのか、深い理由があったんだろう。
「なにランスロット」
「君はまだまだ勇者の原石なんだから、剣はほどほどにして自分の才能を磨いた方がいいと思うんだ。僕が見立てた所、タケルは商才があると思う。妹さんのスキルも商業向けだし、そっちの方面で活躍した方がいいんじゃないかな」
「それもそうなんだけど、あんなことがあった以上、自衛手段は身につけた方がいいだろ?」
「君の場合は自衛手段の一つとして、護衛を雇った方が話が早いと思うけどな」
ランスロットはお節介焼きだった。
よく言えば面倒見のいい人なんだろうけど、後々災いのもとになりそうだよな。
ナナとランスロットと、他にもあと一人、ライザのかつての同朋はいたんだけど。
その人はグウェンの修行を断り、今は空世界で好き勝手に生きているみたいだ。
「イヤップ、今日の晩御飯の準備しない?」
「わかりましたタケル、今日は何がいいですか?」
「君は料理が上手だからな、それじゃあ」
イヤップに晩御飯の支度を頼もうとすると、ウルルが何かを言いたそうな視線を送って来る。
「タケル……私も晩御飯の準備するよ?」
「オナシャス!」
ウルルにイヤップ、どちらも普通の人間ではないが、僕の奥さん候補。
エレンの相棒として冒険しているリンも僕の恋人のような振る舞いを見せてたし。
こりゃ小生にも、春が来たんでやんしょうなぁ、がっはっは。
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