第86話 エセ勇者のいわれ、だお
「仇だと?」
ユタはこれまで自身が手に掛けてきた人たちの存在を失念していた。
ゼクスに聞いた限りだと、ユタの精神はとうの昔に崩壊しているらしい。
ユタは精神喪失者になるほどの、地獄を味わってきたようだから。
「ユタ、君の罪をつぐなう方法を提案するよ」
と言うと、ユタは業を煮やした表情を取り、目を見開いて牢屋の壁を殴った。
「私は罪過など持ち合わせていない! 諸悪の根源は全てあの忌まわしい儀式にあるんだッ!」
ユタの言う忌まわしい儀式とは、勇者召喚のことだろう。
「今一度、私と手合わせ願おうかタケル。もしお前が負けた場合、ゼクス同様に心身共に穢してくれるからな」
「彼女は君にとって一番大切な人だったんだろ? そんな大切な妹を、辱める貴方にこの世界をどうこう言う権利はもうないんだよ」
「……ついて来い」
「わかった」
僕はきびすを返した二人についていく。
ユタは道中にいたイヤップとミレーヌも一緒に解放し。
「お前らもタケル同様に、試してやる」
と言い、自身の力におごっていた。
そのまま城の階段を上り、再び玉座の間に通されると、ユタは構えた。
「三人一斉に掛かってこい、敗北の味を嫌ってほど教えてやる」
ユタの闘気に応じ、イヤップがすぐさま剣を抜く。
「お前の相手はこの私一人で十分だ」
彼女は覇気をともなって、ユタを切り伏せに掛かっていた。
「抜かせ、狐女、お前では役不足」
ユタは、イヤップが繰り出す連続攻撃を児戯にひたるようにいなし。
ユタが大きく剣を弾くと、イヤップは後ろに飛びのき、ゼクスをみやっていた。
「はぁ、はぁ、お前のような兄を持ったゼクス殿のためにも、私は」
「同じ妹としてゼクスを憐れみたか、そのような同情をうかがわせるだけの偽善者がさらなる悲劇を生むんだよ」
ゼクスのみならず、イヤップまでコケにされた僕は憤慨をあらわすように剣を抜いた。
例え負けたとしても、なるようになる。
「イヤップ、今はプライドは捨てて、僕と一緒に戦ってくれ」
イヤップは首肯し返して、僕と並んでユタに構えた。
「……タケル、どうしてヴィヴィアンが君を私の友人だと認めたのか、今一度試させてもらうぞ」
「ヴィヴィアンの正体がわからないけれど、僕は貴方を倒す」
機先を取ったのはミレーヌだった。
ミレーヌはミスト種のモンスターで、物理攻撃の耐性が強く。
「お早うお兄さん」
ユタの周りでひらひらと挑発していた。
「煩わしいッ!」
ユタはミレーヌが発生させた霧を手で払うと、今度は僕の一撃を肩に受ける。
手加減なしの強襲に、ユタが立っていた地面は陥没。
しかし剣はユタの肩に負け、中本から折れてしまい。
「――フ!」
「ッ!」
ユタの腰を下ろしての中段突きをもろに受け、城の内壁へと吹っ飛ばされた。
「目晦ましによる奇襲とは、この上小賢しい真似をするなよ」
「よくもタケルさんをッ!」
イヤップはユタに激昂して突進するも、突き立てた彼女の剣もまたユタの鋼の肉体に折れてしまった。
「よくよく見れば、お前も愛くるしい顔貌しているじゃないか、狐」
すると上背で勝るユタはイヤップの腰を掴み、彼女の身体に顔を埋める。
「いい匂いだ、癒される。イヤップと言ったな、たしかタケルの妻だとか?」
「そうだよ兄さん、イヤップさんはタケル殿の女だ」
ゼクスが誤解を助長させる口ぞえをすると、ユタは苦笑を浮かべた。
「私のものにならないか?」
「誰がお前のものになるかッ! 離せ、エセ勇者!」
――エセ勇者、それはユタが遥か昔に言われていたやゆで。
一歩間違えればそのいわれを貰っていたのは僕だったかもしれない。
ユタはイヤップの言葉に怒るよう身震いすると、イヤップの両手首を片手で掴んで、逃げられないようにしたあと、彼女の服を手で引き裂いた。
「いいだろう、犯してやる。そして知れ、どちらが下卑た存在なのかを――」
「んんっ!」
次の瞬間、イヤップはユタに唇を奪われていた。
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