第85話 モニカの来訪だお

 この大陸に居た神々を滅ぼしたエルフの兄妹に捕まって、三日は経った。


 妹の方は時々僕の牢屋にやって来て、外の近況を伝えてくる。話によると、空島の動きを僕が止めたことにより、地上のダークエルフは総攻撃を仕掛けているらしいのだ。


 時々この牢屋に地上軍の攻撃の音がかすかに聞こえていた。


 だから僕は、ゼクスは信用にたる話を寄こしている、と思え。


 徐々にだけど、ゼクスを信じるようになっていた。


「タケルの狙いはなんだい?」


 ゼクスは脱いだ衣服を着なおしながら聞いてきた。


「ユタの支配を辞めさせることだよ」

「言った通り、兄さんは誰にも倒せないよ……ちゅ、じゃあ、またね」


 ゼクスの話を聞く限り、ユタはその昔一介の勇者だった。

 僕の先輩みたいなもので、彼らが召喚されたのは何百年も前のこと。


 その時ユタは自分のスキルを外れあつかいされ、迫害されるようになったらしい。


 ユタたちの言う神々とは、この大陸にいた人間たちだったようだ。


 それから十数日、ゼクスは毎日のように僕の牢屋に来ては、求愛して来る。


 童貞だった僕はいつの間にか彼女との性交にも慣れ。


 僕たちが計画していた――その時がやって来るのを、心ひそかに待っていた。


「……兄さんがさ、そろそろ我慢の限界っぽいんだ」

「って言うと?」


「もしかしたら何十年ぶりに、戦場に出るかもしれない。毎日のように戦況を伝えてくる衛兵がうるさいって呟いていたし」


「ユタに伝えてくれないか、地上軍を相手にするのなら、僕が相手になるって」


 ゼクスは儚げな笑みをこぼして、わかったと言い牢屋から出て行った。


 僕が求めていたのは短期決戦であって、地上軍と空島の戦争は回避したかった。


 その時、目の前に思いがけぬ人が現れる。


「ご機嫌ようタケル」

「モニカ様?」


 その人は王都の跡取りの有力候補だったモニカだ。

 今日の召し物は白いドレスで、端正な顔立ちの彼女によく似合っていた。


「何しにここへ?」

「貴方を救出しに、と言うのは建前ですが、おおむねは間違いではないかと」

「――嘘だッ!!」

「あまり大きな声を出さないで頂けませんか? 胎教に悪いので」


 あ、サーセン。


「貴方はいつの間に子を授かっていたんですか?」

「どうでもいいではありませんか。それよりも、手助けは必要ですか?」

「……必要じゃないです、むしろ余計ですね」


 ――嘘。

 モニカの助力は必要じゃないと突っぱねると、彼女は口癖をついていた。

 モニカはアオイが開発したトロピーを口にする。


「貴方の罪深い所は、嘘の数の多さにありますよ」

「わかりました、だったら一つお願いがあります」

「なんでしょう?」


 空島の支配者、ユタを倒すにせよ、この大陸に空島がある以上争乱は絶えない。

 だったら、モニカの転移能力を使い、空島をどこかに移動できないか?


「僕たちが今いる空島を、無人の所へ転移させて欲しいのです」

「いいですよ」


 モニカは僕の願いを聞き入れ、瞬く間に空島を名も知れない海の上に転移させたようだ。空島を転移させたあと、モニカは姿を消し、代わりに牢屋にユタとゼクスの兄妹がやって来た。


 ユタは不遜な態度で僕に尋ねる。


「タケル、私の島に何かしたのか?」

「……転移させたんだよ、空島があの大陸にある以上、戦争は終わらないから」

「なんという真似をしてくれたのだ、お前が私の友達だろうと、見過ごせないぞ」


 そもそも。


「僕と貴方は友人なんかじゃない、貴方は僕に取って仇だ」




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