第83話 同じスキル、だお
僕の変幻自在城のスキルを使って空島は大きな衝撃と共に動きを止めた。空島ほどの大きな質量を本当に止められるのか不安だったけど、作戦の第一段階は見事に成功したので、僕を筆頭にパーティーメンバーは空島の上に跳躍。
「ッ、頼む、ライザのもとに僕を連れていけ!」
その後はアオイがクラフトした魔導エンジンつきのグライダーで、空島の中央にそびえる城に一気に詰め寄る。
「敵影と思わしきものを視認、総員構え、撃てッッ――――!」
しかし、敵のエルフは眼下からグライダーめがけて閃光の弾を撃って、行く手をはばんだ。
「のわ! お兄ちゃん! 弾幕ゲーは私苦手なの知ってるでしょ!」
アオイは相互の連絡を取り合えるヘッドセット越しに文句をたれる。
「だからお前は地下収容所にいろって前もって言ったんだ!」
「ノーカン! ノーカン! の! やべ、避けきれない!」
アオイのグライダーは敵弾に当たったようで、空中で爆散してしまった。
アオイのステータスのことだから、物理攻撃はノーダメージだろうけど。
「ザハド、アオイの援護に回ってくれ!」
「了解しました、皆さん後は頼みます」
六名のうち二名の戦力が、早くも脱落か。
しかも僕らの中で最強のステータスを誇るアオイがか。
「ウルル以外のメンバーは城の入り口に降りてくれ! ウルルかイヤップのどちらかが不足の事態に陥ったら作戦は中止だってこと念頭に動いてくれよ! ウルルは退化の唄の効果範囲だったらどこでも構わないから、後援よろしく!」
この大陸にやって来てウルルが獲得したスキル――退化の唄は効果範囲内にいるものを強制的に初期レベルに戻すといった能力だった。だからウルルには空島の城の中央にある塔で、作戦が終わるまでスキルを使ってもらう。
持久戦は彼女の得意な分野であるらしいし、なんとか持ちこたえてくれと念じる。
敵弾をくぐり抜け、僕とイヤップとケイトの三名が城の入り口に降り立つと。
「……カイゼル」
「まさか、ケイトか」
ケイトは早速、敵の防衛の主要人物であるカイゼルと出会ってしまった。
ケイトは夫の生存を視認すると、両目から涙をこぼして。
二人は腰元から銀の剣を抜き、瓜二つの構えで対峙している。
「まず聞くが、ここへは何しに?」
カイゼルが問うと、ケイトは涙ながらに答える。
「お前らの歴史を終わらせに」
「すぐに大口叩くところは、君の悪癖だぞ」
「大口でもなんでもない、真実を口にした」
「……真実?」
ケイトが彼のことを夫だと言っていたが、嘘でも、誤解でもなかったらしい。
二人は互いに過去の帳尻を合わせるかのように、二人の世界に没入していた。
「タケル、準備できた」
ウルルから連絡が入り、退化の唄を使うための場所を確保したらしい。
僕はウルルに「やってくれ!」と直ちにスキルを使うよう頼んだ。
「……――」
ソプラノ調の退化の唄が空島を覆うように大気に響くと。
「うああ! なんだ、これは!」
カイゼル率いる城の守りとして現れた敵兵達が身に起こった異変に惑う。
その光景に達成感を覚えると、イヤップが僕の手を引っ張った。
「今は敵将を討ち取ることだけ考えましょう!」
「それもそうだ、行こう、先導する」
イヤップと二人で城の正面入り口から中央階段を駆け上がり。
僕たちは瞬く間にユタの前に躍り出た。
「ようこそ、親愛なるタケル」
ユタは、おうように玉座に腰を落ち着けている。
隣にはユタの妹であるゼクスがいて、異様な雰囲気を出していた。
「ユタ、宣言通り、貴方には罰を受けてもらう」
「…………そんなことより、タケルのことを教えて欲しい」
「今さら貴方となれ合うつもりはないんだッ!」
「言っただろ、私と君は友達なんだ。友と争うような真似はしない」
「っだったら! ケヘランを手にかけるべきじゃなかった!」
ユタの超然とした様子を見ていると、自分が矮小な存在になったかのような錯覚を覚える。彼は平然として、僕だけ感情をむき出しにして、水と油のような構図を描いていた。
彼は本当に争う気がないのだろうか。
先ほどから剣尖を向けても、微動だにしない。
なので僕はユタの前に早足で歩み寄る、それでも、ユタは超然として。
「私の手を取れ」
「っ!」
片手を差し出してきたので、その手を思い切り払った。
抜いた刃を彼の首筋にあてがったところで、ユタはようやく立ち上がる。
「なるほど、ならば友情を深めるためのゲームをしようじゃないか」
「そんな暇はない」
ユタの上背は僕より手のひら一つ分、上にあって。
彼は僕が差し向けた剣を恐れず、玉座の前に歩みだした。
「タケルの力量を測る意味も込めて、ここで私と格闘してみないか? 私が負けと感じたら君の言う通りにしよう」
殴り合いで決着しようって言うのか……ユタの様子を見る限り、絶対の自信があるみたいだ。僕も剣技よりかは肉弾戦の方がやり易く思えたので、彼の誘いに乗ってみることにした。
――ユタは何かを隠している。
その予感は、ユタが誘った格闘で思い知ることになった。
僕は手っ取り早くユタを気絶に追い込もうと、彼のみぞおち目掛けて思い切り拳を放った――ドパンッッ!! 拳はユタのみぞおちにクリーンヒットし、衝撃波が前方に生まれる。
「……かなりいい筋しているな、タケル」
しかしユタは、僕の攻撃に表情を変えることなく、平然としていた。
何故だ? 彼だってウルルの退化の唄の影響下にいるはず。
僕たちだってウルルのスキルに影響されて、レベルは1になっている。
だけど僕たちはアオイのスキル魔改造によってステータスが跳ね上がっているんだ。手加減はしたけど、レベル1の彼を圧倒するぐらいの威力は十分あったはずなのに……!
ユタは、その答えを示すように、僕にある物を突きつけた。
「――ステータスウィンドウ、これは私の勇者スキルなのだがな、私の力を数値化して表示する機能を持っている。非常に便利なスキルだ。喜べタケル、私の友であるお前にもこのあとで付与してやるからな」
ユタは、僕と同じステータスウィンドウ付与のスキル持ちだった。
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