第82話 電撃強襲作戦、だお
ライザの妹イヤップは、兄は空島で何かを見つけ、あえてとどまっている可能性が強いと言った。イヤップのセリフにはなんら根拠がなく、スピリチュアルな物なんだけど、僕は信じることにしたよ。
イヤップはグウェンの修行を受け始めた時から、何かを隠している様子でもあるし。
「でもどうするのお兄ちゃん? 空島には私の魔導エンジンで行けるとは思うけど」
「あ、ああ、そうなんだ?」
イヤップの秘密を脳裏でせんさくしていると、アオイはぐーたれた。
「ぶへぇあっ」
「しっかりしてよ、今回は私の初戦闘なんだかんね」
「だからって殴ることないだろ!? おおん!?」
このキテレツちゃんを引き連れて無事にライザを助け出す自信がない。
アオイの教育係となったザハドが一歩前に出て、叱咤するわけでもなく言葉を発した。
「皆さん、とりあえず魔法で今の姿を一旦変えましょう。その方が敵の目をあざむけます」
と言い、ザハドは外見的に特徴があった僕ら一行の容姿を肌白いエルフの物へと変える。
「空島に侵入し次第、もう一度容貌を変えます。タケル殿の説明ですと空島の下降には桟橋があって、そこに警備の者がいく人もいるのなら、我々はその警備兵に成りすまして潜入しましょう」
「それが最短ルートだと思う、けどフィクションの世界だと一番危険なルートでもある」
「フィクションの世界ですか?」
ああ、物語の構成には山と谷があって、変装して潜入成功! → 大団円!
なんて易しい話、誰も見ないだろ。
「何メタい発言で日和っとんねん」
ですかね? アオイちゃんちーは僕の考えをメッタメタとののしった。
「……アオイの持ってる勇者の揺り籠ってさ、重さは一定なの?」
「重さ? あー、考えたことなかったけど、大体それであってる」
空島には惑星規模の勇者の揺り籠があって、そこには五十億にのぼる何も知らないエルフが住んでいる。この五十億のエルフを無下にするわけにもいかないし、僕は改めて今回の作戦の目的をみんなと協議することにした。
「妥当なところで、ケヘランを殺めたエルフを捕まえ、懲罰を与えればよろしいのではないでしょうか?」
ザハドの考えにはおおむね賛成だが、どうやって無力化するのか。
そして誰が懲罰を与え、管理するのか。
するとケイトがすくりと立ち上がり、自身の胸に片手をかざした。
「その役目は、私が引き受けよう……貴方達が本当に、空島の連中を無力化できるというのならな」
「OK、そういうことなら僕達には考えがある」
ケイトは今一信用ならないと言った不安げな表情を浮かべていた。
僕だって今閃いた作戦が果たして本当に上手くいくかはわからない。
けど、やる時はやるしかないし。
作戦の成否には仲間の命が懸かっているんだから、絶対にやる。
この意思がケヘランに向けた最大の供養になるはずなんだ。
「イヤップ、少しいいかな?」
「私ですか?」
◇ ◇ ◇
数日後。
「みんな、準備はいいか?」
僕たちは赤茶けた荒野に隠れ蓑をつくり、潜んでいた。
視認した限りだと、もう間もなく空島が上空を通過する。
ケヘランを弔った日から仲間と議論を重ねたけど。
僕たちは結果的に、ユタ率いる空島を電撃強襲することにした。
「オーケーだよ、お兄ちゃん、やっちゃって」
「ザハドとアオイの両名は問題なし」
みんなの覚悟をうかがうように確認を取ると、アオイが一番に肯定した。
次いでウルルやケイトも首肯し返して。
残るは、この作戦で一、二を争うほど肝要なイヤップの返事だけだ。
「イヤップ、準備いいかな?」
「……今の私は、まるで嫁入りするかのような緊張に包まれています。この作戦で未来が決まる。この作戦で迷惑掛けっぱなしだった兄を救える。この作戦で私は」
――私は、少女から女になる。
イヤップはそう言うと、藍色の目を瞬きさせた。
「お願いします、タケル」
そして彼女は僕のことを信頼するように下の名前で呼ぶ。
じゃあ、始めよう。
ケヘランの弔い合戦と、ライザとミレーヌの救出を懸けた大作戦を。
「――建城ッ!!」
僕たちの電撃強襲作戦の一手目は、この大陸にやって来て獲得した建城スキルから幕を切った。僕の怒声と共に変幻自在の城はみるみると天に逆らうよう上り、空島の前に巨大な壁として立ちはだかったのだ。
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