第81話 埋葬、だお

 流れ星のように空を落ちて、僕は見覚えのある場所にやって来た。


 この大陸にやって来てケヘランが最初に案内してくれた秘湯に。


 ……落ちた場所がここで、ちょうどよかったのかも知れない。


 ここはケヘランにとって思い出のある地だったから。


 彼女の亡骸を埋葬するには、打ってつけだと思えた。


 ケヘランはあの時、ここに自生する草花を焚いて、赤い煙を立たせていたっけな。


 ◇ ◇ ◇


「ケヘラン? 戻ったのか?」

「その声はケイトさんですか? よかった」

「タケルか、何かを弔っている様子だが、一体誰を?」


 ケヘランの埋葬をすませ、線香代わりに草花を焚くとケイトがやって来た。

 言いづらかったけど、僕は事の顛末を伝え、この墓がケヘランのものだと教えた。


「空島に行ったのか、一つ教えてくれ、カイゼルという男はそこにいたか?」

「えぇ、彼は僕らを空島に案内してくれました」

「カイゼルは私の夫だった男だ……ケヘラン同様に、今でも想っている」


 ……しかし、僕が見た限り、彼は地上のダークエルフを嫌っているようすだった。

 ケイトはケヘランに瞑想をささげると、焚いていた草花の煙を消した。


「言ってなかったが、この花はエルフに渡してはならない」

「なぜです?」

「この花には我々の記憶を消す効力があるからだ、だからここら一帯には人気がない」


 ふーん。


「ケヘランの墓地にお供えするのだとしたら、このキノコの方がいいだろ?」

「ああ、メツバキノコですか。それもそうですね」


 して、ケヘランを弔ったあとは、僕は秘湯に浸かりつつ仲間たちにDMを飛ばした。


 ケヘランが亡くなったことは隠しておき、みんなにここに集まるよう伝える。


「待たせたな、ぼうやなお兄ちゃん」


 アオイとザハドは秒で駆けつけ。


「タケル」


 ウルルとイヤップも二時間後には到着し、あとはミレーヌとライザの二人となった。


 ステータスウィンドウを開くと、ケヘランに同行していたミレーヌの生存確認は取れる。


 だが明け方になっても二人が来る様子はなかった。

 アオイが不安そうな表情で僕を起こし、杞憂を口にする。


「お兄ちゃん、もしかしてライザくん捕まってるんじゃ……」

「かもしれない、ライザを一人にするんじゃなかった」


 と言うと、ライザの妹のイヤップは兄譲りの勇ましい表情で。


「助けに行きましょう、兄さんは恐らく空島にいます。たぶん、そこに居なきゃいけない理由を見つけたんじゃないでしょうか」


 ライザは空島に居て、そこで何かを目撃した可能性が強いと第六感で言うのだ。


 アオイはステータスウィンドウを開いて、何やらごそごそとし始める。


「とすると、みんなに私が作った魔導具を渡しておくね」

「使い方のわからない道具ほど怖いものはないけどな、取説とかないのか?」

「マニュアルならザハドが作ってくれたから、それも渡すね」


 ザハド、君が魔導具の取説を作るにいたった光景が目に浮かぶよ。


「でもどうするアオイ」

「どうするって?」

「お前はサタナで最強の勇者だろうと、非戦闘員だし、今度はどこに隠れるつもりだ?」

「いや、今回は私も戦う」

「そうだな、暗黒街の地下収容所、じゃなかった、地下施設にでも隠れてろ」


 妹と水掛け論をしていると、平手打ちの乾いた音が響いた。


「同じ兄を持つ身として言わせてもらいます」


 音を上げたのはイヤップで、僕の左頬はじんじんしている。


「妹弟の成長に歯止めをかけないで」


 イヤップに反論しようと数瞬考えるのだが、言葉がでなかった。




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