第78話 気球に乗って、だお

 もつ煮定食をとった後、ゼクスについて行き、僕たちは地上へと出た。


 一週間ぶりにおがんだ地上の光景に涙がこぼれる。


「ううう、地上の光景がこんなに尊く感じるなんて」

「そうだろ」


 僕の感動にゼクスは共感しているようだった。


「僕に下った特別な任務って、なんです?」

「ある人に会ってもらいたいだけなんだ」

「ある人って?」

「僕の兄」


 ゼクスの? なんかそれって、既成事実作ろうとしてないか?

 こ、困るなぁ、僕にはウルルっていう奥さんが(棒)。


 この間もそうだったけど、ゼクスから色目を使われている気がしてならない。

 有頂天になっていた僕をしり目に、ライザは空を指さした。


「タケル、あれを見ろ」

「ん? ああえっと、気球かな?」

「気球とは?」


 気球というのは、空気よりも軽い気体を取り付けて、浮力を得て飛ぶものだ。

 この世界の気球の原理は知らないけど、地球のものだと熱気球が一番有名かな。


 ライザが指さした気球が僕たちの近くに降りると、色白い肌をしたエルフが降りてやって来た。


「お待たせ致しましたゼクス様、ユタ様がお待ちです」

「うん、行こうタケルにライザ」


 まさか気球に乗るの? ゼクスのお兄さんってどこにいるの……嫌な予感がする。しぶしぶ気球に乗り、空へと浮かび地上が遠ざかっていく間、ゼクスにアオイはどうしてるのか尋ねた。


「彼女だったら、首長達と連日交渉してるみたい」


 ほほう。


 して、僕たちを乗せた気球は上空三千メートルまで浮かぶ。

 ここまで高度になると、作業服を着ていても肌寒い。


 まるで王都の冬みたいだ。


「タケル、見ろ」


 若干震えていると、ライザが後方を指さした。

 そこには悠然と空に浮かぶ島が迫って来ていて。


 僕には、この時のことを生涯忘れないと誓う事件が待ち受けていた。


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